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03:最後の晩餐。

 エアボードが地面に降り立ったことで俺とパメラはエアボードから降りる。エアボードは地面の中に収納されて行き、俺とパメラははぐれないように手を繋いで歩き始める。


 街は夜だ言うのに賑わいを見せており、人が多く行き交っている。お酒を飲んでいる人、これから仕事に向かう人、さらには男性の相手をする女性など様々な人々がいる。


 そんな中で、街の各所にある監視カメラや人工知能で管理されている女型ロボットである人造人間が法を破っている者たちがいないかを監視している。


「ベネディ……、ベネさ……、べ、ベネ?」

「名前の呼び方で悩んでいることはよく分かった。そうだな、これからは俺はただの人間でキミはただの人間に付き添っている人間だ。だから別に呼び捨てでも構わないし、敬語じゃなくても良い」

「それでは、ベネ、と呼ばせていただきます。さすがに敬語はやめられませんので、これで勘弁してください」

「キミがそれで良いと言うのなら何も問題はない」

「はい、そうさせてもらいます。ベネ、最後に飲食店にでも寄りませんか?」

「飲食店? あぁ、良いよ。夕食は何も食べていないからお腹がすいていたところだ」

「そうだと思いました。とても美味しいお店を知っていますので、私がご案内します」

「よろしく頼む」


 パメラに手を引かれて人の波に逆らわずに進んで行く。俺は行き交う人をチラリと見て行くが、すべてが充実した顔をしていた。この国では、生きるための食料やお金に困らないようにしている。


 その理由は、この国ではヒューマノイドスーツが労働力になっており、人ではなく人工知能がこの国を支えている。つまりはこの国は人の労働力を必要としておらず、人が自由に生きる時間が確保されている。


 ただし、欲しい物やそれ以上の贅沢をしたいとなれば働いてお金を稼ぐようになっており、大抵の人は時間を持て余して人工知能ではできない娯楽関係の仕事に就き、国の娯楽は充実している。


 だから、飢餓や貧困などはなく、それが理由で命を落とすことは俺がこの政策を行ってからゼロになっている。尤も、生活が充実したことで人間関係に問題が起こっていることは俺の知る由ではない。


「ここです、入りましょう」

「最後のディナーにしては、少し古臭くていい雰囲気のお店だな」


 パメラが止まった先にはこのテクノロジー国家には似合わない外見は木造建てのお店であった。ただこの国では木造建てなど存在せず、外見を変えているだけだ。


 パメラと共にお店の中に入ると、木造の椅子とテーブルが並んでいる店内は外とは全く違う雰囲気があった。


「いらっしゃい! 空いている席に座りな!」


 ガタイの良い男性が元気よくそう言いながら料理を作っている。人工知能やヒューマノイドロボットが料理を作ってくれるため飲食店を営む人は少ないが、それでも一定以上の人には人気があるくらいにはなっている。


 俺とパメラは適当な二人席を選び、対面して椅子に座った。こういう雰囲気のお店に来たことがないから物珍しさで少しだけ見渡した。


「こういうところは初めて?」

「そう、ですね。この国では珍しい部類に入ると思います」


 紙のメニュー表を持ってきたウェイトレスさんがそう聞いてきたから、俺は当たり障りのない答えを言った。そもそもこの飲食店は監視カメラ以外はテクノロジーが一切置かれていないから、雰囲気を優先しているのだと思った。


「まぁ珍しいよね。でもこういうお店って結構人気があるみたいだよ」

「へぇ、そうなんですね。……みんなテクノロジーが嫌いなんですかね?」

「うーん、嫌いとかそういうのじゃないと思う。同じ料理を食べていたら飽きるみたいに、テクノロジーがいっつもあったら違う物にも触れたくなるよね、みたいな感じかな」

「なるほど。……それもそうですね」

「うん。ちなみにメニューが書かれているのも紙だから」

「これはこれは、とても新鮮で良いですね」

「決まったら呼んでね」


 そう言ってウェイトレスさんは席から離れた。会話の途中でテクノロジーのことで突っかかりそうになったが、さすがにそれを言って目立つのは良くないと自制心が働いて口を閉じた。


 そしてウェイトレスに渡された紙のメニュー表を見ると、すべて手書きだった。少し前までは情報媒体は紙だったから紙に印刷されていたが、今は印刷せずにディスプレイ一つで情報を見ることができる。だから手書きも非常に珍しいものと言える。


「どうですか? こういうお店は」

「一言で言うなら、とても趣味嗜好に走ったお店だ。悪いとは言わないが、それでもテクノロジーの中で生きていた俺からすれば非常にナンセンスだ」

「ですが、この国の外ではこれが当たり前ですよ? 国の外に出るということはそういうことです」

「その言い方だと、パメラは国の外に出たことがあるということだが?」

「はい、あります。とは言え、少しの間だけだったのでそこまで詳しいわけではありません」

「俺はこの世界でどこにどの国があるのかは分かるが、他の文明は興味が全く出てこなかったから知らないな」

「……それでよく国を出ようと思いましたね」

「父上と俺の考え方が違っていたから、どうせ出るのは分かっていた。だが、興味がないものに興味を持つのは俺でも無理だ」

「そうでしょうね。ですからそこら辺は私がカバーします」

「頼もしい限りだ」

「そうです、頼もしい限りです。その私を突っぱねていた人はどこにいるのですか?」

「あー……、まぁ、それはすまなかった」

「分かっていただけたのなら何よりです」


 パメラに痛いところをつかれながらも俺とパメラはメニューを見てどの料理にするのかを決める。俺は魚料理を、パメラは肉料理を頼んで料理が来るのを待つ。


「こうして何もせずに待っている時間も、新鮮だな。そもそも外食という点で新鮮ではあるが」

「そうですね。今では家に帰れば温かい料理をすぐに出してくれますし、料理を待つという時間も限りなく最小になっています。ベネなら、〝無駄〟が起きている言いそうですね」

