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三題噺  作者: 銅座 陽助
11/19

死者が死者であるために

 夕暮れの海を見て、君は笑っていた。潮風の匂いだけがそのことを覚えていて、もう君がどんな顔だったのかも、私には思い出すことはできない。


 死者というのはつまり、生きていない者だということだろう。ただそれだけだと生まれる前のそれも含めてしまうから、やはりもう少し具体的に言うのであれば、かつて生きていた者というわけで。そうして死者が死者として思われることをさらに詳しく言うのなら、かつて生きていたと認識されている者こそが死者であるといえる。

 では、誰も覚えていない死者は死者なのだろうか。彼女を映した写真は一葉たりとも残っていなくて、彼女が作り出した作品は一つたりとも残っていない。彼女が存在したことを証明するのは私の脳内の記憶だけで、それすらも今は薄れていってしまっている。私はもう彼女がどのような顔をしていたのか、どのような服を着ていたのかも思い出すことはできない。彼女にとっての最後の存在証明は私の脳内にしかないのだから、つまり彼女は今私の中でのみかろうじて死者であって、私を除くすべてのものにとっては死者でなく、また私もそのすべてになろうとしてしまっている。

 だから私は、まだ彼女が死者であるうちにこの文章を残そうと思う。この文章が本になれば、もし私以外の人がこの本を手に取ってくれるのであれば、彼女は私の中だけの死者でなく、これを読むあなたにとっても死者であることになる。私が彼女を死者にすることが出来なくなってしまっても、これを読むあなたが彼女を死者のままにしていてくれる。たとえあなたが彼女の存在を、この本を読み終えて瞬きをすれば忘れてしまったとしても、彼女はその瞬間死者であり、あなたがこの本を再び手に取るとき、彼女は再び死者になることができる。

 故に私が彼女にできる最も大きなことが、こうして彼女を死者であると遺すことであり、あなたが彼女にできる最も小さなことは、こうして彼女を死者であると思うことである。

 だから、お願いします。どうか彼女を覚えていてください。どうか彼女が、この世に居たのだと、あなたも証明してください。お願いします。お願いします。

 それだけが、あの日、海に消えた彼女に対して、私ができるささやかな祈りなのです。彼女を消したあの海に対して、私ができるささやかな抵抗なのです。

 お願いします。お願いします。

 お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。

 お願いします。お願いします。お願いしますお願いしますお願いしますお願いしします祖願いしますそねがいっすあmsすおおねあししまうすおねがしいあmすおねがしいますおねがしいsmしそあさdっそあsなssmsmsmdsmsまmさmさs



 ――記録削除。

 該当する女性の記録は存在しません。


夕暮れの海、本、瞬きする

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