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三題噺  作者: 銅座 陽助
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異界

 家というのは異界に近い場所だ。外界と隔絶された異空間は、それだけで特別な儀式の場としての性格を持っている。その家の中でも特に魔のものを招きやすいとされているのが、玄関と浴室だ。「招き入れる」性質そのものをもつ玄関を、鬼門や裏鬼門を避けて配置されるのは容易に想像がつく。ではなぜ浴室はその玄関と同様に避けられるのだろうか。それは「水」というものの存在にある。水というのは古くから身近にあって、生と死、あちらとこちらを隔てるものとしての意味を持っていた。例えば「三途の川」というのは、まさしく此岸と彼岸を隔てる水であり、その他にも死者の唇を拭う「死に水」、あの世そのものが水のむこう、海の彼方にあるとする「常世の国」や「ニライカナイ」というように、水は生と死の場面に介在し、それを分かつものである性格が強い。これを風水に適用すれば、浴室とは生と死の境界に近い場所にあるということができ、すなわち死をはじめとする災いを招く門としての性質を担う場所であるといえる。また水だけでなく、私たちを映す鏡もそういった場所には置かれている。鏡というのは私たちの存在を向こう側に写し取るもので、これもまた異界に通じる性格を持っている。付け加えるならば、水にも水鏡としてその性格を持つ側面もある。またそういった風水的な側面でなくても、もっと単純に言うこともできる。入浴中の溺死、ドライヤーなどの感電死、リストカットによる失血死、足を滑らせての転落死、塩素ガスによる中毒死、ヒートショックによる病死、エトセトラ、エトセトラ。以上より浴室というのは極めて死に近く、怪異に近い場所であるといえる。

 しかし異界に近いというのは、向こうからこちらへ来やすい状況であると同時に、こちらから向こうへ行きやすい状況であるということでもある。


 宙ぶらりんに摘ままれたまま、どうしようもないことを考える。降り積もる白雪が温まりそこなった肌にしみ込んで、ひどく冷たいと感じていた。くしゃみを一つすると、ねじり上げられた腕が激しい痛みを主張する。身をよじる私を見て、彼らは奇妙そうに、そして明らかな愉悦を浮かべて笑っている。


 前置きが長くなった。

 私は今、怪異に囲まれている。


浴室、白雪、摘まむ

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