04:出国。
この国での最後の晩餐を済ませ、俺とパメラは国を出るために歩いていた。基本的にこの国から出ることは許されておらず、許されても国王が他国に向かうための飛行空母に乗る時しか出ることができない。
それは国民を国から何か思惑があって出さないのではなく、この国は魔力濃度が濃い場所に作られているから一歩でも外に出ればたちまち莫大な魔力によって体を侵食される。
この国はその魔力濃度を守るためにエネルギーバリアを張っているから安全に暮らすことができる。しかし他国の人間がここに入ってこれない理由もそれで、何度も侵略してこようとした国も一切この国にたどり着くことができていない。
そして何代か前の国王が、外に出ても危ないからという理由で身一つでは出れないようにテクノロジーで外に出れない壁を作り上げた。決して壊すことができない、とてつもなく高等技術の壁だ。
もしこの国の中で何かあっても外に逃げ出すことができないようになっている。ただ、ここに侵略する他国の兵士が来ても破れないようになっているから、背水の陣ということだ。
「ベネ、ファーストキャリアーはもう到着しているのですか?」
「あぁ、到着している」
腕時計から上に空中でディスプレイが展開して、ファーストキャリアーが国を囲んでいる壁の近くにたどり着いたことを示していた。
「この国の中でバレない飛行物を作れるのはベネだけですね」
「それもそうだが、この国の人工知能は一つを除いて俺が作ったんだ。その一つも俺のことを見逃してくれているから、バレても問題ない」
「そうですね。それよりもここからどうやって壁に向かいますか? 歩いてでも良いですけど……」
「それなら良いものがある。だがここだと人目があるから、その路地裏に行こう」
俺はそう言ってパメラと路地裏に入った。路地裏と言っても、もちろん監視カメラはある。だがこういう映像は残したくないからその監視カメラに数秒前の映像をループさせてダミー映像を流す。
「良いものと言うのはこれだ」
俺が示したのは俺が履いている靴だった。靴と言ってもただの靴ではなく、外見は布靴であるがそれはフェイクとして偽装されている。
「これはただの靴ではないのですか?」
「あぁ、見ていれば分かる」
俺は靴のくるぶしの下辺りをスライドさせてスイッチを押すと布靴の外見は収納され、銀色の金属の靴が現れた。そしてスライドさせて出てきた丁度親指以外の四本指を入れれることができる突起した穴に指を入れ膝ににかけて引っ張ると、膝まで銀色の金属に覆われた。
「これは、ヒューマノイドスーツですよね?」
「あぁ、そうだ。正式名称は〝ハイド・レッグ〟で、誰にも気づかれないように武器を仕込もうと思っていて、一番最初に思いついたのが靴だから最近作ってみた。ただ、エネルギー放出による飛行機能と脚力強化と装甲くらいしか詰め込むことができないのが難点だ」
「いえ、それでも十分だと思います。それよりも、それで飛んでいくのですか?」
「これを俺がつけてパメラを抱っこして向かうつもりだ」
「……ベネで、大丈夫ですか? 私がしましょうか?」
「何を言っているんだ。このヒューマノイドスーツを改良したのは俺だ。俺ができないわけがない。飛行の際に迷彩はバッチリで、何も問題はない」
「ベネができないことはないと思います。ですが、私がやった方が有効に使えるかと」
「オーケー、ここで喧嘩をしても無意味だ。ここは大人しくキミにこの大役を任せることにしよう」
「はい、ありがとうございます」
長年一緒にいたからパメラが俺のことを分かっているように、俺もパメラのことを分かっている。だからパメラが何かを隠していることは理解できた。だから俺は大人しく引くことにした。
「さっき見ていたから分かると思うが、ここをスライドさせれば偽造解除で突起した穴が出てくる。それで引っ張れば膝まで装着することができる。それからこれはこっちの腕輪には迷彩機能が付いている。パメラがつけていれば俺もカモフラージュがかかる」
「はい、分かりました」
俺はパメラに靴と腕につけていた銀色の腕輪も渡す。俺の足の大きさとパメラの足の大きさは違うが、ハイド・レッグは足の大きさによってフィットするから問題ない。
「では、失礼します、ベネ」
