近未来で成り上がる
覚醒まで残り2日
西暦2332年、太陽光に含まれる近紫外線が突如変異を起こし、その変異は地球に大きな変化をもたらした。大きな変化の一つはこれまで存在しなかった凶悪な生物が出現だ。その生物たちはモンスターと呼ばれ、その名の通り従来の地球の生物よりはるかに強く、地球の生態系を大きく破壊した。そして、それから全ての常識は過去のものとなりまったく新しい世界が始まった。そしてもう一つの大きな変化が全ての生物がマナと呼ばれるエネルギーを体内に貯め、そのマナを使用して魔法を行使する様になった事だ。最初はただの餌でしかなかった人間が魔法の発見以降は、様々な研究を積み重ね、いつしかモンスターへ対抗し、勝利する様になった。しかし、この様な出来事は現在、西暦3178年を生きる僕達には遥か昔の事である。現在はモンスターとの生存競争で生き残った人間達がエリアと呼ばれる小さなコミュニティを作りモンスターからの侵攻を防ぐ為、魔法士と呼ばれる人々が日々戦っていた。
西暦3178年5月僕、神楽玲はいつもの様に白杖を片手に学校へ登校し、自席に座った。白杖と聞けば分かると思うが僕は目で見た物を認識する事ができない。代わりに聴覚とマナ感知能力が常人より優れている為、存外学校生活に不満を感じる場面は少ない。
僕の住む天都エリアに高校が一つしかなく魔法総合高専と呼ばれ、「魔法士育成科」、「魔法工学科」、「魔法技術科」の3つの科に分かれており、僕は魔法工学科に今年の春に入学した。
「よう!もぐら君」
この声は間違いなく一条大雅君だろう。魔法士育成科でも秀でた才能をもつ彼のもとには人が集まり、僕の様な人間を見つけては彼の仲間と共に嫌がらせを行うそんなど畜生な男だった。なぜこの様なあだ名を付けたのかはもぐらの特徴である目が見えないという共通点をもとにしているのだと思う。
「おはよう。大雅君。」
僕は丁寧に挨拶を返す。
「きも、話しかけんな。」
理不尽だなあ。入学して早々にこんな酷い嫌がらせを受けるなんて間違いなく5つのクラスの中で一番のハズレを引いてしまったんだと、僕は毎日絶望していた。
そんな僕の唯一の楽しみは魔法工学の授業である。全校生徒のうち5割は魔法士育成科で、4割が魔法技術科、残り1割が魔法工学科である。その為魔法工学の授業には生徒がほとんどおらず、嫌がらせを受ける事がほとんどない為、僕は魔法工学の授業が楽しくてたまらない。しかも数少ない友人の明月宗助君がいる。彼は頭脳明晰で魔法工学のテストでは毎回僕と12人中の1位を取り合っており、さらに魔法実技でも魔法士育成科の上位並みの実力があり、極め付けにはイケメンである。そんな僕とはほぼ真逆の存在の彼が、なぜ僕と仲が良いのか理由は全く持って分からない。そんな事はさて置き今日は午前中は全て魔法工学の生徒だけでの授業だから快調である。
僕は一番に授業を行う教室に着き、一人授業で使うタブレットを眺めていると、宗助のマナの気配を感知した。感知と同時に宗助の声が聞こえた。
「おはよう!玲!」
彼は明るい声で僕に挨拶をした。
「おはよう!宗助君!」
僕も大雅君に返す挨拶の2倍の明るさで返答する。
「1時間目の歴史めんどいなー」
宗助君は不満そうな声でそう言った。
「午後の魔法実技よりマシだよ。」
魔法実技はそれぞれのクラスで分かれて行なっている為、大雅君のグループからの嫌がらせとクラスでの孤立、さらには魔法の才能がこれっぽっちもないと言う3つの問題が重なり、僕にとっては歴史の授業より憂鬱だ。
「Dクラス、一条大雅達いるから大変そうだよね。」
「友達もいないし宗助君のクラスに移りたいよ。」
「でも確か魔法工学科の出雲氷華さんってDクラスじゃなかったっけ?話しかけなよ。」
「女子に話しかける勇気なんてないよ!」
「まあまあそう言わず。」
そう言うと宗助君は無理矢理俺の手を引き、氷華さんの席へ向かおうとする。必死に踏ん張る俺に対し、宗助さんはなんと身体強化魔法を容赦なく使っているではありませんか。魔法士育成科上位並みの実力の宗助君に対し、僕は為す術もなく数秒後には氷華さんの席の近くまで運ばれていた。彼女から感じるマナはまるで氷の様に冷たく、今まで感じた事のないマナに僕は少し困惑した。そんな事気にもしなていない宗助はいつもの明るい感じで話かけた。
