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01:決別。

 地球ではない別のどこか、地球からは異世界と呼ばれる世界は古くから魔法が使われていた。魔法により世界は変革をもたらされ、平和を保つために魔法を使い、戦うために魔法を使い、人々の生活を便利にするために魔法が使われている。


 魔法で発展してきた世界では、魔法がなければ、人の力がなければ生活できないほどに魔法が浸透していた。例えば、ある国では魔法使いたちが結界を常に張っていなければ生活できないような環境なところがある。結界が解かれれば、国が崩壊してしまうほどに、魔法は重要な役割を果たしている。


 逆に言えば、魔法が使えない、魔法使いが少ない国はそれだけで他の国に侵略を受ける可能性があり、魔物によって国が滅ぼされる可能性もある。


 生き残ったとして、他の国と同盟を結ぼうにも余程優しい国でなければ足元を見られる可能性が高く、魔法や魔法使いの価値はそれほどまでに高くなっている。


 そんな世界で、とある国では王家も国民も魔法の素質が限りなくゼロに近い人々が暮らしていた。元々は魔法の素質がないことで国を追い出された人々が集まってできた国であった。


 そこは魔法がなければ生きられないほどに過酷で、人が暮らせるような場所ではなかった。だが、人が暮らせる場所ではないからこそ、他の国から狙われる心配がなかったため、この国の先祖たちはここに定住した。


 しかし、人が暮らせない環境であるため一刻も早く人が暮らせる環境にする必要があった。後にこの国の王族になる一族は魔法の素質がなくとも、魔法以外の才能には恵まれていた。


 追求する才能、多方向から考える才能、閃きの才能、努力する才能など、ありとあらゆる才能を持ちその地を人が生きられる環境にしてみせた。


 その力の名を、科学と言った。


 科学をゼロから作り上げ、発展させ、誰でも使えるようにし、さらには人力が必要としないようにして人々の生活をマイナスからどの国よりも豊かで、自由で、自分のやりたいことをできるようになるまでになった。


 その国の名を、オリンピア。


 世界で最も優れた国にして、最も強く、最も人々が幸福だと思い、最も人々に自由を強いて、最も人々を厳しく取り締まっている国である。


 建国当時から今現在まで科学を作り上げた一族が王族となり国を統治しているが、オリンピアに王族として生まれたある一人の青年がいた。


 その青年の名を、ベネディクト・オリンピア。


 ベネディクトという名は初代オリンピア王からつけられた名であり、偉大な科学者になるようにと込められてつけられた名前であった。彼はその名に恥じず、能力だけで言えば初代以上の頭脳を持っていた。


 ベネディクトは国を良くし、人が生きるために働かなくて良いようにするために数々の発明を行ってきたことで、今では地球であってもその技術は未来的な技術となっていた。


 多くの国民からベネディクトは〝希代の天才〟と言われているが、一部の国民からは〝冷徹な悪魔〟と言われている。


 ☆


 おそらく不機嫌な顔をしている俺、ベネディクト・オリンピアは今父親に呼び出されていた。さっきまで新たなヒューマノイドスーツを作っていたが、それを置いてすぐに来いと父上は言ってきたから不機嫌にならないとおかしい。


 呼び出される理由なんて見当もつかない。せいぜい黙ってシステムをアップグレードしたり、ニンフの機能を増やしたり、防衛バリアをアップグレードしたりとしたくらいだ。


 だがどれもこれも国のためにしたものであるから怒られる筋合いはない。むしろ褒めてほしいところではある。


 そうこう考えている内に俺は最上階にある部屋にたどり着き、俺が前に来ると部屋の扉は自動で開いた。部屋の中には空中に展開しているディスプレイを操作している濡羽色の髪で四十代とは思えないくらいの若さを保っている荒々しい雰囲気を纏った男こそが俺の父親だ。


