9-9 世界大会第一戦 前半
「レンコンさんチーム(姫川天音・九条沙織・鳴海千尋)には折笠さん。
ペチュニアさんチーム(二ノ宮恋・黒咲ノア・村雨初音)には七瀬さんとひかり先生にサポートしてもらいます。
出場者は五○○人ほど。世界大会の出場者としては少ないほうです。GEROは小規模の世界大会なので妥当な数です。
トーナメントで九回勝てば優勝です。よろしいか。GEBOで実績のあるメンバーが含まれるレンコンさんチームはシード枠です」
九条さんが仕切る。
「ごめんね。恋ちゃん、ノア、初音」
姫川さんが申し訳なさそうな顔をした。
「強いメンバーを集中させるうっしー先生の判断はトゥルーです。(ノア言語で正しい)でもボクは勝ちますよ」
ノアちゃんは右目の眼帯を持ちあげて不敵に笑う。
「ノア。そう言ってもらえると助かる」
「レンコンとペチュニアは……準々決勝で当たるわ」
折笠さんが誰にともなくつぶやく。沈黙が場を支配する。
「負けませんからね。お姉さま!」
村雨さんが頼りないガッツポーズをつくる。
姫川さんは彼女のガッツポーズに腕を絡ませた。
「準々決勝で逢えたら特大のご褒美あげる」
「本当ですか⁉ 嬉しすぎておしっこがでるところでした」
「うれしょん⁉ はしたないわよ!」
「冗談です」
「村雨さんがいうと冗談に聞こえないのよ」
折笠さんが眉根をひそめた。
「さあ、行こう!」
姫川さんは天を指す。彼女は世界の頂を示している。
行こう。この人について旅をしてきた。貴方がまぶしい。目がくらむほど。それももうすぐ終わる。終わってしまう。
これほどまでになにかを極めたことがわたしの人生であっただろうか。最後にこの女性の隣に立てたことはわたしこと鳴海千尋の一生の誇りになるだろう。
それが世界の頂なら! わたしも世界のすべてを手に入れられる!
姫川さんは去年の一一月に余命宣告を受けた。すでに期限は過ぎている。彼女は試合中にも落命するかもしれない。最後の戦いがはじまる。
【世界大会第一戦】
世界大会GEROシード枠第一戦の相手はカナダ人チーム(マーティン、スミス、ブラウン)
「きみたち、可愛いね。女の子が格闘ゲームするなんてすごいね! ぼくたち日本のアニメが大好きで日本語を勉強しているんだ。試合が終わったら連絡先交換しない?」
マーティンがにやけた顔で話しかけてくる。
わたしは困惑した。この人たち日本になにしに来たんだろう。
姫川さんはダイヤモンドマスクで応えた。
「ノーサンキュー。九条さん、千尋。あたしが一番槍でもいいかな」
「あら。梅雨払いしてくださるの、姫川さん。神聖なる格闘ゲームの試合でナンパをするとは何事か。軽蔑の極みです。全力で屠ります」
九条さんは氷の女王さながらに言い放つ。
とうの本人たちは、「この子たち、なんて言っているのかな」などと英語で話していた。
初戦。姫川さんは創竜刀アストリア。マーティンは死体回収屋ライナスを使用キャラクターに選択した。
GEROの公式ルール、三対三の団体戦モードはラウンド数一の勝抜戦。
一瞬の油断が命取りである。またラウンド数が少ないので必殺技ゲージの使いどころが決め手だ。闘う順番は試合前に決める。また、全試合を通して持ちキャラクターの変更は認められていない。
死体回収屋ライナスはつぎつぎと『サモン・スケルトン』で死体を召喚する。合間で飛び道具の『ショック・ウェーブ』を放ってけん制。さすが世界大会に出場する腕前である。
創竜刀アストリアは必殺技の『オーラショット』でライナスの攻撃を相殺。さながらシューティングゲームの様相である。お互い必殺技ゲージはMAX状態に。
ライナスは超必殺技『サクリファイス』を発動! 画面が暗転する。無数の魑魅魍魎が出現してアストリアに襲いかかる。
姫川さんは見切っていた。下段から出現した悪霊を躱して大ジャンプ! その軌道は悪霊の隙間を縫うように飛躍する。技の硬直が解けていないライナスを強襲!
飛び蹴りがヒット! 着地後に怒涛の攻勢! しゃがみA連打→しゃがみB→立ちA→立ちC→(キャンセル)『ラッシング・エッジ改』→『オーラブレード解放』→(ダッシュで接近)『創竜刀・一閃』(気絶)→立ちB→立ちDでKO!
華麗な連続技にライナスはバーストで切り抜けるのも忘れてしまった。
マーティンは女子に負けてしまったことがショックで開いた口が塞がらなかった。彼の仲間たちもわたしたちを侮っていたことを自覚したみたい。
後半へつづく
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