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05:新開発。

 ランパスにファーストキャリアーの操作を一任して、俺とパメラは部屋に移動していた。急いでいるわけではないから、ゆっくりと歩いている。


「本当に大きいですね、このファーストキャリアーは。二人だと使いこなせませんね」

「狭いわけではないから良いじゃないか」

「ベネのことですから、ヒューマノイドスーツの場所は確保しているのですよね?」

「当然だ。スーツは俺の戦闘手段だからな。何なら置いてきたパメラ専用のスーツをまた作ろうか?」

「時間があれば作ってもらいます。この身一つではベネを守れませんから」


 俺とパメラが歩くこと数分で、比較的コックピットから近い場所に俺たちの部屋はあった。俺たちの部屋と言っても、俺の部屋の隣にパメラの部屋がある。


「ベネ、異議を申し立てます」

「……何か気に食わないところでもあったか? 部屋の場所? それとも俺の隣だからか?」

「そうです」

「そうか。おかしいな、俺に付いて来てくれたはずなのに俺の部屋の隣は嫌なのか……」


 パメラの言葉に俺の心を折れそうだった。まさか一日も経っていないのにそんな言葉をくれるとは思わなかった。パメラは俺の心を弄んで楽しんでいるのだろうか。


「ベネ、何か勘違いしているようですね。確かに私はベネの部屋の隣は嫌です。私が言いたいのは、ベネの一緒の部屋が良いということです。隣の部屋は認められません」

「何だそういうことか。だけど、寝るときまで俺と一緒にいては疲れないか?」

「そんなことはありません。何年一緒にいたと思っているのですか? もうベネは私にとってなくてはならない存在ですから、一緒にいた方が自然です」

「それは愛の告白かな? パメラがそう言っているのなら、問題はないし大歓迎だ。俺もパメラと一緒にいたいからな」

「これは相思相愛ですね」

「あぁ、相思相愛だな」


 こうやって聞いていると、俺の言葉とパメラの言葉では相思相愛の言葉の重みが違う気がするが、特段気にすることなく俺の部屋、いや俺たちの部屋に入る。


 部屋の中はベッドに机、椅子にソファー、本棚など一般的な家具が置かれている質素な感じだった。俺の荷物はほとんどが作業部屋に送られたから、俺の私物はほとんどなく備え付けられているものがほとんどだ。


