第十話 【最悪の帰省】
鮎 食事処天龍さん、デザートまで用意してくれた。
提供されたのは おしるこ。江戸時代からあるのは知っていたが、戦国時代にもあったのか。
舌鼓を打っていると三成に話しかけられた
「姫、堺に着いた時に何か考え事をしていたようだが、それは関ヶ原の戦いのことか?」
あの時は確か、地元のことを考えていたな。聞いてみるか。
「いえ、別のことです。門真荘という地名をご存知ですか?」
「おう、知っているぞ!此処からさらに上ったところだな」
「実はそこが未来の私の出身地なのです。戦国時代の門真荘はどんな感じなのか、行ってみたいなと考えておりました」
「そうか!姫の出身は門真荘か!未来でも門真荘という名か?」
「未来では門真市となっています。皆様、門真と呼んでいますよ」
「門真という名はそのままなのだな!そうか、姫はそこに行きたいのだな。よし、連れて行ってやろう」
「本当ですか?嬉しいです」
「して、聞きたかったことが一つあるのだが、未来でもそなたは藍姫という名前なのか?」
「いえ、未来で藍佳という名前です」
「あいか!可愛い名ではないか!藍姫の藍は未来の名前からきているのか?」
「そこはちょっと分からないんです。偶然かもしれないし」
「左様か。もう少し休憩したら門真へ向かうとしよう」
おしるこに茶は合うのぉ〜
戦国の世に来て張り詰めていた気持ちが浄化されていく
「そういえば、左近様たちにはお伝えしないのですか?」
「此処では合流が出来ないからな、外で伝えるとしよう」
島左近、某ゲームでイケメンに描かれているが、実際は力持ちのイケおじといったところである。
毎兵庫は名前しか知らなかった、普通の武将という感じ
「左近よ、少し寄る所がある」
休憩を終え、外に出ると既に左近と毎兵庫が馬を持ち、待機していた。
どれくらい待っていたのだろうか?
「寄る所ですか?かしこまりました」
「左様、姫が門真荘に行きたいらしくてな。そこ経由で津之江城に帰る。ところでお前ら、少しは休めたか?」
「お心遣い感謝します!鮎も美味しく、疲れも癒されました!三成様はお休みになられましたでしょうか?」
「うむ、ありがとう。しっかり休めたぞ」
「左様でございますか!良かったです!」
馬の後ろに乗り、私は左近は年上、舞兵庫も同い年なのに主君には従順だなと感心していた。
一時間半ほど走った頃か。馬はスピードを落とし始めた。門真に入ったのだろうか?
「姫、もうそろそろ門真荘だが、降りるか?それとも馬をゆっくり走らせながら景観を眺めるか?」
「何だか、堺よりかは栄えてないですね。馬をゆっくり走らせて皆様のお邪魔にならないのであれば、その方が私は嬉しいです」
「まぁ堺は天下の台所と呼ばれているくらいだからな。しかし、門真荘も栄えてる方だと思うぞ。では、馬をゆっくり走らせよう。気になる店があれば申せ、いつでも止まる」
「ありがとうございます!いやー、変な感じですね」
「全然違うか?まぁ、当たり前か」
「左近様たちも居らっしゃるので、その話は避けていたのですが、そうですね。今よりもさらに栄えているといったところですかね」
「なに、左近も舞兵庫もとって食おうなんてしないさ、心配するな。二人には話しておこうと思うのだが、やっぱりそれは駄目か?話しておけば、きっとそなたを守ってくれると私は信じているのだが」
「三成様にお任せしますが、たくさんの人に言われると困ります。左近様と舞兵庫様だけに留めておいてほしいです」
「承知、もちろん他言無用だと伝える」
少し走らせた先で止まり、人の通りがない路地裏で三成は左近たちに伝えた
その間、私は馬に乗り、待機していた。
「ごめんください」
急に誰かに声をかけられ、振り返ると私の視界は真っ暗になった。そして強い衝撃を受けた。
何故か生暖かさも感じる。これは一体、何なんだ
『姫ーーっ!!!!!』
三成、左近、舞兵庫の叫ぶ声と同時に人々の悲鳴も聞こえる
その声を聞きながら、私の意識はどんどん遠のいた。
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「三人で守ると決めた直後にこれは......」
「止まるな!手当を急げ!」
「左近、舞兵庫、落ち着いたらこいつの素性を調べろ」
『かしこまりました』
医者はまだか…!姫よ、どうか無事であってくれ....
どうして私は路地裏を選んだ?どうして姫を一人きりにした?左衛門佐殿になんと伝えればいい?
首を取られても仕方の無いことを私はしてしまった....
前柴殿も激怒されることだろう、どうしてこんなことに
「三成様、医者が到着しました!」
「あぁ....これは酷い。あなたは身内の方か?おや、三成殿」
「いえ、友です。身内は京と大坂に。あ、左近!今すぐ前柴殿の元へ!!!」
「あ!!かしこまりました!!」
「私は今からこの男の素性を調べてまいります」
「頼んだ」
医者曰く、刺傷が深く出血も多いため、非常に危険だということだ。
村の一人が屋敷を貸してくれ、そこで手当することになった。その間、姫の意識が戻ることは無かった。
私の首はどうなっても構わない。どうか姫がご無事でありますようにと祈ることしか出来なんだ。