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三題噺  作者: 銅座 陽助
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おにごっこ

 毎夜、夢を見る。デパートの中で走り回る夢だ。夢の中での私は何かに追われているような、それとも何かを追いかけているような、強い切迫感と恐怖心の中であちらこちらを走り回っている。夢の中の私の目線はやけに低くて、きっと幼児になっているのだと思う。あの追いかけられるような、追いかけられるような感覚は、迷子になって親を探している心細い幼子の心情なのだろうか。

 目が覚める。そんなに怖い夢でもないのに、たいていびっしょりと寝汗をかいていて、ひどく疲れているような感覚になる。だけれど数分もすれば落ち着いて、清々しいとまでは言わないけれどふつうに十分に寝たような、そういう感覚になる。


 毎夜、夢を見る。デパートの中で走り回る夢だ。その日はいつもと違っていて、何かに追われているような感覚が小さかったように感じた。必死に何かを追いかけて、走りながら角を曲がったとき、通路の少し先の床に一羽の鳥が居るのが見えた。アパレルの並んだ売り場に挟まれて、止まり木も何もない床の上に、人間のように佇んでいる鳥の背中が見えた。あれはたぶん、梟だと思う。そう思ったとき、梟は首だけを回してこちらを振り返った。

 目が覚める。びっしょりと寝汗をかいている。ひどい疲労感が体にのしかかって、けれど今日に限ってそれがなかなか取れない。仕方ないのでそのまま布団から這い出て、水道水をコップに注いで飲んだ。そういえばあの梟は最後に私を見て、笑ってはいなかったか。

背中を一筋の冷や汗が伝った。あまり良い気分ではない。


 毎夜、夢を見る。デパートの中で走り回る夢だ。夢の中の私は何かに追われているような、それとも何かを追いかけているような、強い切迫感と恐怖心の中であちらこちらを走り回っている。夢の中の私の目線はやけに低くて、手足も短い。幼児の不均衡な体は大人のそれに比べて頭部が重たくて、ひどく走りづらかった。その日はいつもと違っていて、何かに追われているような感覚が大きかった。翼が空気を打つ音が、ほぅほぅという鳴き声が聞こえる。その音は段々と近づいてきているようで、背後に感じる悪意のようなものがどんどんと大きくなっていくのを感じる。はじめは遠くから聞こえていたほぅほぅという声も、音が近くなるにつれてもっと人のような、げらげらという嗤い声に変っていったように感じた。後ろを振り向く。あの梟が迫っている。二つの真っ黒な穴に幼い私を映して、人間のような声で呵っている。やがて梟が追い付いて、私の背中にかぎ爪を掛けて引き倒す。そうして梟は私の上から飛び上がって、商品の並ぶハンガーラックにとまった。あっけにとられる私を見下ろして、梟はあの不気味な顔で笑っている。

 私はようやく、自分が慰み者にされていることを理解した。

 まだ、目は覚めない。


デパート、梟、慰む

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