「俺はこの部屋でも良いが、二人だと少し狭いかもしれないな。少し大きい部屋にするか?」

「いえ、この大きさで丁度いいと思います。私は荷物を持ってきますね」

「俺も手伝おう」

「私だけで十分ですよ。ベネはそこで休んでいてください」


 そう言ってパメラは部屋から出て行った。休んでいてと言われて俺はソファーに座った。だけど、今の俺は興奮で座ってはいられないくらいに高ぶっていた。


「……そうだ、作ろう」


 この興奮を収めるために、俺は隣の部屋の作業部屋に向かうことにした。部屋を出たところで、パメラも丁度隣の部屋から大きな荷物を持って出てきた。


「ベネ? どうしたのですか?」

「いや、少し興奮が収まらなくてな。何か作業をしようかと思って」

「それなら少し待ってください。私が荷物を片付けてから一緒にしましょう」

「それで構わないが……」

「これからはできるだけ一緒に居ましょう。トイレとか、……別にトイレに一緒に行っても良いか?」

「トイレくらいは一人で行かせてくれないか?」

「それではトイレの時は離れますが、それ以外はずっと一緒で構いませんか?」

「急だな。今まではそこまで意見を言ってこなかったのに」


 今までのパメラは本当に優秀なメイドとして働いていたから、こうして何かを言ってくるのは初めてで驚きはしたが意見を言ってきてくれたことに嬉しさを覚えた。


「これからは少し我がままを言っても、構いませんよね?」

「あぁ、いいさ。少しどころかたくさん言えば良い」

「それなら先ほどの私のお願いは大丈夫ですか?」

「あぁ、パメラがそう望むのなら良い」

「ありがとうございます。それでは少しお待ちください」


 俺とパメラは部屋の中に入り、パメラが荷解きをしているところを俺は手伝おうとしたが断られたためソファーに座ってパメラの荷解きが終わるのを待つ。


 女性の荷物を見るのはどうかと思って俺は視線を外して待ち続けること数分でパメラが俺に声をかけてきた。


「ベネ、終わりました」

「……もう終わったのか?」

「はい、終わりました」

「早くないか? 手品か何かか?」

「それなら私たちは旅芸人として他の国に潜り込めますね」

「それもそれでアリだが……、本当に終わったのか?」

「はい。こういうことに関して言えば、私は早く終わらせることができます。何せ、少し前までメイドでしたから」


 メイドすげぇなと思いながら部屋の中を見渡すと、本当に部屋の中には大荷物が消えて見えるところで言えば本棚にぎっしりと入った本やテーブルに飾られている花があった。どこから花を取り出したのかよく分からない。


「それなら作業室に向かおう。国ではできなかった物を作ろうと思う」

「はい」


 俺とパメラは部屋から出て隣にある作業部屋に入る。俺がオリンピアにいた時の部屋と変わらない配置で色々な機械が置かれていた。どれもランパスがしてくれたことだ。


『ベネディクトさま、どうされましたか?』

「例のあれを作ろうと思う。ここでは何も言われないからな」

『例のあれ……、あぁ、MAC装置ですか。すぐにその準備に取り掛かります』

「そうしてくれ」


 機械でできた腕だけの存在を操作する人工知能であるランパスは、俺の意図に気が付いて早々に作業に取り掛かる。一方のパメラは何も分かっていない様子だったが、俺に口出しする気はないようであった。俺は訝しげな表情を浮かべてパメラに問いかけた。


「パメラ、気にならないのか?」

「気になりますが、ここで口を出して作業を中断させるわけにはいかないので」

「別にキミはもう俺のメイドでもオリンピア王国のメイドでもない、ただの女性だ。だから別に俺の邪魔をしたからと言って殺しもしないし首にもならない。気になることがあれば聞いて来てくれた方が、俺としても会話ができて嬉しいぞ。やっぱり言葉に出さないでも分かり合うことは素敵なことだが、それ以前に人は言葉に出さないと伝えることができない生き物だ。そこのところはどうだ?」

「……分かりました、今度からは遠慮なく言います」

「分かってくれたのなら何よりだ」


 俺とパメラの関係は主とメイドではなく、ただの男とただの女という関係だ。だけどパメラとしては少し主とメイドに引っ張られている言動が見て取れたからここで言っておくことにした。


「では、そのMACとはどういうものですか?」

「ACエネルギーは熱や衝撃、攻撃などのエネルギーを利用可能なエネルギーに変えることができるエネルギーだが、このMAC装置はどんな物質でも様々な物質に変えることができる装置のことだ」

「それは……、可能なのですか?」

「机上では可能だ。設計図を書いたり部品は作っているが、王国ではできなかったからするのは初めてだ」

「国王さま、ですか」

「そうだ。現国王の思想は守りに重きを置いて攻めの姿勢を良しとしなかった。だからこのことを俺がしようとすれば、危険なものだと考えられて没になる可能性があったから隠していた」

「確かに国王さまならやりそうですね」


 パメラとそう話しながら、俺の前には腰くらいまでの高さの作業台が床から出てきて部品が組み立てられていく。


 俺は工程が映し出されているディスプレイを操作しながら要らない部分を消去したり付け加えたりの作業を始める。パメラは今のところすることがないと思ったのか、一歩引いたところでこちらを見ている。


