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3.御者ベンジャミン・タイラー


馬車の前には見覚えのある革の鞄が置いてあった。


「私のトランク!」


私がはしゃいでいるのを見て、男爵の頬も緩んでいる気がする。さっきから緩みっぱなしかもしれないけど。


「王立裁判所での公判中の衣装にと、君の家の人が用意してくれたんだよ。中身は確認させてもらったけど、魔法の杖らしきものはなかったから、このまま持って行って構わない。」


よかった、サイズの合わない男物の服しかなかったらどうしようかと思ってた。魔法のくだりはもういちいち突っ込むのをやめた。


「ありがとうございます。」


「いいんだよ。私たちがああいう下着などを用意するのも気まずかったので、願ったりかなったりだ。」


確かに、男の人たちに色々準備されたくないし。


ん、今この人「ああいう」って言った?


「ちょっと待って、私の下着見たんですか。」


「いや、見ていない。ただ正直、君の体型でコルセットをする意味が・・・おっと、危ないじゃないか!」


喉元をつかもうとして失敗してしまった。


「レディに何てことを言うんですか!」


「いや、そもそもレディは魔法の手で紳士の首を絞めようとしたりしないよ。」


「それをいうなら、紳士は他人のコルセットを無断でいじりません!」


反省してほしいのに男爵は笑顔を絶やさない。この人のらりくらりとかわすから苦手。


「今のは冗談だよ。私は細かいことには無精な方でね、検査の類はこのフランシスに任せたんだ。」


「そう・・・」


男爵さっきから大人しくしている少年を指差す。軽薄な男に見られるのも恥ずかしいけど、こういう真面目そうな少年に見られるのもそれはそれでかなり気まずい。フランシス君は無言だけどやっぱり恥ずかしそう。


なんだか場の空気がおかしくなった。話題を変えた方が良いかもしれない。


「ええと、向こうで女性の格好をする機会なんてありますか。」


王子の従者ってことは男装するんだよね。スカートはさよならになるのかな。


「君には個室が与えられるから、王子の前に出るとき以外は好きな格好をしていて構わないよ。使用人はかなりの人数になるし、ほとんどが表に出ないから、見知らぬ女が一人いても誰も気づかないだろう。派手な格好をされると困るけどね。」


「それってセキュリティは大丈夫なのかしら。」


私が紛れこめるって相当ずさんな管理みたいだけど。


「もちろん、王子と直接接する人間には厳しいチェックが入る。担当は私たちの息がかかった者だから、君はスルーパスだけどね。一方で、庭師や洗濯婦は同じ建物にいても王子と顔を合わせることはないんだ。」


なるほど、一日中気を張っていなくても良さそう。


「それと、君は馬に乗れないから、王子の外出に付き合うこともないだろう。外出先でルイーズ・レミントンを見たことがある者に出会っても困るしね。」


従者の定義が怪しい気がするけど、仕事が少ないなら喜んでおこうと思う。馬は横乗りで一応乗れるけど、あえて言わないでおく。


「そのうちよそ行きのドレスを着ていく機会もあるだろう。私たちとしては、君が魔法で王子様を夢中にさせた後、実は女だとカミングアウトをしてほしいわけだからね。途中からマントの下に女性向けの服を着て行って構わないよ。なんならマントの下は裸だっていいんだよ。」


「お断りします!」


前世だったら男爵をセクハラで訴えてるところなのに。フランシス君なんかますます赤くなっちゃってかわいそうだ。


白髪で少し小太りの御者が馬車から降りてきた。


「男爵、ご令嬢をからかうのはそれくらいにして、そろそろ出発しませんと、夕暮れまでにブリーの宿につきませんので。」


「そうだったな。ありがとうタイラー。ルイス、フランシス、では出発しよう。」


タイラーと呼ばれた御者がトランクを担いで、馬車のてっぺんに縛り付けていた。見た目に反してアスレチックなおじさんみたい。


それにしても、ルイスと言われても反応する気になれない。少年っぽく見えると言ったって、少年みたいに振る舞ったことはないし。日頃ドレスを着るならなおさら・・・


「ちょっと待って、カミングアウトしたら私はルイスからルイーズに戻るんですか。」


男爵は顎に手を当てて困ったような顔をした。


「そうか、そういえばその後のことはあんまり考えてなかった。」


「ちょっと!」


「大丈夫、君の名前は決めていなかったが、君が男の子を授かったらエドワード、女の子ならエリザベスだ。そっちの準備は抜かりないから心配しないでいい。」


「心配しかないじゃない!全然大丈夫じゃない!」



この人、有能そうに見えて全く当てにならない。

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