「それは少しだけ思っている。だがこういうところに大事な人と一緒に来ているんだから言わないしそこまで無駄とは思わない。こういう時間もスパイスというわけだ」

「……ベネのそういうことを至って普通に言えるのはずるいと思います」

「いつも思っていることを言っているだけだ。それとも、言わない方が良いか?」

「いえ、いつも通りで大丈夫です。……そっちの方が嬉しいですから」

「それは何よりだ」


 そうこう話している中で、近くにいる男一人の声が酒のせいか大きく、そこにいる男性二人の会話が嫌でも俺の耳に入ってきた。


「それよりもさ、ベネディクトとか言うこの国の王子は頭がいかれているのか?」

「おい! 機械に聞かれているかもしれないぞ!」

「こんな声がいっぱいある中で聞かれているわけがないだろ」

「この店に関係者がいるかもしれないぞ?」

「そんな偶然ないない」


 残念なことに、関係者どころか本人が近くにいる。それにたくさんの声があったとしても、分析して会話の内容は把握することは可能だ。悪口くらいなら何も反応しないだけだ。


「席、変えますか?」

「いや、これくらいなら大丈夫だ。気にしない」


 パメラが気を遣って言ってくれたが、言った通りで俺は気にしない。これくらいで気にするほどの精神を持ち合わせていない。


「それで? どうしてベネディクトさまの頭がいかれていると思っているんだ?」

「いい子ぶるなよ。お前だって分かっているだろ? あれは常人の感覚を持っていない、完全に国王になってはいけないバカだ」

「……さすがにそれは言い過ぎだぞ。確かに行き過ぎているところはあるが、それでも国のために思っているお方だ」

「本当にそう思っているのか⁉ 街中には監視カメラを死角なしでつけて、家の中でもプライベートを優先で監視カメラはついていないがヒューマノイドロボットの設置を義務付けている。そんな肩身の狭い生活を強いている奴の頭がおかしくないわけがないだろ!」

「だが、それでもこの国の犯罪率を下げようとしてくださっているのは明らかだ」

「いいや、あれは違うな。あれはいつ反逆を起こされるのが怖くてやっているに違いない」

「お前のその根拠のない自信のせいで彼女と別れたんだろうが。少しはその酔っている頭を使え」

「何だと⁉」


 そんな感じで二人は酒を飲んでいる男は冷静な男に突っかかって行っている。俺はと言えば、その会話を聞いても特に何も思わなかった。


 俺と彼らでは考え方が違うから、何も言うつもりはない。だが、言うとすれば、この世界がこの国が平和だと思っているのなら大きな間違いだ。俺がこうしなければ、平和を良しとしない奴らが出てきてしまう。


「ベネ、大丈夫ですか?」

「ん? 何がだ?」

「いえ、何でもありません。杞憂でしたね」

「もしかしてあんな言葉でショックを受けると思っていたのか? まさか、そんなやわな精神を持っているわけがないことは、誰よりもキミが良く分かっているだろ?」

「はい、そうでした」


 ただまぁ、こうして人の口から直接言われることが初めてだからどう思うんだろうと俺自身思っていたが、当然何も思わなかった。一部の人からこういうことを言われて慣れているからどう言われようが気にしなくなった。それどころか他の言葉を使ってほしいとまで思っている。


「それにしても、ベネの思惑に気が付いているのは、ベネの思惑で抑制されている人たちとは。とんでもないですね」

「そう言うものだ。人は不満をなくすことができない生き物だ。今が生きやすくても、それが成り立たせている物がなくても生きやすいと思っているのが滑稽だな」

「ベネがいなくなれば、確実にヒューマノイドロボット義務化は廃止されるでしょうね。その後、国がどうなるかは想像に難くないですね」

「父上はそのことを分かっているだろうが、父上はそれでも国民を信じている。俺は国民を信じずに未来を見据えている。だから俺と父上は相容れない。義務化が廃止されれば、どれだけ持つかは見物だな」

「家庭から追い出されたヒューマノイドロボットはどうなるのですか?」

「それは問題ない。ヒューマノイドロボットは結局は人工知能、今はオレイアスが管理している。ヒューマノイドロボットを壊すことは許されないし、追い出されれば俺の家に戻っていく。戻れば戻るほど、俺の家の警備が強固になるわけだ。……と言うか、もうこの話はやめにしないか? 今更こんなことを話しても無意味なだけだ」

「そうですね。もう私たちには関係のない話ですから」


 こういう時、パメラはかなり冷たくなる。俺に対して冷たくなったことはないが、家族が国にいるのに国が危ないと知っていながらも関係のない話だと言い放つ。


 だが、そこがとても魅力的だとも言える。きちんと切り替えることができるのは、生きていく上でとても重要だと思える。俺はそこまで切り替えは早くないから、羨ましい限りだ。


 そして俺とパメラの前に料理が出され、この国での最後の晩餐として味は少し微妙だがパメラと過ごせたからとても満足した。

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