『ベネディクトさま、準備が完了しました』

「こっちも準備ができた。工程1から始めろ」

『工程1を開始します』


 俺の言葉にランパスが作業を開始させた。ある装置の中に握りこぶしほどの正方形の薄暗く光っている暗黒物質、ケイが浮かんでいた。


 そして装置の起動音が聞こえているが、ケイに淡い光が照射されて数十秒経過して淡い光が弱まって行った。


「どうだ?」

『成功です。次の工程に入ります』


 未だに薄暗い光を放っているケイは装置の中から取り出され、次のケイを装置の中に入れて装置を起動させる。


「ベネ、これは一体……?」

「パメラは、ケイがどういうものか分かっているか?」

「それはもちろんです。ケイはオリンピアのすべてを作り出した超物質で、エネルギーが尽きない限りどんな物質にも変化させることができる物質です」

「そうだ。ケイを変化させるところを見たことはあるか?」

「いえ、自分はありません。……このようにしているのですか?」

「最初は人が念じて変えたい物質にしていたが、人間の思念ではムラがあるらしい。だから人間の思念、いわゆる脳波を機械でも出せるようにしたものがこれということだ。まぁ、俺のこれは国にあるやつよりもエネルギーの消費を抑えている上位互換だが」


 俺とパメラが会話している間にも、次々と性質を変化させているケイが作り上げられていた。これが成功すれば、俺はケイというオリンピアでしか取れない物質に頼らなくて済む。もう頼ることができないから今後発展させるにはこうするしかないのだから。


「ケイを変化させていることは分かりました。それなら、そこからどのようにどんな物質も変化させることができる装置を作り上げるのですか? ケイをそのまま使うのならともかく、どんな物質ともなれば……」

「ケイというのはどんな物質にもすることができる。世界一硬い金属や、常温でも解けてしまう金属、さらには金属に限らず布や紙など何でもだ。だけどそれはほんの入り口に過ぎない。ケイを具体的かつ正確に言えば、エネルギーが尽きない限り、どんな性質の物質にもなることができるというものだ。さらには、ケイというのは非常に厄介で、一度別の物質になればエネルギーが残っていても消失してしまう。だから俺はケイをそのまま使う方法ではない方法を考えた。どういう方法だと思う?」

「……見当もつきません。教えてくれますか?」

「なら答えだ。俺はケイをそのまま使うのではなく、ケイにどんな物質でも変化させることができる性質を付けようとしている」

「そんな、簡単なことができるのですか?」

「簡単だからこそ、誰も思いつかなかっただろう? それにオリンピアではケイが豊富に取れているから誰もその思考に思いつかない。だけど俺はここを出ることを想定して考えていた」


 俺の言葉にパメラは俺を称賛の眼差しを送ってきたことを受け止めて、作業をしているランパスの方を見ると、すでに三つの工程を終わらせ、三種類のケイが完成していた。


 魔力からケイのエネルギーに変換するケイ、どんな物質も変化させるケイ、どんな物質の性質も変化させるケイの三種類。


「終わったのか?」

『はい、お話されていたので口を出さずにいました』

「お気遣いありがとう。それじゃあ工程4に移行してくれ」

『了解しました』


 どんな性質の物質にも変化させることができるケイがあってこそのこの装置だ。ケイ自体があり得ないほどの力を秘めているから、人間が扱うには上等なもので、それ故に危険も秘めている。そこを父上は理解していたが、結局は毒が薬になるように、使い方次第だ。


 毒を毒だと判断して遠ざけているようであれば、この世界に発展はない。それを父上は分かっていなかったから、俺を国王にしなかった。とても保守的な考え方だ。


「ランパス、あとどれくらいで完成する?」

『何も問題が無ければ、一時間ほどで終わります』

「よし。そのまま続けろ」


 機械の腕でランパスは性質を変えたケイの溶接やら切断を行っていく。最初は俺がして補助をランパスにさせていたが、ランパスに覚えさせることでランパス一人でできるようになった。


 そして俺はこの時間を使って発展させていくことを考えた方がよほど有効に時間を使うことができる。武器、強化装置、プログラムの変更、ヒューマノイドスーツの改良など、これはランパスにはできないことだ。


「パメラ、少し良いか?」

「はい」

「パメラのヒューマノイドスーツについて話したい。こっちに来てくれ」

「はい、分かりました」


 ランパスがMACを作り上げている間、俺とパメラはホログラムで元々作っていたパメラ専用のヒューマノイドスーツが浮かんできたものをどう改良するかを話し合った。

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