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第二十三話 【前柴家】


 出産まであともう少しだな…本当に不安。

 まさか現実より先に出産を経験することになるなんてね。高校生だから経験してないのは当たり前だけど。


『左衛門佐、香乃、申し訳ないけど藍姫と二人きりにしてくれないか?』

「承知」

(かしこまりました)


 二人きりになった所でお父上が話し始めた。


『藍姫、改めて言わせてくれ。未来から来たお前に怖い思いを二度もさせてしまって申し訳ない』

「そんな。戦国の世に来た時点で戦は覚悟はしていましたよ。襲われたのは想定外でしたが」

『あの時は怒りでおかしくなりそうだったよ。これから先も加藤清正を許すことは出来ないだろうな』


「お父上も、信繁様もすごく怒ってましたからね。でもそれだけ大切に思ってくれているんだと私は嬉しかったですよ」

『文にも書いたが、未来人であろうとも私の大切な娘であることに変わりはない』

「本当の藍姫様が帰って来れなくなるから守る...という訳ですか?」

『違う!そんなこと少しも思ってない!そんなことを言うな!』

 

「すみません、出産前で少し情緒不安定になってしまいました」

『妻もそうだった。だから心配はいらない』

「そういえば、母上は?」

『藍姫を出産した時に亡くなってしまった』

「そう……だったんですね」


『お前に聞きたいことがある。本当の名を教えてくれないか?』

「私の本当の名は前田藍佳と申します」

『あいか。良い名前だな。出産は初めてか?』


「もちろんです。未来での私は高校生ですから」

『こう……こう……せい?なんだそれは』

「あぁ、未来では学校なるものがありまして」

『寺子屋か?』

「あ、そうです!寺子屋のような所に18歳まで通うんです」

『なるほど!歳で言うと、未来の藍佳は何歳なんだ?』

「15歳です」


『あぁ、それなら出産を経験していなくて当然だな』

「母上のことを聞いてさらに不安になりました……」

『その様なことにならぬよう、全力で支える』

「ありがとうございます。私からも聞いて良いですか?」

『うむ。なんでも答えよう』


「藍姫様は今どちらへ?」

『恐らく、過去へ行っていると思う。出なければ、藍佳は此処へ来ていないだろう』


 なるほど、入れ替わりということか。


『未来とは、どんな感じなのだ?津之江城はあるのか?』

「小田原城、大坂城はあります。津之江城は残念ながら...実は前柴義昭という武将もこちらに来て初めて知りました」


『何らかの理由で私の存在が隠されているのかも知れないな』

「未来へ帰ったら祖母に聞いてみます。何か知っているかもしれない」

『未来に戦はないのか?』

「この時代のように大きな戦はあまりありません。私が生まれるずっと前には一度、ございました」


『そなたの生きている時代が平和なら、それでいい』

「便利な世になりますよ」

『ほう?どういう事だ?』

「車なる物や電車なる物、飛行機と呼ばれる物までございます。今の移動手段は馬ですが、その乗り物を乗ることであっという間に色んな地域へ行けますぞ」


『もし私が死んで次に生まれるところは藍佳のいる未来が良いな』

「そうですね。未来でまたお父上と生活出来たらどれだけ幸せなことでしょう」


 そんな話をしていると、急に激しい腹痛に襲われ、私は床に倒れ込んだ。これは……!陣痛だ。


『藍佳!どうしたー!!!』

「お父上……陣痛がきました。赤ちゃんが……生まれます!!」

『なに!?左衛門佐!!!香乃!!藍姫が産気づいた!』


「失礼します!藍姫、大丈夫か!」

(お二人とも、落ち着いてください。周りが騒げば、姫様が落ち着いて出産出来ません)

『あ、すまない。急だったから驚いてしまった』

「私はどうすればいい!?」


 未だに落ち着いていない人が一人居ますね。


「信繁様……!手を!手を握って下さい……!」

「おう!任せろ!」


(姫様、医者を呼んで参ります)

「お願いね……」


 香乃さんに呼ばれた医者によって検診が始まった。

 子宮口はあまり開いてなかったので、陣痛に耐えることになった。初めての強烈な痛みに何度も気を失いかけた


「おい、医者!藍姫がどんどん弱っていくじゃないか!」

「初めてのお産では、痛みのあまり気を失う方は少なくありません。出産とは命懸けなのです」

「そんな……。私はどうすれば」

「お産の時、男は本当に戦力外です。男に出来ることは手を握ったり汗を拭いたり腰をさするくらいです。それを全力でやるのです」


 腰をさするのは、お父上が既にやってくれていた。医者の指示を受けて男どもはさらに必死に動く。驚いたことに、昌幸まで参加しているのだ。支えられてる。みんなありがとう。


 陣痛が始まってから一時間が経過した時、医者が話し始めた

 

「よし、これだけ開けば大丈夫でしょう。今から始めます!姫様、深呼吸をしたあとにもう一度深く吸います。そのあとに力をいれてください。これを繰り返します」


 ラマーズ法ね。大丈夫、分かってるよ。


「吸って〜、吐いて〜、もう一度、吸って〜、はい!力を入れて!」


 医者の指示の元、必死に繰り返すが、なかなか上手くいかない。そのせいか、不安になってパニックになる。


(姫様、大丈夫。ちゃんと出来てますよ!大丈夫、私たちがそばに居ます!皆さんが付いてますよ!)


 香乃さんの声に少し落ち着く。そうだ、私は一人じゃない


「愛しい我が子よ、出ておいで〜!信繁様も私も、あなたを待ってるわよ〜。早くあなたの顔を見せて!」

「そうだ!早く会いたい!おいで!」


 出産が始まって一時間が経過。


「いい調子!頭はもう出てきたよ!あともう少し!姫様、頑張って!」


 もうすぐ会える。私は最後の力を振り絞った。



「おぎゃーん、おぎゃーん」


 元気な泣き声が部屋中に響き渡る。

 前田藍佳、出産を無事に終えました!死ぬかと思った


「藍姫、ありがとう……本当にありがとう……」


 新米パパ、泣いております。もちろん、私もです。

 少し驚いたのが、部屋にいる誰もが泣いておりました。香乃さんに至っては、大号泣です。


「みんなにたくさん愛されて、元気に育ってね」


 そう言って私は目を閉じた。

 

 

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