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所詮は絵空事



——



「私は昨日まで、ある世界にて、魔法とも呼べる摩訶不思議な力を使い、冒険していた」

 だなんて妄言は誰も信じない。

 当然だ。

 だって、ソレは正真正銘妄言なのだから、嘘偽りであり真じゃない。私だって信じていない。

 ただ記憶の中にあるだけで、ソレは事実じゃないと、自分でも理解している。

「だが納得はしていない——だろ?」

「していないんだろうね。だから君が現れる」

「俺もテメエの妄言ってか?」

「…………そうだね」

 日常に帰り、現実に帰り、床に就こうとしていた私の前に、彼は現れる。

 私の前にというか、私の中にというか。

 ともかく、

 彼も私の妄想である。

「俺は俺が俺であると信じていたのだが、お前の心の内にしか居ないとは、心外だな」

 心の外には居ねーけどな——彼はシニカルに笑う。その言葉はやはり、私の言葉であった。

 私の脳は欠陥品であり、妄想と現実を視界の中で一纏めにしてしまう。

「妄想だ現実だとか言うけどよ、そもそも現実は目を通じて取り入れた情報を自分が理解出来る様に作り上げた光景、妄想に過ぎないんだぜ?」

「妄想は個人の物、けれど現実は他人と共有できるよ?」

「なら織田信長だとかを知ってるやつが一人になればあれは妄想の中の架空になるし、全人類が俺を知れば俺は現実の中の実物となる訳だ」

「それは屁理屈だよ」

 その屁理屈を考えたのは私である。

 私が考えたから、彼がそれを語る。

 私はため息混じりに言って、ベッドから降りる。

「君は幻覚であり幻聴でしかない——これに対して何らかの否定を君がしようと、それもまた妄言なのさ」

「ふうん——じゃあ、あんたが俺に対して抱いた恋心はナルシズムな訳だ」

 唐突に恥ずかしい事を言ってくれる。

「…………君は、私の我儘の具現化だ。私はあの妄想の世界に帰りたいし、また君を実在の者として愛したい——それでも、だとしても、」

 私は薬を手に乗せる。乗せて、水と一緒に体内に取り込む。

「人は人の中で生きる。他者に迷惑は掛けられないんだ。個人限定の妄想じゃあなく他者と共有する現実に生きなきゃならないんだよ」

 声の先には誰も居ない。

 彼は既に消えていた——まあ、最初から居なかったのだが。

 確かに現実と妄想の間には大した差は無いのかもしれない。それでも、その差からは人である限り逃れられない。

「他者との共有——か」

 神の実在を問えば、一定の割合で人は頷く。

 なぜなら神は、その存在を殆ど全ての文明人に認知されているからだ。

 ならば、多くに認知されれば、妄想を現実に昇華出来るというのなら——

「所詮、絵空事に過ぎない——のだとしても、彼を、あの冒険を、現実に出来るはずだ」

 決意する様に呟く。

 呟き、ペンを取り——私は文字を綴り出すのであった。

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