7-3 ショック! わたしが一番成長していない
つぎは折笠さんの番だった。
折笠さんは神凪マハルを選んだ。
護国寺先生は盗賊のアルフレッドを選んだ。大会ではあまり使用されないキャラクターだ。
第一ラウンド。アルフレッドは小技を上・中・下段に打ち分けて連打する。
神凪マハルの当身技『女王の結界』はほとんど不発に終わった。
当身技を諦めた神凪マハルは必殺技の『ものども! 〇ってしまえ!』で攻めた。
無数の兵士が画面外から登場してアルフレッドに突撃する。
だが、アルフレッドは姿を隠す『ステルス・ウォーク』で画面から消えてしまった。
ふいに飛び蹴りをくらったマハルの悲鳴SEがこだまする。
アルフレッドの超必殺技『これがおれの本気だ!』が炸裂。
盗賊の七つ道具を利用したロープ・マジックで神凪マハルは坂さ吊りになりKOした。第二ラウンドも終始アルフレッドのペースで護国寺先生が勝利した。
「折笠。当身技を実戦で極めるには読みが重要だ。そして達人になるほど、当身キャラへの対策を持っている。GEROの予選までに死ぬ気で対戦しろ。
オンラインでもいい。録画して勝った試合がなぜ勝てたのか、負けた試合はなぜ負けたのか、研究するんだ。おれも協力する」
そしてわたしこと鳴海千尋の番。
わたしは持ちキャラのキース・ストライダーを。先生はふたたびアサシンのグルガンを。わたしがGEBOの準決勝で敗北したキャラクターだ。
キースは飛び道具を持っていない投げキャラクター。接近しないと真価を発揮できない。飛び道具を持たないのはグルガンも同じだが、彼はインファイトと空中戦が得意。わたしは翻弄されてしまった。
グルガンの戦術はまるでGEBOの準決勝をトレースしたよう。
隙の少ない通常技を上下に揺さぶりながら連打し、一ヒットから必殺技へ移行。『アサシン・ストライク』→『セカンド・ストライク』→『サード・ストライク』→(空中へ吹っ飛んだキースに)『ドリル・トレイン』→着地と同時に超必殺技『絶命弾』!
先生はコントローラーを置いた。
「鳴海さん。はっきり言う。きみが一番成長していない。同じ連係をなんども喰らうようでは絶対に韓国人プレイヤーの朴には勝てない」
わたしの体を音のない衝撃が走った。先生はつづけた。
「朴のもっとも得意とする戦術は小技でガード方向を揺さぶって連続技につなぎ、コンボを持続することだ。大丈夫。きみはひとりじゃない。みんなでこの連係を打ち破る方法を考えよう」
「先生……!」
わたしの心に一条の光がさした。
護国寺先生との対戦は村雨さんの番。
村雨さんは新キャラクターのノベリスト银月暁を選ぶ。先生は村雨さんが以前使っていた法のアークメイジ紗良・ファーレイ。
試合開始とともに紗良はつぎつぎに式神を設定していく。『炎雷符』『風水符』『土木符』『天地符』そして超必殺技『四神降臨』!
四神降臨はガード無効。银月暁は大ダメージを受けたが、同時に暁の超必殺技『良い女はうそをつくのが上手いのです』が発動。
エージェントとして覚醒して基本性能が大幅に強化される。
必殺技も変化してなんとプロレス技にチェンジ。空中から『ムーンサルトプレス』が紗良にヒット。
気絶した紗良に超必殺技『シルバームーン・アーチ』が極まる。これはオリジナル・スープレックスだ。
暁が再び発動した『ムーンサルトプレス』を前ダッシュで躱した紗良は『炎雷符』で暁のライフを削る。炎雷符には相手を一時的に行動不能にする追加ダメージが付与されている。
その隙を先生が見逃すはずはなかった。接近して強パンチからの連続技で暁をKO!
残りライフがお互いに少なくなった状態を押しきったのはキャラクターの潜在能力を最大限に引き出した護国寺先生だった。
「村雨さん、このゲームはバランスが良いことで知られている。どのキャラクターもポテンシャルを引きだせば互角の戦いができるはずだ。
暁のような『変身能力』を持つキャラは既存の格闘ゲームにも複数名存在したが、ランキング上位者には人気がない。それは安定性に欠けるからだ。
変身すれば強いということは、ふだんは弱いということの裏返しでもある。まずは公式大会で一勝を目標にしよう。村雨さんはおれがワンツーマン指導する」
「本当ですか? ご褒美です!」
(村雨初音のイラスト)
つづく
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イラストレーターはイナ葉さま(Xアカウント@inaba_0717)
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