第十一話 【生還 事件の真相】
眩しい...そう思って目を開けると見知らぬ長屋の部屋で横になっていた。
あれ?デジャブ?戦国の世に来た時と同じ感じがする
『藍姫!!!』
「姫....!」
「藍姫、目覚めたか…良かった」
デジャブと思ったが、全然違った。
三成にお父上に信繁様まで居る。ここは津之江城か?でも見覚えないんだよなぁ
「此処は津之江城ですか?その割には見覚えがないのですが」
『此処は門真荘にある屋敷だ。村の人間が貸してくれた。何も覚えてはおらぬのか?』
門真荘!!そうか、三成との食事で堺まで来て....そうか、門真に寄ってもらったんだ。三成は左近と舞兵庫に事実を伝え、私は馬に乗って待っていた。
そこまでは覚えてるけど、何があったか分からないな
「私の我儘でこの門真荘に寄ったのと三成様が左近様、舞兵庫様とお話していたのは覚えていますが、私に何があったのかは何も分かりません。急に目の前が真っ暗になったものですから....」
『そうか、分かった』
「お父上?それに信繁様まで、凄く怖い顔をされています。一体、私に何があったのですか?」
「藍姫、前柴殿と私が怒らないのは無理もないぞ。そなたは襲われたのだ。舞兵庫の調べによると加藤清正の使いの者だということが分かった」
「襲われたというのは?切られたということですか?」
「左様、目の前が暗くなったのはその為であろう。私は三成殿と左近、舞兵庫殿の三人にも怒りを覚えている。それは恐らく、前柴殿も同じであろう」
「御三方は何も悪くないです!お父上と信繁様が御三方に手をかけるというのなら、信繁様とは離婚し、お父上とは縁を切らせてもらいます」
「しかし!!左近と舞兵庫は警護だろう!?何のための警護だ!主君である三成は一体、何をしていた!祝言をあげたばかりの大切な嫁に傷をつけられて黙っている夫など、一人も居らぬぞ!!」
「何の反論も致しませぬ。左衛門佐殿、本当に申し訳ない」
「こんなことなら食事の件、許さねば良かったわ!」
信繁様の怒りが収まりません。
でも、大切な嫁という言葉にキュンとしてしまった...
『藍姫や、どうして門真荘に寄ったのだ?』
「何故だか分かりませんが、門真荘という名だけ聞き覚えがあったので、大坂に行く機会があれば寄ってみたかったのです。門真荘に行けば何か思い出すのではないかと。故に、堺まで来たから門真荘にも!と三成様にお願いしたのです」
『そうか。三成殿と左近たちは何をしていた?』
「三成様が非常に重要で緊急なお話が左近様たちにあるとのことで、三成様たちは路地裏へ。私は馬で待機しておりました。襲われたのはその時です」
『状況は理解した。左衛門佐殿、私は藍姫の嫌がることはしたくないと思っている。私もかなり怒っている、気持ちはそなたと同じだ。しかし、それ以上に藍姫を悲しませたくはない。娘が大切だと言うなら、今一度、落ち着いてはくれぬか?』
「実の娘を誰よりも大切に思っているからこそ、怒りが抑えられるのですね。三成も左近たちも反省しているようだし、今回は見逃してやろう。それが前柴殿や藍姫の願いとなれば」
「信繁様、ありがとうございます。その優しき心、私は大好きです」
「......っ!!人前でよさぬか!だが、嬉しいぞ。私こそ感謝するぞ」
『お主、人前とか気にするのだな!好きが溢れすぎているぞ?』
「前柴殿、やめてくだされ…威厳のある男だと思われたかったのに」
え、やだ、可愛い
私の旦那さん、威厳とか気にしちゃってる、可愛い。あ、そういえば....
「あの!加藤清正様はどうするおつもりですか?」
「私たちは戦をしかけても良いと思っている、藍姫はどうしたい?」
「私は穏便にと言いますか...秀吉様にだけ報告し、家臣たちには内緒にして頂きたい。あとは秀吉様に判断をお任せします」
『承知した。殿下には私から伝えておこう。藍姫の気持ちもしっかり伝えるから安心せぇ』
お父上って本当に頼りになる。信繁様はもしかして、お父上のような威厳が欲しかったのかな?
だとすると.....やっぱり可愛いに至る。
「見知らぬ家よりも津之江城に戻りたいのですが、駄目なのでしょうか?」
そう質問すると皆が顔を曇らせた。
しばらくの沈黙の後、三成が口を開いた。
三成曰く、あと一ヶ月はこの家に居なければならないらしい。原因は刺傷があまりにも深いためだそうだ。それと、落馬した影響で骨折もしてしまっているらしい。
そうか、骨折なら一ヶ月は動いちゃいけないな。現代ではギブスがあるから骨は修復されるが、戦国時代にそんな便利な物がある訳ないよな...骨折はちゃんと治るのだろうか?
「骨はまた元に戻るのですか?刺傷は一体、どれくらい。此処は村の人のお家ですよね?どうやって生活をすれば?」
「落ち着け、藍姫。怪我のことは医者を呼んでくるから医者に聞けばいい。家や生活の事だがな、気にしなくて良いと。武将様の正室様であればいつまでも滞在してくれて構わないと言ってくれている。侍女も呼んでいいとの事で、今こちらに香乃さんが向かっている」
「香乃さんが来てくれるのですね。なれば、少し安心です。信繁様は津之江城にお戻りになられるのですか...?」
「私はそなたのそばに居たい。だが、今の津之江城の城主は私だ。城に残っている侍女たちを守るのも城主の務め。故にまだ決めかねている」
『城に関しては、私が戻ろう。殿下も事情が分かれば許してくれるだろう。清正の事と一緒に報告しておく。夫の務めは妻と一時も離れず、守ることだ。故に、お前はここに残れ』
「前柴殿....お心遣いに感謝します」
こうして信繁様は門真荘に残ることが決定した。そして左近と共に医者がやってきた。刺傷が深く、後遺症で熱が出るかもしれないので危険、骨折も骨はきちんと元に戻るが、時間がかかる為に一ヶ月は絶対安静とのこと。
説明を聞いてかなり重傷なのが分かった。信繁様はずっと怒りで震えていた。怒りにより、三成に殴りかかったので、ブチ切れて止めておいた。
私がキレたのがあまりに怖かったのか、全員が大人しくなった。そんなに?と私は一生、キレないでおこうと心に決めた。