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第五話 【守らねばならぬ】


 殿の傍に就いて戦場を駆け巡る日々の中ではあったが、一時も愛娘を忘れたことはなかった。

 絶世の美女と噂され、様々な武将から求婚されていると聞いた時はもちろん驚いたが、納得した部分もあった。


 親馬鹿と言われても構わぬ。

 私から見ても娘は美しいと実感していた。

 故に、鼻が高かった。

 少し性格に難があるのが問題か...


 小田原討伐も終わり、[津之江城へ参ろう]という殿の提案で左衛門佐殿と三成殿を引き連れて我が城へ久方ぶりに戻ってきた。


 そこには変わらず、美人の愛する娘の姿があった。


 が........


 私には分かる。彼女は私の娘ではない。


 思わず、「そなたは...」と言ってしまった。

 首を傾げる娘。

 いかんいかん。冷静に、父親としての振る舞いをせねば


 顔こそ娘だが、口調や態度はまるで別人なのだ。

 藍姫を良く知らぬ者は中の人間が変わっていることに気づいていないだろう。前柴家の秘密を知る私だから気づけたのだ。


 いやはや、困った展開になったな...


「お父上、どうされましたか?体調が優れないのですか?」


『心配無用。そなたに一つだけ伝えておきたいことがある』


「......何なりと」


『そんな不安そうな顔をするな。私が伝えたいのはいつでもそなたの味方だと言うこと、それだけだ』


「…………?」


『今は何も言えないが、分かる日が必ずやって来る。娘は私の命に代えても守る価値のある、なによりの宝だ。何かあればすぐに私を頼れ。いつでも駆けつけるからのぉ』


 涙を堪える娘。何か思う所があるのだろう。

 この場所はこの子にとって何処なのか全く知らない場所。


 たとえ、この場所が分かったとしても、此処で生活するのはかなり難しいことだろう。


 私がしっかりと守ってやらねばならぬ。


「実は...朝起きた時から記憶がなくなってしまっていて。天正18年だということは分かったのですが…」


『左様か。混乱するのも無理はない。気になることがあれば私に聞け。教えてやる』


「お心遣い、感謝します。お父上のことが知りたいです。最初は織田信長様に仕えていたこと、今は豊臣秀吉様に仕えていることは存じ上げています」


『左様。前柴家は京の大名である。長らく織田家に仕えていたが、信長様がお亡くなりになられた後に秀吉様から[私に仕えぬか?]という提案を受け、秀吉様の家臣になった次第だ』

 

「真田左衛門佐信繁様とはどれ程の関わりがございますでしょうか?」


 娘は左衛門佐殿を好いておるのか?


『左衛門佐殿か。どうして気に...いや、なんでもない。そうだな、左衛門佐殿とは深く親交がある訳では無いが、父上の昌幸殿とは親交がある。左衛門佐殿とは暫しの付き合いだが、良き漢だと承知しておる』


「そうなのですね。良き漢...相違ないですね」


『私はそなたがどの武将の正室になっても反対はせぬ。心から信じられる、愛せる者を選べばよい』


 これは本心だ。

 藍姫がどの武将を選ぼうが、どの家に嫁ごうが、私との親子関係がなくなる訳では無い。

 ゆえに私を気にせず、自分の愛する者と幸せな暮らしをして欲しいと思っている。


 世は戦国、その愛する者との辛い別れは必ずあるだろう。苦労も耐えないであろう。されど、その日まではと心から願っておる。

 何より避けねばならぬのは、この子が死の体験をすること。そんな苦しみは武将たちだけで良いのだ。この子が経験する必要はない。もし、その危険が訪れた日には絶対に守ってみせる。


 これからまた私は豊臣秀吉に仕える。娘とも離れることになるが、もしもの時は殿下よりも娘を優先したい。こんなことを言ったら殿下はさぞ、お怒りになるだろうな...


『何かあれば、すぐに文を出せ。すぐに駆けつけようぞ』


「なんと心強い。世は大変な時代です。お父上が戦で死なぬよう、心から祈っております」


 この子はどこまで良い子なのだろうか。見知らぬ時代へ来て不安なのは自分であろうに.....

 元の時代へ戻るまでは私が死ぬ訳にはいかんな。


 今一度、守ると強い覚悟を持って。


 

 

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