「うおっ、急に来られると驚くな。それにこの年でこうされるのは恥ずかしい」
「今更ですよ。もうあなたの恥ずかしいところなんて目から離れないくらいには見ているのですから」
「それはそれでどうなんだ?」
ハイドレッグを渡したことで靴下のみになった俺をパメラはお姫様抱っこした。さすがに恥ずかしさが勝っているが、パメラなら別にいいかと思ってパメラの首に腕を回す。その瞬間、パメラは体をビクつかせたから俺は腕を引いた。
「ッ」
「ど、どうした? 何かダメだったか?」
「いえ、問題ありません。早く腕を回してください、もう飛びます」
何も問題ないということで、俺は再度パメラに腕を回すと今度は何もなかった。そしてパメラはカモフラージュを起動させ、跳び上がった。
ふくらはぎや足の裏からエネルギーを放出することで飛んでいる時に上手くバランスを保ちながら、パメラは空中を歩いているかのように飛んでいく。放出する方向はパメラの意志によって操作できるため、運動神経がかなり良いパメラにとっては朝飯前な作業なようだ。
「ベネ、見てください」
「何をだ?」
「この景色をです。これがこの国を見る最後になるかもしれませんから」
パメラに言われて明かりがどこもかしこも付いている街や国王がいる建物や俺が作った大きな建物を視界に入れる。
「……別に、今更だ。いつも部屋から見ていたからな」
「そうですか?」
「でも、見るのも悪くはない。いつもは一人だったが、今はパメラと一緒だからな」
「……もう、そうやってベネは恥ずかしいことを言うんですから。言う時は事前に言ってください」
「どうやってやるんだ?」
顔をほんのり赤くしているパメラから視線を外して、俺は再び街の様子を見る。上から見る景色と同じであるが、ここだと少し近いから熱気が伝わってくる。
俺はこの国を出ようとしているが、少しばかり寂しさを感じる。だけど決めたことを今更変えることはしない。それは意地とかではなく、今の国に、今の国王に、次の国王に俺を必要としていないから俺が自由に生きるためにはこの国を出るしかない。
まぁ、この国を出て外の世界を見てみたいという気持ちの方が大きいのは確かだ。俺の中ではこの国が俺の世界だから、この世界を見てみたいと前から思っていた。
「パメラ、一緒に来てくれてありがとう」
「どうしたんですか? 突然」
「いや、本当に俺のお世話係がパメラで良かったと思っているだけだ。たぶん、俺一人で行けば、無理をしていたと思う」
「分かっていますよ。でも、私がベネと一緒に行きたいと思っていましたから、こちらがお礼を言いたいくらいです」
「そうか、それなら良かった」
この旅は俺だけの旅ではない。だけど、そっちの方が俺の人生を彩ってくれる。だからこそ、パメラには感謝しかない。
「ここら辺ですよね?」
「あぁ、そうだ。そのまま上昇してファーストキャリアーに乗り込んでくれ」
俺とパメラは国の端までたどり着き、パメラは高度を上げていく。国の端ではそれほど人がいないが、その代わり、武装したヒューマノイドロボットがそこら辺を歩いている。これは俺ではなく、二つ前の国王が発案したことだ。それほどまでにこの国の壁を重要視している。
「パメラ、これを」
「これは、サングラスですか?」
「あぁ。今は付けれないだろうから俺がつけてあげよう」
「ありがとうございます」
俺が懐から出した至って普通のサングラスをパメラにつける。今のパメラはサングラスを通してカモフラージュしているファーストキャリアーの姿が見えているはずだ。
「見えます、けど最初から渡してくれていても良かったのでは?」
「どうせ前でも今でも見るのは今なんだからいつだって良いじゃないか。ほら、それよりも乗り込んでくれ」
渡していたのを忘れていたことを言わずに乗り込むことを急かすが、パメラにはバレている様子だった。普通に忘れていたと言えば良いと思いながらも、上昇していく。
少ししてパメラが上昇をやめ、並行して移動していくとカモフラージュエリア内に入り視界内いっぱいの巨大な飛行空母が目に入る。そして空母の側面にある荷物を運び入れる場所から空母の中に入る。
「到着です。お疲れ様です」
「そちらこそお疲れ様」
