9-2 オンライン予選
先生が話を引き継いだ。
「部長のことは世界大会が終わってからでもいいだろう。みんなのオンライン予選通過を祈っている。そのカギは平常心。相手の土俵で闘うな。自分の土俵にひきずりこめ。
いままでの努力はおまえたちを裏切らない。自分を信じて予選を受けてほしい。勝負は時の運。予選で優勝者とあたることもある。結果がどんなものであってもおれは責めない」
わたしもふくめて皆から笑みがこぼれた。
「なにがおかしい」
「ヒメと同じこと言ってるんだもん。やっぱりヒメの師匠ね」
折笠さんの微笑みはとても柔らかかった。
「師匠の師匠は最上位の師匠。すなわちグランマスターです」
【ノア言語による造語】
「ノアはほっといて。みんな肩の力を抜いて。そのほうがうまくいくから」
姫川さんがミーティングを締めくくった。
日本で開催される小規模世界大会GEROのオンライン予選の翌日。
eスポーツ部の部室には姫川さん、折笠さん、村雨さん、黒咲ノアちゃん、そしてわたしこと鳴海千尋がいる。
折笠さんが開口一番わたしたちを失望させる発言をした。
「わたしは昨日ヒメと一緒にGEROのオンライン予選を受けたの」
「結果はどうなったんですか⁉」わたしは興奮で声を荒らげる。
「ヒメは通過。わたしはだめだった」
「そんな……! 副部長である折笠さんが予選通過できないなんて……」
村雨さんの声が平穏を失っている。
「MODはプレイ人口が増えたことでプレイヤー全体のレベルも上がっているみたいね。わたしはサポートにまわるから。みんなごめんなさい。副部長失格だわ」
「そんなこと言わないで、詩乃。あなたらしくないよ。先生が来たらひとりずつオンライン予選の結果を発表してもらうから」
姫川さんの表情は真剣だった。
「ちょっといいですか? ボクは昨日自宅でオンライン予選を受けて通過しました」
黒咲ノアちゃんが小さく挙手した。
「ノア。やるわね」
「へへへ。光の騎士ですから」
「わたし通過しましたよ。一番ひやひやしたのは無線LANの回線速度でした」
わたしこと鳴海千尋は頭を掻きながら告白した。
「すごいじゃない。千尋」
「えへへ」
「ネット回線不安定ならわたしに言ってくれればポケットWi-Fiの手配したのに」
「折笠さん、その気持ちだけ受け取ろうと思います」
みんなの視線が村雨さんに集まる。村雨さんは部内の対戦記録でも最下位であり、予選通過が一番の障がいなのは暗黙の了解だった。
「わたくし……、わたくしは通過しました」
彼女と知り合って一番の笑みがこぼれた。
「お姉さま、わたくしの頭を撫でてください。お姉さまのためにがんばりました」
ここぞとばかりに村雨さんは姫川さんに甘えている。
「よくやったね。初音」
姫川さんは彼女のリクエストに応えた。
「口づけも……。むちゅう」
村雨さんはくちびるをタコのようにすぼめた。
「それはだめ!」
「しょんにゃー!」
村雨さんは幼児帰りしてしまったみたいだ。
「うちらってさあ、コント部にしたほうがよかったんじゃない? 一年中ボケ倒しているわ」
「詩乃。それは言わない約束でしょう」
「おれだ。入るぞ」
顧問である護国寺先生が入室して結果を共有した。
「そうか。四名も通過したか。素晴らしい実績だ。折笠、気にするな。オンライン対戦はお互いに初見で闘うことになる。じゃんけんで負けたようなものだ。姫川、鳳女学院組と結果は共有したのか」
「うん。九条さんと恋ちゃんは予選通過。七瀬はだめだったって」
「鳳組は三人一組に欠員がでたな」
「そうだね。うちらの予選通過者は四名。ちょうどいいよ。ひとり貸す」
コトジョ組と鳳女子の予選通過者の合計は六人。GERO本戦は三人一組の勝抜戦となる。奇しくも人数的に帳じりが合った。
いよいよ世界大会にむけて鳳女学院の九条さんたちとの合宿が迫っている。その合宿で最後の特訓を行うのだ。そのまえに二年生は修学旅行が予定されている。
つづく
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イラストレーターはイナ葉さま(Xアカウント@inaba_0717)
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