絶対に漏らしたくない俺だが、すでに肛門が限界を迎えている件
これは夢ではない
君と出会ったあの日
君が僕の前に初めて現れたこの事実
紛れもない現実
空門泰斗は多忙だった。理系大学生だからっていうのもあるけれど、大学二年次は特に必修科目が多く、毎日一限の授業に出ていた。何よりも家が遠いのだ。片道2時間もかかる。毎朝五時半に起きて、一限から四限まで受講し帰宅。課題等をやって夜一二時くらいに寝る。このサイクルだ。
そんな忙しい毎日でも二、三週間もすれば慣れてしまうものだ。空門泰斗はこのサイクルを完全に掴んでいた。
しかしある日、悲劇は起こった。
× × ×
いつも通り五時半に起きて家を出発した。電車に乗り、和光市駅を過ぎた頃だった。
猛烈な便意に襲われた。
たまらず、一旦イヤホンで聴いていた音楽を止めた。次に停まる成増駅で降りようかと悩んだ。しかし、俺にとって通学路のうんこポイントは乗り換え駅である池袋駅と新宿駅だった。次の成増駅で降りると遅刻してしまうかもしれないので簡単に降りる訳にはいかなかった。
しかし、便意は増す一方だ。仕方なく成増駅で降りることを決心したその瞬間、電車が緊急停止した。
ぶりゅりゅっっっ
激しい揺れに襲われたせいでうんこがほんの少しだけ漏れた。しかし、たいした量ではなかった。これくらいの量を漏らすことはザラにある。経験上、このくらいならおそらくパンツには付いていないだろう。
ようやく電車が動き出し、成増駅に到着した。俺は大急ぎでトイレに向かった。男子トイレに入ろうと思っていたが、ちょうどタイミングよく多目的トイレから老人が出てきたのでそこに駆け込んだ。
やっとうんこができる!間違いない、確信した。
「間に合ったー!これで俺のだいしょう・・・・・」
ぶりぶりぶりぶりぶりぶりーーーーーー!
うんこを全部漏らした。
スライド式の自動ドアを急いで閉めようとしたのだが、なんと赤ちゃんのハイハイよりも遅いスピードでしか動かなかったのだ。その間に俺はうんこを全部漏らしてしまった。
「そんな・・・・・・・もう・・・大学二年生だってのに・・・・・・」
信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
もう個室に入っていたのに、勝利を確信していたのに。
現実とはなんとも無慈悲なものだ。
それでも俺は涙を流すことはなかった。
今まで数えきれないほど漏らしてきたから。
だから、尻を拭う間も、パンツを拭う間も、その香りを冷静によく感じられた。臭かったはずの匂いも、嗅いでいるとやがて癖になり、ずっと嗅いでいたかった。
ようやくうんこを拭き終えて、茶色なのか赤なのか分からなくなったパンツをビニール袋にしまう。
あたりにゴミ箱は見当たらない。しばらくこのうんこパンツを持ち歩くことを余儀なくされた。
再びズボンを履き、うんこを流す。
今日はテストがある。ノーパンで受けなければいけない。クソ野郎、ふざけんな。いやクソ野郎は俺か。何回もうんこを漏らしてきただろ。
でも今回は少し特別だ。
言葉は出ない。うんこは出るけど。
「うんこを漏らした」なんてたった一言で言い切れるものではない。
それどころじゃない事案だし、うまくは言えないが、問題はそこではない。
俺はこの日、初めて本当にうんこを漏らしたのだ。
× × ×
その日の晩、空門泰斗は自室で落ち込んでいた。自宅のゴミ箱には茶色く汚れた赤パンツが捨てられていた。