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聖少女暴君  作者: うお座の運命に忠実な男
余命一年のヒロイン編 第六章 タイムラグ・ラブレター
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6-3 また罪のない男子を惚れさせてしまった

 弟と和解したわたしが涙を拭いて病室に戻るとみんな待っていた。


「今日は気分が良いんだ。みんなで中庭にでない?」


 弟の提案でわたしたちは病院内の中庭に。


「まだ暑いわね。屋外は大丈夫なの?」


「うん」


 先頭をあるく弟の大地と折笠さん。その光景をぼんやり眺めていると肩をたたかれた。


「ふたりきりにしてあげようか」

 姫川さんが小声でつぶやく。弟の恋心に計らった粋な演出だ。わたしたちはそっと列を離れた。



【折笠詩乃 視点】

「折笠さんは好きな人いるの?」


「どうしてそんなこと訊くの?」


 鳴海さんの弟、大地くんは色っぽい視線でわたしこと折笠詩乃(しの)を見つめている。


 この男の子、わたしに恋してる。わたしは中学のときもモテまくっていた。男子から告白された回数は一三回。みんな発情したおサルさんみたいな男子だった。


 うんざりして女子校を選んだのだけれど、また罪のない男子を惚れさせてしまったようだ。彼はほほを紅潮させて視線を逸らす。ちょっと可愛いかも。


「そうね。いるわよ」


 彼はおあずけをくらったイヌのように落胆した。


「あらら~、好きな人がいたら諦めちゃうの? 女の子にとって好きな人は携帯電話と同じ。機種変することもあるわ」


「本当? ぼくにもチャンスある?」


「それは愛の告白と受け取っていいのかしら。初対面なのに」


 わたしは少年をからかうつもりだった。


「……はい」

 彼は真剣な眼差しでわたしを直視した。


「……ばかね!」

 熱烈なプロポーズにわたしまで熱を帯びる。この残暑のせいだろう。


 そのとき中庭にエメラルドのような羽を持ったアゲハ蝶が訪れた。


「綺麗だ」


「アオスジアゲハね。わたしが一番好きな蝶」


「こんなに美しい生き物は見たことがない」

 彼はわたしの顔を凝視した。


「そうね」

 彼の言葉の真意と視線のさきがはかりかねてわたしは困惑した。この子、意外と口説くのが上手。


 少年は突発的に涙を流していた。わたしは気づかないふりをして蒼穹を見あげた。上風が彼の涙をさらった。




 鳴海さんの弟、鳴海大地くんを皆さんでお見舞いした、それから一週間後。九月下旬。わたしたちeスポーツ部はMODのダウンロードコンテンツ実装に備えて予断を許さない状況だった。わたしこと折笠詩乃は鳴海さんに話しかけた。


「一段落したらまた弟くんのお見舞いに行こうかしら。鳴海さん」


「弟は亡くなりました」

 鳴海さんは視線を落とした。


「うそ……だよね? うそだと言ってよ!」

 わたしは彼女に詰め寄った。


「詩乃……」

 ヒメの仲裁が入る。部室にいる村雨さん、黒咲さんも固唾を呑んで見守っている。


「病院内でアルコールの瓶が割れてしまい容態が急変して、二日前に……」


「どうして教えてくれなかったの⁉」

 わたしは涙声になっていた。


「これ、弟から折笠さんへ。手紙です。みんなでお見舞いしたあと、自分になにかあったら渡してほしいって。予感があったのかもしれません」


 わたしは震える手で手紙を開封した。




 中庭で見たアオスジアゲハ綺麗だった。

 ぼくはあなたに出会うまで生き物を美しいと思ったことがなかった。

 まるで映画みたいだった。灰色だった世界が色づいてキラキラして見えた。

 でもぼくは切なくて泣いてしまった。

 あなたはぼくの涙を見てもなにもいわなかった。

 それが嬉しかったんだ。

 生まれ変わったら、あなたの好きな生き物になって逢いに行きます。

 それがアオスジアゲハみたいな美しい生き物だったらいいな。

 これはラブレターです。


 鳴海大地



「こんな、こんなラブレター貰ったら一生忘れられないよ」

 わたしの落涙が大切な手紙の文字をふやかしてしまった。


――それからわたしは九月に蝶が舞うと、それが彼ではないかと確認してしまうのだ。


挿絵(By みてみん)





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イラストレーターはイナ葉さま(Xアカウント@inaba_0717)

無断転載・AI学習禁止です。


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