表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

メイドカフェに誘われたお話

作者: 魔洗水

「メイドカフェに行きませんか?」


お昼の休憩中、一人の後輩が突然こんなことを言ってきた。

後輩の名は『わたー』。鉄道オタクで、少し捻くれた性格をしている。


「俺、ここに行ってみたいんですよ。」


スマホの画面を僕の顔の前に突きつけるわたー。

そこにはメイドカフェらしきお店の外観の画像が表示されていた。


「アキバにあるんですけど、面白そうじゃないですか。是非行きましょう!」


どうやらそのお店は『鉄道』がテーマになっているらしく、

鉄道員っぽい格好をしたメイドさんたちが接客をしてくれるらしい。

メイドと呼んでいいのか微妙だけど、とりあえず呼ばせていただく。


「あ、そうだ、バンブーさんも誘いましょう。バンブーさ~ん!」


バンブーは中途採用で入ってきた年上の後輩。

人生経験が豊富であり、人生の相談役としてわたーから慕われている。


わたーの呼びかけに気付いたバンブーが、こっちに近づいてきた。

怪訝そうな顔でわたーを見つめている。それを見てニヤニヤするわたー。

わたーがバンブーを呼ぶ時は大抵ろくでもない事だ。


「今度の日曜日、皆さんオフですよね。この日に行きましょう。」


僕はまだ一言も発していないのに、話が勝手に進んで勝手に決まってしまった。

「え、何なに? 何の話?」と言わんばかりの表情で僕を見つめてくるバンブー。

僕は心の中で「ご愁傷様。」と言った。



日曜日の午前─。

僕たち3人は秋葉原の駅前に集まった。相変わらず人がウジャウジャいる。

楽しみで仕方がないのか、ずっとソワソワしているわたー。


さすがに鬱陶しいので少し落ち着かせようと思い、僕は甲高い声で「ハイッ!」と叫んだ。

ビクッ!と飛び跳ね、一瞬白目を剥くわたー。僕はそれを見て大爆笑した。


わたーは驚かすととても良い反応をする。僕はその反応を見るのが大好きで、ついつい驚かしてしまう。悪いことだとは分かっているけれども。


「朝から驚かさないでくださいよー。さて、行きますか。」


大通りの横断歩道を渡り、一つ向こうの路地へと向かう。御徒町方面に歩くこと数分、今回の目的のお店に辿り着いた。ちょっと年季の入った雑居ビルで、外の看板には『鉄道居酒屋』と書かれている。

お店はこのビルの4階にあるようだ。昭和チックなエレベーターに乗り込む。


上昇するエレベーターの中で、僕は再び甲高い声で「ハイッ!」と叫んだ。

さっきと同じようにビクッ!と飛び跳ね白目を剥くわたー。僕、再び大爆笑。

ちなみにバンブーには全く効果が無いようだ。


こじゃれた扉を開け、お店の中へ入る。

店内を見回すと、鉄道のグッズがあちこちに置かれている。壁際には大きなテレビがあって、どこかの電車の前面展望の映像が流れている。隅っこの方では鉄道模型がシャカシャカ走っている。


なるほど、まさに『鉄道居酒屋』だ。

しばらくしないうちにメイドさんがやってきた。よく覚えてないけど、「ご乗車ありがとうございます♪」的なことを言われた気がする。テレビでよく聞く「お帰りなさいませ、ご主人様♪」じゃないのか。まあ『鉄道居酒屋』だしな。


テーブルに案内される。座席は実際の車両で使われていたものである。


「この座席は何系の座席ですか?」


メイドさんにすかさず質問するわたー。ドヤ顔で「国鉄です!」と答えるメイドさん。


「えっ...。」


呆気に取られるわたー。何か言いたそうだったが、言ってはいけないと悟ったのか、何か言うことを諦めたみたいだ。僕もそれが正しい判断だと思う。


メニューを眺める。やっぱりどれもちょっと高めだ。まあこういう店だから仕方ないのだけれども。

モノによっては特別な『演出』があるらしい。簡単に言うと、メイドさんと一緒に「美味しくな~れ~♪」的な。僕はそういうのはちょっと照れ臭いから、演出の無いモノを頼むことにした。

2人のどちらかは演出ありのモノを頼んでいた気がする。しかし、残念ながら内容は全く覚えていない。


全部で3、4人いるメイドさんたちが交代でテーブルにやってきて雑談をする。やはりみんな話が上手だ。彼女たちは鉄道好きを自称しているが、話を聞く限り鉄道にそこまで詳しくはないようだ。

僕と地元が同じメイドさんがいて、彼女とのお話は結構盛り上がった。バンブーもなんだかんだで楽しんでいるみたいだ。


だが、わたーはさっきからずっと黙ったまま。緊張しているのか、ガチガチになっていた。

そんなわたーを見て、「少しはメイドさんと話せよ。言い出しっぺだろ!」とキレるバンブー。それでも沈黙を続けるわたー。ダメだこりゃ。


このまま居続けてもわたーが可哀想なので、キリの良いところで店を出ることにした。メイドさんに見送られながら退店。帰りはエレベーターではなく階段を使うことにした。


狭く薄暗い階段を下っていく。前からバンブー、わたー、僕の順だ。

これは驚かすチャンスではないか?! 僕は思いっきり息を吸い込んだ。そして─。


「「「ハアアアアアアアアアアアアイイッッッ!!!!!」」」


最大限の高音で、最大限の声量で叫んだ。心なしか地面が揺れた気もする。

わたーはマリオに勝るとも劣らない大ジャンプをした後、腰を抜かして階段の踊り場へと崩れ落ちていった。

崩壊していくわたーを哀れな目で見つめるバンブー。


わたーは何事も無かったかのように立ち上がり、笑顔でこう言った。


「楽しかったですね。また行きましょう!」


おわり



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