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第十七話 【三成からの伝言】


 天下分け目の関ヶ原の戦いが終わってから一週間。未だにお父上は目覚めない。ずっと唸って戦っている。

 城主としてしっかり津之江城を守りきった。それは誇らしいが、家康への恨みが自分の心にどんどん募っていく。


 武将として、天下を狙いたいのは誰だってそうだろう。しかし、どうして大切な人たちが血を流さねばならないのか。傷に苦しまなきゃいけないのか。


 戦は、戦争は嫌いだ。


 そう考えると、私は恵まれた時代に生まれたのだなと痛感する。


(お帰りください!!!)


 お父上の手を握りながら考えに耽っていると、突然、香乃さんの叫び声が聞こえた。

 急いで叫び声のする部屋へ向かうと侍女全員が一人の武将を取り囲んでいた。


「何事?どうしたの?」

(姫様、こちらへ来ないでください。危険です)

「状況を教えて。一人に対して、複数人で取り囲むのは非常識でしょう」


(こんな時まで姫様は、どうしてお優しいのですか?)

「優しいんじゃない、常識を言ったまで。それで?何があったの?」


 香乃さんによると、この武将は家康の使いらしい。お父上の怪我が回復次第、私の所へ来いとの家康の命令らしい。ふざけているのか?家康は何を企んでいる?


 目覚めもしていないのに、父は回復するのか。もし、このまま死んだら?また家康はここへ戦を仕掛けにくるのか?


「家康様の使いの方。家康様の伝言は分かりましたが、お父上は未だに目を覚ましません。果たして、回復するのか。死ぬかもしれないという考えが家康様には無いのでしょうか?もし、そうなった場合、家康様はどうするおつもりですか?」


「その場合は、あなた様を徳川方の武将と結婚させると申しておりました」

「お断りです。私には真田左衛門佐信繁という大切な旦那様がおりますゆえ」

「殿はそのあなたの考えも既に承知で、藍姫の意見は聞き入れないと申しておりました」


 徳川家康め。どこまで最低な男なのか。怒りで体が震える。


「お前たちの思い通りにはさせないぞ」


 突然、声が聞こえてきた。振り返ると信繁様が立っていた。


「信繁様!上田城からお戻りになられたのですね!お怪我は?」

「どこも痛めておらぬ、安心せぇ。して、家康の使いよ。彼奴は私が簡単に妻を手放すと思っているのか?」

「ご自分でお聞きください。殿はあなたとあなたの父、昌幸殿のこともお呼びでございます」


「家康に伝えろ。前柴義昭が目覚め、回復しない限り、私はお前の元へ行かぬと」

「そうなれば、藍姫様や侍女たちが危険な目に遭いますが、よろしいのですか?」

「一丁前に脅しか。そんな脅しに私たちが屈するものか。しかと伝えろよ。さぁ、今すぐ此処を去れ。これ以上、この城に滞在することは城主の私が許さん」


 信繁様の威厳に驚いたのか、身震いをしながら家康の使いは津之江城を後にした。

 私と侍女たちが危険な目に遭う?やはり、家康は戦を仕掛ける気なのか?


「安心しろ。戦は起きない。起こさせはしない」

「信繁様……」


 騒然とした出来事の二週間後、ついにお父上が目覚めた。


「お父上!分かりますか?藍姫ですよ」

『あぁ、分かるぞ。そなたが無事で良かった』


 良かった。本当に良かった。


「津之江城を、藍姫を守ってくださり、ありがとうございました」

『なに、此処はもともと私の城であり、藍姫は私の娘だ。守って当然。お前に感謝される必要などないのだ』

「そうでした、申し訳ございません」


『お前は真面目な奴だな。冗談のつもりで言ったのだが』


 信繁様は照れたように笑う。意識が戻ってさほど経ってないのに、冗談まで言えるなんて。この人はどこまで強い方なんだろうか。


 目覚めてからのお父上は回復が早かった。一週間後にはもう歩けるようになっていた。信繁様は家康からの伝言を伝えることにした。


「前柴殿、話がありまして」

『珍しいな。どうした?』


「実は前柴殿が傷で寝込んでいる時、家康の使いがこの城にやってきまして。香乃さんや藍姫が対応したのですが、傷が回復次第、私に会いに来いと家康が申しているらしく」


『なんだか嫌な予感がするな』

「話にはまだ続きがありまして。前柴殿が回復せずに亡くなった場合、藍姫を徳川方と結婚させる、藍姫の意見は聞き入れないと申しておりました」


『なんだと!?私が目を覚ましたから良かったものの、彼奴はどこまで……』


 脅してきたこともしっかりと伝えた信繁様。怒りで震えた結果、お父上は痛がっておりました。二人ともありがとう。



 その一週間後、ご飯を食べ終わった私は侍女たちと話をしていた。そこへ信繁様がやってきて話があると呼ばれた。


「信繁様、どうされたのですか?」

「三成の処刑が決まった」


 あ……!三成!そうか、この時がやってきたか。


「そう……ですか。三成様の」

「私は最期を見届けに行く。そなたはどうする?」

「そうですね。お世話になったから行くべきなのでしょうが、私は三成様の最期など見たくありません」


「先の戦いで心に傷を負っただろう。その方が良いかもしれんな。一応、そなたの気持ちを聞いておこうと思った迄だ。気にするな」


「私の代わりに……お願いします」

「あぁ、しかと見届けてくる」


 処刑の日は三日後とのこと。そういえば、もう左近と舞兵庫は居ないのか。一人で最期を迎える三成はどんな気持ちなんだろうか?



 三日後、信繁様は三成の元へ向かった。私は辛くて布団にくるまったまま、信繁様と会話をせず、食事も取らなかった。取れる心境じゃなかった。


 気がつくと、私は寝ていた。ただいまという信繁様の優しい声で目を覚ました。


「起きたか。ただいま。清い最期だった」

「そうですか……」

「三成から伝言を預かってきた。私に気づいた三成が叫んだ」


 三成の最期の言葉だった。


「信繁ー!お前と過ごした時間はとても楽しかった!良き思い出だ。忘れはしない。ありがとう。そして、姫に伝えてくれ!必ず約束を果たそうぞ、それだけだ。そなたらと過ごせて私は幸せだった!」


 そう伝え終わると、三成は左近、舞兵庫、秀吉の元へと旅立った。

 私は溢れる涙を止めることが出来なかった。そんな私を信繁様はただ優しく抱きしめてくれた。


 少し落ち着いてから信繁様は言った。


「食事を取ろう。お前のそんな姿、三成も見たくないはずだ。私が食べるから残してもいい。少しだけでも、な?」

「分かりました」


 そう返事するのが精一杯だった。


 三成の処刑の日。もう一人、ある場所へと向かっていた。

 

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