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聖少女暴君  作者: うお座の運命に忠実な男
余命一年のヒロイン編 第九章 クライマックス! 世界大会GERO
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9-7 相似形の悪夢(ナイトメア)

【鳴海千尋 視点】

 世界大会GERO当日。引率の護国寺先生が問題を起こして謹慎処分になったニュースがもたらされた。


 わたしこと鳴海千尋はセカイが壊れるオトを聴いた。

 セカイが壊れるオトはまったくの無音。

 それでいてなにもかもが崩れ落ちるようだった。


「うっしー、もしかして失職するんじゃ……」

 姫川さんですら恐惶して声が震えている。


「そんな……! ここまで来て護国寺先生不在で戦えっていうんですの?」

 九条さんも冷静さを欠いて激情的になっている。


「落ち着け……。どうすれば、どうすれば……」

 折笠さんはひとりでブツブツつぶやいている。


 二ノ宮恋ちゃん、黒咲ノアちゃんも事態が呑み込めず血の気が引いていた。


「いやああああ!」

 村雨さんが悲鳴をあげて泣き崩れた。


「あなたたちは彼からなにを学んできたのですか? 彼は教え子を自らの力では羽ばたけないひな鳥にしたのですか?」

 スクールカウンセラー小山ひかりちゃんはわたしたちを一喝した。


「でも先生が……!」


 ひかりちゃんは微笑んだ。わたしたちの不安を吸収するように。その嫣然たるさまが生徒たちに慕われるゆえんなのだ。


「彼はあなたたちに慕われていたのですね。大丈夫。彼はわたしが救います」


「どうやって⁉」

「魔法よ」

「ふざけないでください」


「ふざけてないわ。本気よ。魔法少女ひかりちゃんなんだから。この件は三日以内に解決します。保証します」


「信じていいんですね」


「もちのろんろん♪ 国士無双。もう会場に移動しましょう。今日はわたしが同行するから。みんなホームランよ!」

※ろんろんと麻雀をかけている。


「野球じゃないし!」恋ちゃんが叫んだ。彼女は困り笑顔。


 ひかりちゃんとのやりとりでメンタルに穏やかな波が広がっていくようだ。さすがスクールカウンセラー。


 わたしたちは西武新宿駅をでて会場へ向かった。


「彼を見直したって、ひかりちゃんはうっしーとよりを戻すんですか」

「ひ・み・つ♡」


 悪女……! 一度は護国寺先生をどん底につきおとし、こんどはきまぐれに彼を救うファム・ファタール。だが、順番が逆でないことがわたしたちにとって幸運である。


 赤暗色に光る瞳で村雨さんがひかりちゃんを睨んでいる。折りたたみ傘でひかりちゃんを殴ろうとしている。それを九条さんと折笠さんが必死に止めていた。


 ひかりちゃん、後ろー! 教師×生徒×スクールカウンセラー、戦慄の三角関係である。




 村雨さんの餓狼のような興奮が収まってから、折笠さんが責めるような口調でひかりちゃんに話題をふる。


「去年のクリスマスにひかりちゃんは護国寺先生のことをこっぴどく罵ってたよね。わたしたち、あの現場にいたんです」


「あら、そうだったのね。スクールカウンセラーになるためには大学院で臨床心理士の資格を取らなければならないのだけど……。

 わたしね、奨学金の返済が終わってないの。親が生活保護を受けていた。貧困から抜けだすために血のにじむような努力をしたわ。

 昼間は大学生、夜はキャバクラで水商売。中年男に酒を注いだりしたわね。もうあの夜には戻れない。わたしと同じような想いをする生徒を生みださせないためにスクールカウンセラーになったわけ」


 それでひかりちゃんは収入の低い男を憎むようになったのか。あのときはひどい女性だと誤解してしまった。


「その優しさを十分の一でもうっしーに向けてほしかったけどね。彼が学生だったら、ひかりちゃんは守りたいって思ったはず。

 勝手に話していいことじゃないけれど、彼は機能不全家族で苦労したのよ。彼も同じ台詞を言っていたわ。『もうあの夜には戻れない』と。彼とひかりちゃんはきっと親友になれる。

 わたしたちはみんなうっしーの味方です。わたしたちは彼より誠実な大人を知りません。生徒のためにいつも貧乏くじをひいている彼のことが大好きです」


 折笠さんが護国寺先生をかばった。彼に対して憎まれ口も言うけれど、師弟愛を感じていたようだ。それを聞いていたわたしは胸が熱くなった。


「そうだったのね。彼は社会人なので、厳しく判定しました」


 ひかりちゃんの表情が一瞬硬くなった。彼に対して別種の感情が生まれ、彼の過去を想像して自分の影を重ねているのだろうか。


 ふたりの過去は相似形の(シミラリティ)悪夢(ナイトメア)だったのだ。


「彼に謝罪してください」

 折笠さんは毅然としてひかりちゃんを正視した。わたしたちコトジョ天文部メンバーは彼女を中心に整列した。


 わたしたちの影に鳳女学院茶道部組も加わった。合宿で寝食をともにした先生の為人(ひととなり)を理解した彼女たちもわたしたちの味方だった。


「こうしましょう。あなたたちが今日の大会で優勝したら彼に謝罪するわ。忘れないで。わたしはあなたたちの味方よ」


 ひかりちゃんは瞬きした。彼女は天文部メンバー全員の視線を受けとめてなお山脈に匹敵する余裕がある。ただものではない。


「その言葉、忘れないでくださいね」


 姫川さんの瞳が一層輝きを増した。彼女のアクアマリンは感情に正直だ。


 わたしにはわかる。姫川さんは闘志に燃え、脳細胞は活性化してフルスロットルで今日の大会に臨むだろう。


 奇しくも護国寺先生の不在が彼女の潜在能力を活性化させたのだ。

 



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