パメラは俺をゆっくりと降ろしてくれた。そして俺とパメラは腕時計の姿を変える効果を消し、さらにパメラがつけていたハイド・レッグを靴に戻さないまま外す。
「エネルギー残量は半分か。これも課題だな」
「そうですか? それだけで戦うということであれば、課題ではありますけど隠しておく道具としては上出来なのでは」
「第五世代は持ち運べて戦闘を行えるという面を押し出している。だからそうでないと困るから改善しないといけない」
俺はハイド・レッグを一見すると普通の床に置くと、ハイド・レッグは床に吸い込まれるように回収されて行った。
この飛行空母の中にはヒューマノイドスーツが数多配備されていると同時に、ヒューマノイドスーツを修理かつ製造する場所が設けられている。あのハイド・レッグは回収されて修理の場所に移動している。
「ランパス」
『はい、何でしょうか? ベネディクトさま』
俺とパメラはコックピットに向かいながら、人工知能であるランパスに声をかける。
「出国の準備はできているか?」
『不足ありません。お二人で旅をするのには、少々あり過ぎると言った方が正しいでしょうか』
「それで十分だ。それから俺の荷物から俺の作業室に必要な物を取り出して設置していてくれ」
『了解しました。パメラさまのお荷物はどうされますか?』
「私は自分でやりますから放置していてください」
『かしこまりました』
手が余っているであろうランパスに指示を飛ばし、俺とパメラはコックピットに到着する。コックピットの内装は、ファーストキャリアーを操作するデスクが扇状に設置されて後方に船長席が設けられている。
ただ、別に人工知能がすべて操作してくれるから、もしもの時人間が操作することと様式美として設置しているだけだ。
「さてと……座るか?」
「いえ、私は隣で十分です」
船長席が一つしかないからパメラに勧めてみるが、断られたことで俺が座る。そしてパメラは隣に立ったことで、俺はランパスに向けて言葉を放つ。
「ファーストキャリアー、発進!」
『ファーストキャリアー、発進します』
俺の言葉でランパスが返事をしてファーストキャリアーはカモフラージュ状態のまま、エネルギーバリアを抜けようと動き始める。
『ベネディクトさま、国王が国民全体に情報を発信している模様です』
「どういう内容だ?」
『ベネディクトさまが近くにいれば通報してくれというものですね。国王を監視カメラで見るに、相当焦っているようです』
「その顔を映し出せ」
俺の前に映し出された残り数秒で父親ではなくなる国王である父上は、かなり焦った表情をしている。その表情に少しだけ笑ってしまったが、すぐに表情を戻して映像を消した。
「ファーストキャリアーのエネルギーバリアを展開、国のエネルギーバリアを突破」
『エネルギーバリア展開、突破します』
国のエネルギーバリアはまずここ以外の世界の文明では壊れることはないと言われている。だが、俺の技術なら一時的に壊すことができ、突破することができる。
ファーストキャリアーに国のエネルギーバリアよりも強いエネルギーバリアを展開して、国のエネルギーバリアと衝突した。ファーストキャリアー内部に衝撃は来ていないが、外ではそれ相応の衝突のエネルギーが発生している。
そのエネルギーを吸収しながらエネルギーバリアを先頭部から通過して、ついにファーストキャリアーは国のエネルギーバリアを通過した。
国の中が明るい分、外は通常より暗く見えたが、中から見ていた通りの岩しかない荒野だった。だが俺は初めて国の外に出たことで、興奮が止まらなかった。
「ランパス、外の魔力濃度は?」
『現在、魔力濃度は五百%です』
「なるほど、そこそこマシだな」
「そうですね。千%行っていないだけましですね」
興奮を抑えながらも、俺は外の魔力濃度を確認すると五百%と来た。魔力濃度が百%で人間がギリギリ耐えれるくらいだから、普通の人間が耐えれる魔力濃度ではない。
しかし、ここの魔力濃度の最高は五千%で平均で千%台をたたき出している。だから五百%は比較的にマシな部類に入る。危険なことに変わりないが。
「常時エネルギーバリアを展開、さらに魔力を取得。エネルギーバリアの値はランパスに任せる」
『了解しました、ベネディクトさま』
ここから、俺の、俺とパメラの冒険が始まると思うと興奮が収まりそうになかった。