第十三話 【加藤清正の狙い】
信繁様の命令で三成を連れてくることになった香乃さんもとても不安そうな顔をしていた。
不安になるほどに信繁様の顔は怖く、真剣だった。
大坂城で一体、何があったというのか.....
(連れて参りました)
「失礼する、左衛門佐殿、お呼びか?」
「三成殿、急に呼び出して申し訳ない。あなたは特に重要人物ゆえ、呼んでもらった」
「左衛門佐殿、私のことはどうか呼び捨てで。出なければ、私の気が収まりません。して、何かあったのですか?」
「呼び捨ては承知したが、畏まるのはやめてくれ。そこまで怒っていない」
「承知した」
まだ引きずってるのか。三成には、相当な傷を負わせてしまったなぁ… 本当に私が悪いのに。
「話だがな、加藤清正のことだ」
『清正!!!!!』
「何故、藍姫を襲ったのか。それを殿下が問いただしてな。衝撃の答えが返ってきた。呼び出されたのは、それを伝えるためだった」
信繁様によると、加藤清正が私を狙ったのには二つの理由があったらしい。
三成と私が食事に行くと聞いた清正は、殿下に仕えもせずに女子と食事とは何事か!と怒り、三成に対して日頃の不満もあったことから、三成、または私を襲おうと考えた。
もう一つは、私の父上である前柴義昭が秀吉にかなり気に入られてるから、途中から入ったくせにと嫉妬心を燃やしたからであった。
清正は私の存在が共通していることから、私を襲うことに決めたらしい。私を襲えば二人を一網打尽に出来るのではと考えた。襲わせる相手はあまり名を知られていない足軽にしたそうだ。
三成は舞兵庫が素性を調べるのを苦労したのはそういうことか!と納得していた。
秀吉は私の穏便にという意見を聞き入れ、清正を九州へと左遷させた。命があるだけ良いと思え!などと怒鳴り散らかしたらしい。
秀吉までもが怒ってくれるとは思ってなかったので、気に入られて素直に嬉しい。
それとも常識から逸脱していた清正に対する普通の怒りか?
お父上は信繁様の代わりに津之江城へと戻られた。
その辺も許してくれた秀吉には感謝しかないな。また会うことが出来たら直接、お礼を言わなきゃね。
(加藤清正め、三成様も殿も何一つ悪くないのに巻き込まれるとは。どういう神経をして居られるのか。嫉妬などと醜い限りだ)
「私も話を聞いた時は怒りに震えたよ。香乃さんと同意見だ。帰ってきて苦しんでる藍姫を見てさらに怒りに震えたが」
「あいつは殿下を好きすぎる。忠誠心が強いとも言うのかな。故の嫉妬だろうな。理由を聞けば、聞くほど腹立たしいが、九州へ飛ばされたのなら会う心配はないな」
確かに三成の言う通りだ。秀吉を好きすぎて拗らせてしまったんだろうなぁ。だからといって何で私が狙われなきゃいけないんだって話だけど。
ふと横を見ると怒りで震えている香乃さんの姿があった
「香乃さん、大丈夫?」
(怒りでおかしくなりそうです。忠誠心が強いからと言って全てが許されるのですか?姫様が襲われたのは美談になるのですか?)
「そういう意味で三成様は言ってないと思うよ」
(三成様に怒っているのではありません。三成様も被害者です。私はただひたすらに、加藤清正に怒っています)
「これだけ苦しいんだもん、私だって清正を許すつもりはないよ。会いたくもない。でも忠誠心が強い事だけは認めるよ。それは清正だけでなく、香乃さんもね」
(私もですか?)
「侍女として私に尽くし、私のために怒ってくれる。忠誠心が強いなと思うよ。同時に感謝もしてる。いつもありがとう」
(とんでもございません!)
香乃さんはすぐ否定するけど、本当に感謝してるんだよ。香乃さんが居なければ私はこうして戦国の世で生きれてないと思うんだ。
すぐに自決していたと思う。
今こうして生死をさまよいながらも生きているのは、香乃さんや信繁様、三成たちの支えがあってからこそなんだよね。本当に素敵な人たちと出会ったな。
十年後には、三成、左近、舞兵庫は亡くなってしまう
それまでにもっと仲良くなりたいな。
あ、その前に秀吉が亡くなるのか。
「藍姫、どうした?」
「すみません、考え事をしていました」
「どうした?話してみよ」
「いえ、些細なこと。皆様に本当に支えられているなと考えていたのです」
「なるほど。大好きだからな!好きな人を支えてなんぼだろ!」
(大切な姫様ですから。支えるのが私たち侍女の仕事です)
「友は大切にしたい。だから支える」
みんなからの急な告白に照れが止まらない
あれから熱も下がり、一ヶ月後に藍姫たちは門真荘を後にした。強化された警護のもと、津之江城へ帰宅。お父上と再会した。