「氷華さん!玲と友達になってくれませんか?」
「丁重にお断りします。」
即答だった。彼女の声は初めて聞いたがどこか冷たいが、透き通った美しい声だった。そんな声で見事に振られた僕の心は絶対零度まで冷えた。
「先っぽだけで良いから!」
宗助さんそれはニュアンスが変わってくると思うよ。
「死になさい。」
そう冷たく言い放ったが、少し彼女のマナが暖かくなった様な気がした。
「玲せめて自己紹介だけでもしとけって。」
急に話を振られ困惑したが、毒を食らわば皿までの精神で勇気を振り絞った。
「えっと、神楽玲です。一応同じクラスだからよろしくお願いします。」
「よろしく。」
彼女はそう一言呟いた。高校に入学して初めて同じクラスの生徒しかも女子とまともな会話(?)ができて僕は感極まった。
その後気まづい時間が一瞬流れたが、その間を遮る様に歴史の担当教師が「授業始めるぞ。」と言い放った。日直の号令で挨拶をし、授業が始まったが先ほどの余韻に浸っていた為に授業の内容など耳に入ってこなかった。
1時間目、2時間目、3時間目とあっという間に時は流れ昼食の時間になった。
「玲!食堂行こうぜ。」
宗助の声だ。今日はぼっち飯を回避できる事が確定し安堵した。
「10分時間潰してからでいい?」
僕はいつも3時間目の授業が終わってもすぐには食堂に行かない。なぜなら大雅達のグループに遭遇する恐れがあるからだ。
「おっけい。いつも通りね。」
適当に時間を潰し食堂へと向かい自動配膳システムで大好きなカレーを注文した。そして、なるべく目立たない食堂の隅の机へと向かう為にマナ感知で大雅のマナを感知し、そこから一定の距離を保ちながら隅の机へと進むルートを導き出す。人は多いが白杖とマナ感知と聴覚を駆使すれば食堂の隅へ移動する事など造作もない。隅の机に辿り着くと、一足先に宗助が座っていた。
「相変わらず見事な立ち回りだな。ほんとに目が見えていないのか疑わしいよ。」
「見えてたらこんな面倒な人生になってないよ。」
ハハハと宗助は笑う。配慮や気遣いという言葉を知らないのかと毎回感心する。
「玲はマナ感知でどのくらいの情報が分かるんだ?」
「物の大きさとか種類くらいならマナ感知で分かるよ。」
常人では分からないがマナは物質の種類や生物によって微妙に違いがあり、僕の場合はそれを感じる事が可能である。
「流石に形状とか流れとかまでは分からないんだな。」
「そんな事できたら白杖はいらなくなると思うよ。」
そんなたわいもない会話をしていると嫌な気配がした。
「宗助君やばいかも。」
「急にどうしたんだ?」
「大雅君のマナの気配が近づいてる。」
「うわ本当だ。一条大雅がこっちに向かって来てる。」
カレーを残して逃げる訳にもいかず僕は覚悟を決めた。
「もぐら君なんでミミズじゃなくてカレーなんか食ってんの?」
いつものレベルの低い煽りだ。いつも通り僕は無視をする。
「無視してんじゃねーよ。」
大雅君は僕の頭を叩いた。僕は我慢していたが、先に宗助の限界が来た。
「小学生低学年並みの煽りだな。もう少し脳みそ成長させたらどうだ。」
宗助はいつもより低い声で反撃した。
「てめえ誰だよ。もしかしてもぐら野郎の友達じゃないよな。」
「ああ、俺は玲の友達だよ。」
何もできない僕の代わりに反撃する宗助の姿に僕は涙が出そうだった。
「そいつAクラスの明月宗助って奴だった気がする。」
大雅君のグループの1人がそう言った。
「名前と顔覚えたからこれからよろしくね〜偽善者君。」
そう言い残し仲間と笑いながら去って行った。
「ありがとう、宗助君。」
僕は情けないという思いを殺し、なんとか言葉を紡いだ。
「あんな奴らの言う事気にするんじゃねえよ。いつか必ずあいつらを超える魔法士になるから。」
宗助君は今まで見た事もないほど真剣な表情だった。なぜ魔法工学科の彼が魔法士になると言ったのか冗談か本気かも分からないまま食堂を後にした。




