9-4 みんな集まれ! 楽しい合宿です
二年生の修学旅行が終わった一一月中旬。来月に迫った、日本で開催される格闘ゲームの世界大会GERO。
そのために鳳女学院のメンバーとの合同合宿が行われることになった。コトジョのeスポーツ部員四名と鳳女学院茶道部メンバーふたりの計六人でエントリーする。
護国寺先生のお姉さんの物件で合同合宿する。九条さんたちがわざわざ都内に来てくれるので駅まで迎えに行った。
eスポーツ部のメンバー、部長である姫川さん、副部長である折笠さん。村雨さん、わたしこと鳴海千尋と一年生の黒咲ノアちゃん総勢五人と、引率の護国寺先生は西武新宿駅で彼女たちと合流した。
電車を降りた九条さんたちはいつものように制服姿だった。九条さんは長髪黒髪お姫さまカット。指を冷やさないためにつけている指ぬきグローブがトレードマーク。
連れの七瀬さんはネコ好きで絆創膏がトレードマーク。二ノ宮恋ちゃんは芸能人としても活動しているとびきりの美少女。一人称が「ボク」の絶滅危惧種。
「九条さん、今日も制服なんだ」
姫川さんが笑顔で歓迎する。
「ごきげんよう。姫川さん。いつぞやの文化祭では不躾なことをいたしました」
「あたしは気にしてないよ」
「そう仰っていただけますと幸いです。こちらの殿方を紹介していただきたいのですが」
「そうだね。こちらeスポーツ部の顧問である護国寺牛次郎先生」
※作者註 護国寺と鳳女学院茶道部メンバーは昨年のペルセウス座流星群観測の温泉回ですれ違っているが、全員忘れています。
「おれは琴流女学院で国語教師をしています。天文部とeスポーツ班の顧問も兼任しています」
「護国寺牛次郎! なんと漢らしい名前か! 見れば見るほど良い男だわ」
九条さんは視線で犯すかのように先生を観察している。
「本気で言ってるの。九条さん」姫川さんは狼狽した。
九条さんは先生のほほにキスした。
「わーっ、なにをするんだ! 未成年淫行で捕まる!」
「あたくしは本日一八歳の誕生日。成人しましたわ。未成年淫行にはなりません」
「九条さんは美しいと認識したものにキスをする癖があるんだ」
恋ちゃんの解説が入る。
「キス魔ね」
折笠さんがかたちの良い眉毛を変形させる。
「うっしー、ラッキースケベじゃん」
姫川さんが目を細めてからかう。
「童貞には刺激が強かったかしら」
折笠さんが拍車をかける。
「おまえら~! 今日ほどおまえたちを憎たらしいと思ったことはない」
「この場にいる全員にキスしてもよろしくてよ」
九条さんは恬然として恥じない態度である。
「淫乱か!」折笠さんが驚嘆する。
「失礼ね。貞操は固いほうです。欧米では親愛のキスはあたりまえの常識。日本人はスキンシップが足りないのです」
「わかるぅ」
姫川さんはロシア人クォーターとして九条さんの発言に共感した。
「護国寺先生はわたくしの夫です!」
村雨さんが宣言する。
「真実ですか?」
九条さんが問う。
「断じて違います!」
護国寺先生は断言した。
「そんなあ……」
村雨さんは慨嘆して崩れ去った。
「いつものことだから放っておきましょう。移動しながら話そう。そして九条さん、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
姫川さんの指示で護国寺先生のお姉さんのお宅へと移動する。だいぶ村雨さんの扱いが雑だなあ。村雨さんもめそめそと涙をぬぐいながらついてくる。ひどい……。
先生をふくめたコトジョ組六人と鳳女子三人の合計九人の大所帯は移動しながら会話した。
「申し遅れました。あたくしは鳳女学院元生徒会長の九条沙織です。こちらは七瀬一葉さんと二ノ宮恋ちゃん」
九条さんが先生に自己紹介した。
「九条さん生徒会長やめたの?」
「引退ですわ。茶道部部長も生徒会長も。卒業後は実家の温泉宿を継ぎます」
「そうなんだ。寂しくなるね。七瀬さんも恋ちゃんも」
姫川さんが気遣った。
「しんみりするのはやめましょう。まだ祭りは終わっていません」
「祭り……?」
「青春時代最後の祭りです。あたくしたちは祭りで最高の華を咲かせなければなりません」
それは世界大会を優勝することを意味していた。
「九条さん、よろしくてよ」
姫川さんは彼女と握手した。
「そろそろ着くぞ。馬子姉さんが待っているはずだ」
先頭を歩く護国寺先生が一同を振りかえった。
「牛次郎!」
手を振っている背の高い女性がいる。身長は一七〇センチメートル以上あるだろうか。性別は違えど護国寺先生の面影がある女性が声を張りあげた。口に禁煙パイプを咥えている。
彼女が護国寺先生の姉、西園寺馬子だ。
つづく




