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聖少女暴君  作者: うお座の運命に忠実な男
余命一年のヒロイン編 第九章 クライマックス! 世界大会GERO
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9-8 エンジェルズ・フェザー

 世界大会GEROの会場への通り道に神社さまがあった。花園神社さまだ。まだ開場まで時間があるのでお参りすることになった。週末日曜日には骨董市が開かれているという。


 手水屋で手口を清め大きな拝殿で手を合わせる。外国人の参拝者が物珍しそうに写真を撮影していた。


 境内に芸能浅間神社さまという摂社があった。芸能浅間神社さまの御祭神は日本におけるあらゆる芸能の神、木花之佐久夜毘売(このはなさくやひめ)


 役者や声優志望者の願い事が絵馬にしたためてつるされていた。奇しくも九条沙織さんが信奉している女神だという。


 樹々の間から朝日が差しこみ社に木漏れ日を落としていた。神聖な空気が漂っている。こちらでも手を合わせた。


 そのとき一枚の白い羽が空中から舞い降りてきた。それは村雨さんの手のひらに収まった。


「どこから落ちてきたのでしょう。鳥さんの姿は見当たりませんけれど……」


「神社で鳥の羽を見つけることはとても良いサインなのよ。今日はハットトリックね!」

 ひかりちゃんはスピリチュアルに詳しいみたい。


「サッカーじゃないし!」

 恋ちゃんがまた突っ込む。


 出口で村雨さんが一礼したのでみんなそれに習った。


 ほどなく会場に到着した。日本で世界大会が開催されるなんて最初で最後かもしれないし、三年生組はこれを機に引退する。わたしが足を引っ張ったら取りかえしがつかない。 


 そして天文部時代からのメンターである護国寺先生はこの場にいない。


「緊張してきました……」


「鳴海さん、呼吸よ。深く吸って。一秒止めて、七秒かけて吐く。繰りかえして」

 

 ひかりちゃんの指示に従うと血中アドレナリン濃度が下がっていく。村雨さんも倣った。彼女もあがっていたのだろう。


「ひかりちゃん、すごい。さすがスクールカウンセラー」


「うふふ。褒めてもらえて嬉しい」

 彼女は目を細めた。


 受付でエントリーを済ませた。日本で開催されるゲームの世界大会GERO。


 種目には最新アーケードゲームだけでなく、十数年前に販売された家庭用ゲーム機の格闘ゲームや、パズルゲームまで選ばれていた。


 現在では中古しか取り扱いがないタイトルをゲーマーは大切に保管して遊びつづけてきたのだ。今日は開催二日目。メディウム・オブ・ダークネス決勝トーナメントが行われる。


 受付の女性からトーナメント表を渡される。

 なんと! 芸能人である二ノ宮恋ちゃんには雑誌記者の取材スタッフが付き添う。


「泣いても笑っても今年最後のイベントだよ。肩の力を抜いていこう。デドックス、デドックス」

 姫川さんは世界の大舞台でも飄々としている。


「リラックスでしょう、ヒメ。微妙に意味が合ってるけど」

 折笠さんの指摘が入る。


「お笑いの試合だったのね」

 ひかりちゃんの誤解がさらに悪化した。


 姫川さんと折笠さんのいつものやり取りに緊張もほぐれてきた。姫川さんは一同を振りかえり、長文で語りだした。

挿絵(By みてみん)


「鳴海千尋。いままであたしのわがままに付き合ってくれてありがとう。あなたが天文部に入部したことで物語は動きだした。わたしたちの歯車の中心にいるのはあなた。

 九条沙織。ライバルであるあなたと最後に組めて嬉しい。

 二ノ宮(れん)。芸能活動をしているのに格闘ゲームまでして、でもあなたはいままでで一番輝いている。初音とノアをよろしくお願いします。


 村雨初音。小説家であるあなたをあたしのわがままにつき合わせてしまったこと、埋め合わせがしたいと思っている。二足の草鞋を履いているあなたの負担が一番大きかった。本当によく頑張っている。


 黒咲ノア。はじめて会ったとき、やばいやつだと思った。けれどつき合ってみると素直で良い子だった。来年は天文部の主力メンバーだよ。


 七瀬一葉(いちよう)さんもペチュニアさんチームのサポートよろしくお願いします。ついでにひかりちゃんもね。


 そして折笠詩乃(しの)。あなたがいなければこの物語はべつのものになっていたと思う。感謝してもしきれない。あたしのマブダチ。


 あたしはもうひとりで雪山を登るヒョウじゃない。仲間を知ってあたしは弱くなった。


 もう孤独な、あの夜(・・・)には戻れない。暗闇に怯える少女になってしまった。

 そして、いまのガッコの天文部でそれ以上に価値のある星座を見つけた。その星座の名前は絆、信頼、寛容さ、友情、笑顔、そして愛。誰かと同じ刻を共有するかけがえのない瞬間。あたしは世界のすべてを手に入れた」


 誰からともなく一同拍手した。


「マスター、感動しました! 聖少女暴君完!」

 ノアちゃんが右目の眼帯をとって涙をふく。


「こらあ! キング牧師に匹敵するあたしの演説をだいなしにするな!」


「キング牧師とご自分を比較しないでください。まあ、ちょっとは感動しましたけど」わたしこと鳴海千尋はほっぺをかいた。


「千尋まで……」

「うそですよ。感動しました」


「世界はそんなに狭くないわよ」

 ひかりちゃんは満面の笑み。


 その場にいる女子全員が微笑んでいた。


「ヒメ。あなたはふしぎな女性。あなたは関わった人間をむりやり変えてしまう。ときに聖少女として、ときにわがまま暴君として。やっぱりあなたは真の聖少女暴君。聖少女暴君は空気感染するの。わたしたちはあなたに冒されてみんな変わってしまった。責任を取ってくださるかしら? 姫川天音さん」


 折笠さんは生涯ではじめて彼女のフルネームを読みあげた。その顔はいじわるそうな、それでいて桜の花びらが開花したような笑みだった。


「世界の大舞台で最後の華を咲かせましょう」

 姫川さんはそれに応えて天をさす。彼女の微笑みに、わたしたち全員が太陽に照らされた花のような心地よさを感じた。


 この女性の背中をずっと追いかけてきた。最後まで追いつけなかったけれど、肩を並べて闘えることを誇りに思う。


 あがり症でおどおどしていたわたしはどこかへ行ってしまった。去年に四月にこの女性に出会ってからわたしの運命は大きく動きだし、その大車輪はわたしの中身を入れ替えてしまった。


 いまの自分を心から大好きだと言える。きっとわたし以外の人もそうだろう。彼女の聖少女暴君がわたしにも感染してしまったようだ。


 いつも振りまわされてばっかりだけど、充実した毎日は中学時代とは比べものにならない。彼女と出会えた幸運と、これから起こることに後悔はない。試合開始時間が迫っていた。



つづく



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イラストレーターはイナ葉さま(Xアカウント@inaba_0717)

無断転載・AI学習禁止です。


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