9-12 九条沙織VS二ノ宮恋
鳳女学院 茶道部同門・九条沙織さんと二ノ宮恋ちゃんは対戦台を挟んで向き合った。
「ふふふ」
「えへへへ」
ふたりは笑っている。気が触れたわけではない。
「いちど本気の恋ちゃんとやってみたいと思っていました」
「ボクも九条さんに勝ってみたい。手加減しないでね」
九条さんはグローブをはめなおした。
「妹が相手でも手加減しない。それがあたくしの矜持」
「ボクのこと妹って呼んでくれるの? お姉ちゃん」
恋ちゃんは戸惑った表情で彼女を上目遣いに見た。恋ちゃんは姉のように九条さんを慕ってきた。彼女が芸能人になっても格闘ゲームをやめなかったのは九条さんとの絆だから。周知の事実だ。想いが報われた瞬間だった。
ふたりは無言で席についた。
試合開始。
九条さんは女性魔法剣士ラウニィ。恋ちゃんはアストリア。創竜刀を装備していないバージョンである。恋ちゃんにとってはノーマルアストリアのほうが使い勝手が良いらしい。
ラウンド開始直後、ラウニィは飛び道具の『エレガンス・ニードル』で攻撃する。恋ちゃんは読んでいた。大ジャンプで『エレガンス・ニードル』を飛び越し、技の硬直が解けていないラウニィに襲いかかる。
ジャンプ強パンチ→立ち強キック→『ラッシング・エッジ』→(ダッシュで追いかけて)立ち強パンチ→『ソード・テンペスト』!
悲鳴とともにダウンした彼女に起き攻めを仕掛けるアストリア。すでにラウニィのライフは三分の二に。
九条さんピンチ! ラウニィの起き上がりにガード方向を上下二択に揺さぶるアストリア。
ラウニィはしゃらくさいとばかりに全身無敵の攻撃判定を持つバーストでアストリアをはじく。ここからラウニィの怒涛の反撃がはじまった。
吹っ飛んだアストリアに『エレガンス・ニードル』を直撃させる。ラウニィは彼をダッシュで追いかけて追撃。立ちCから突進必殺技『ノーブル・ブラッド』、さらにEXキャンセルから超必殺技へ繋ごうとコマンドを入力した。
そのとき、こんどはアストリアがバーストでラウニィをはじく。
ラウニィの超必殺技は不発に終わり、ゲージまで空になってしまう。ふたたび九条さんがピンチに。
さすが恋ちゃん。九条さんをここまで追い詰めるなんて。護国寺先生もチーム編成時、最後のメンバーを九条さんにするか恋ちゃんにするかで悩んだという。
アストリアの超必殺技『不死鬼覚醒』が発動。画面が暗転する。
恋ちゃんは全一〇段の連続入力コマンドを恐るべき精度で入力していく。
ゲージを使い切ったラウニィは防御するしかなかった。必殺技の削りダメージでライフが減っていく!
『不死鬼覚醒』を八段目で止めたアストリアは大幅に有利な体勢である。そこから通常技のしゃがみAへつなぎコンボを永続させようとする。
「待っていました。このときを!」
九条さんが叫ぶと同時にラウニィは前転。紙一重でアストリアの攻撃を躱す。
ラウニィは低空ジャンプから強キック! そこから空中必殺技『ラグナロク・ウェーブ』が発動。ラウニィの魔剣からビームが降り注ぐ。
必殺技をヒットさせたことでゲージが溜まった。着地と同時にラウニィの超必殺技『ノブレス・オブリージュ』が発動。画面が暗転する。
魔剣が五芒星を描く。直撃したアストリアは超必殺技KOした。
「恋ちゃん……」九条さんは申し訳なさそう。「あなたは不死鬼覚醒を八段目で止めて通常技につなぐ癖がありました。あたくしはそれを知っていた。あなたと闘う日が来る予感があったあたくしは対策を練っていたのです」
「九条さん。ありがとう。手加減しないでくれて。試合が終わったらもう一度お姉ちゃんて呼んでいい?」
恋ちゃんの瞳が涙の膜で潤い、いまにもに溢れそう。
「ええ。ええ! 承諾いたします。これからの人生でずっと」
不器用な九条さんにとってこれが最上位の愛情表現だった。彼女も瞳を歪め、涙がこぼれないように必死だ。
「お姉ちゃん!」恋ちゃんは立ちあがった。泣いている彼女は美しかった。照明に照らされた涙滴が人魚の涙のごとく、宝石のように輝いている。
「いまはだめです。まだ戦いは終わっていないのだから」九条さんはキッとした眼差しで恋ちゃんを睨む。
「うん、九条さん。わかったよ」恋ちゃんも自軍へ戻る。
この戦いは勝抜戦。九条さんは席を立たず、ペチュニアさんチームの村雨さん連戦することになる。
つづく
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イラストレーターはイナ葉さま(Xアカウント@inaba_0717)
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