7-5 護国寺牛次郎のお姉さん! 馬子!
姫川さんはパーカーのポケットからスマホを取りだした。
【九条さん、お疲れさまです。姫川です。うちの顧問が打ち合わせしたいと言っているよ】
【姫川さま。錦秋の候、貴公ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素はひとかたならぬ御愛顧を賜り、ありがとうございます。
打ち合わせの件、OKです。あたくしも打ち合わせが必要だと感じておりました。
敷いては祝日をふくめた三連休に都内まで赴きたく存じます。GEROの予選が終了している一一月が良いと考えました。御承知いただければ、都内にホテルを予約いたします】
「うっしー。こっちに泊まるって言ってるよ」
「それは悪いな。姉さんに相談してみるか」
「お姉さん? うっしーにお姉さんいたの?」
「馬子だ。午年生まれの馬子姉さんだ」
「かわいそうに……。ネーミングセンスって知ってる? いじめられなかった?」
「そのことは言うな。暗黒の扉が開く!」
「わたくしたちの子どもは愛のある名前にしましょうね」
村雨さんが眼鏡をただす。
護国寺先生はため息をもらした。
「姉は不動産に詳しい。格安で泊まれるホテルがないか姉にRINNEしてみる」
「わたくしの求愛を無視しないでくださいまし!」
村雨さんはハンカチをかんだ。
「初音、愛は追いかけるほど答えがわからなくなるんだよ」
姫川さんが人生の達人のような発言をした。
「深いわね。メモしとこう」
折笠さんが手帳を取りだした。
【馬子姉さん、お久しぶり。こんど別の学校の生徒と合宿する場所が必要なんだけど、安いところ知らないか?】
しばらくして返信があった。激怒のスタンプがひとつ。続いて長文。
【牛次郎。馬子って呼ぶなって言ってるだろうが。ぶっ転がすぞ、てめー。削除してやり直せ。カタカナ表記にしなさい。話はそれからだ】
先生は頭を押さえた。そしてスマホに向かってポチポチと打ち込んでいく。内容はさきほどと同じである。
【マコ姉さん、お久しぶり。こんど別の学校の生徒と合宿する場所が必要なんだけど、安いところ知らないか?】
【やっほー! 久しぶり。連絡くれて嬉しい! 安い宿を探しているの? みんな女子高生? おれの部屋に泊まればいいよ。ただで泊めてあげる。ぐへへへ、現役女子高生の吐く息を吸ったらおれも若返るかな】
先生のスマホをのぞき込んだ姫川さんの顔は引きつっていた。
「お姉さん、サイコパスとかじゃないよね。自分のことおれっているけど、女性なの?」
「生物学的には女性だし、本人の認識も女性だ。一人称は『おれ』だが」
「ぐへへへって。襲われたりしない?」
「それは大丈夫だ。これでも社会人として生活しているからな。話を進めていいか?」
「待ってね。九条さんにも共有する」
……九条さんからの返信が来た。
「いいって。お姉さんの部屋広いの?」
「3LDKだ。結婚もしている」
「ちなみにうっしーの部屋は?」
「1DKだ」
「あっ、はい。済みませんでした」
「謝るな! バス・トイレ別だし、家族だっている」
「不倫⁉」女子全員が叫んだ。
「姫川と折笠が去年の誕生日になぎの木をくれただろうが」
「……うっしー。うっしーは良い人だね」
「そうよ。良い人じゃなかったらプレゼントなんてあげないもん。わたしはお高い女なんだから」
折笠さんが三つ編みのおさげをもてあそぶ。
「良かったです。不倫だったら護国寺先生と刺し違えなければいけませんでしたから」
村雨さんが胸をなでおろした。
『怖い……』
護国寺先生を含めた天文部メンバーのセルフトークが一致した。
馬子さん、九条さんの話がまとまり、来月一一月中旬に合宿することが決まった。
そしてもう文化祭が間近である!
「いいね」や「お星さま」、ブックマークで応援していただけますと嬉しいです!ご感想お待ちしております。




