学校へ行ってみよう その9
恵さんは、「うん。じゃあ、いってらっしゃい」と言っただけだった。どうやら、うん。こういうのは、影の世界では普通の日常なのだろう。
俺たちは急いで、実家があった場所を目指した。恵さんの屋敷から走って30分。完全に町内会には遅刻だった。
「ほひいちゃん! あれ!」
パンを走りながら頬張っていた妹が指差す方を見ると、会館では何かが踊っていた。
「あ! あれは!!」
俺の中で昨日の夢の記憶がまざまざと蘇った。
夢の中では俺だけに危害を加えていたけど、ほんとは違うんだ……。俺の父さんと母さんを殺したのは……俺の影だった。今までそのことはどうしても思い出したくはなかった。
「くそっ!」
左手の傷の痛みと緊張感が俺を襲う。
俺の影だけは形でわかるが、会館の中央で踊っている他の影たちは誰の影かは全くわからない。真っ暗な広場で影たちは踊っているだけだったが、何かの儀式のようにも思えた。周囲の町民は、ヘルメットをかぶってそれを見守っているがみんな怯えたような顔だった。
影たちの踊りが止んだ。
それぞれ、四方へと影たちが霧散するように帰っていく。
俺は俺の影のシルエットを追った。
そういえば、今日の天気予報で全国的に何かが起こると気象予報士が言っていたようだけど、ひょっとしたら、これなんじゃ……。
全国的な影の踊り。いや、儀式だ。
恐らく、この踊りは町民や俺や妹の影による何かの前触れなんだ。