「何か用ですか? 父上」

「呼び出されることをしている自覚はないのか?」


 父上は俺のことを見ずに本題に入ったことで俺はため息を吐きながらも、質問に答えた。


「さぁ? 何のことですか? 呼び出される覚えはありませんね」

「本当にそうだと言うのなら、お前は思ったよりも頭が悪いようだ」

「父上にしては冗談が面白いですね。笑えないくらいに」

「それなら一言でハッキリと言ってやろう、お前は国王に向いていない」

「そうですか。今日はそんなことを言うために呼び出したのですか?」

「そうだ。お前は国王になると信じて疑っていないようだな」

「当たり前です。あなたの子供は俺だけですよ? 次期国王は俺しかいませんから」


 父上が非常に非生産的な話しかしないことに俺は頭が痛くなる。何を言いたいのか分からないし、この時間があればより良いものを作り出せる。


「もし、俺に隠し子がいるとしたら、お前はどうする?」

「もしもの話なんて意味がありません。非常に無意味です。話は終わりですか?」

「もしもの話ではない。本当にお前以外に子供がいるんだよ」

「それは俺の母上との子供ですか?」

「そうだ」

「どうして隠し子にしていたのですか?」

「その子を、守るためだ」

「……ほぉ、俺なら守る必要がないとでも仰りたいのですか?」

「あの子とは違い、お前は何事も一人で超人的にこなすことができる。人によって対応を変えるのは当たり前のことだ」


 突然言われた俺の姉か兄か妹か弟か分からないような隠し子の存在を言われて、俺は納得してしまった。この父親は俺に時間を割くのではなく、その隠し子に時間を割いていたのだと。


「それで? 父上はその隠し子のことを俺に言って、何を言いたいのですか?」

「……まずはその隠し子が本当かどうかを確認させてくれ。入って来てくれ」


 父上がそう言うと何もない右の壁から巧妙なホログラムが解かれて扉が出現した。そしてそこから出てきたのは鮮やかな紅色の長い髪を持った妖艶な雰囲気の女性と、同じくその女性と髪色と顔が似通っているがまだ幼さがあって緊張している様子の女の子が出てきた。


「この子はマリア・オリンピア、ベネディクトの二つ下の妹だ。マリア、挨拶しなさい」


 父上が俺の妹か何かに話しかける声音はとても優しい物であった。それがとても気に入らないと思いながら、鋭い視線でマリア・オリンピアの方を向く。


「は、初めましてお兄ちゃん! わ、私はマリア・オリンピアです! 今日からよろしくお願いします!」


 元気よく声を上げて俺に深々と頭を下げてくる。一目見ただけで理解した、いや理解してしまった。どうして父上に守られていたのか。


「……キミ、本当に俺の妹か?」

「ッ……!」


 俺が冷たい声音でマリア・オリンピアにそう言ったことで、マリア・オリンピアは驚いた顔をして俯いた。


「口を慎みなさい、ベネディクト! マリアはあなたと同じで私がお腹を痛めて産んだあなたの妹よ」

「そう言う意味で言ったのではありませんよ、母上」


 妖艶な雰囲気の女性が俺の母親で、怒るとかなり怖い雰囲気になるが俺は別に怖くない。


「父上、冗談だとは思いますがもしや彼女を、次期国王にするおつもりですか?」

「……あぁ、そうだ」


 重々しい口で俺の質問にそう答えた父上に、俺は心底がっかりしてしまった。まさか今になって自身の父親が愚王になるとは思ってもみなかったからだ。


「父上、その冗談は面白くないですね。あれが国王になれる器だとでも?」

「あれと呼ぶな。お前の妹だぞ」


 父上が強い口調でそう言ったことで、俺は片手を顔で覆ってため息を吐くしかなかった。ここまで父親としてダメな部類だとは思ってもみなかった。


「いいえ、父上。あれは俺の妹じゃありません。あれは父上と母上の子供です。決して俺の妹じゃない」

「お前も俺とアグネスとの子供だ。それならマリアはお前の妹だぞ」

「父上、あなたは何も分かっていない。俺はこう言っているんですよ、あれが俺の妹として相応しくないから俺の妹として呼ぶのはやめてください、と」

「戯言は大概にしろ、ベネディクト」


 父上は今度はかなり怒った声音で俺に注意してくるが、特別俺は気にならない。むしろそれくらいで怒れるくらいには、あれのことを愛しているのだと逆に冷静になる。


「父上はどうして俺がこう言っているのか分かりますか?」

「お前が王位を継げないからじゃないのか? それ以外に何がある」

「確かにそれもあります。ですがそうではありません。これが分からないうちは、あなたは本当の意味で俺の父親ではありません。父親なんですから、子供のことを分かるのは当たり前ですよね?」


 俺の言葉に父上は黙ってしまった。当たり前のことだが、父上は絶対に俺のことを理解することができない。そういう風にしたのは父上のせいだ。


「お、お、お兄ちゃん!」


 俺と父上がにらみ合っていると、聞き慣れない声と言葉で俺に声をかけられた。俺はため息を吐きながらそちらを向くと、涙を浮かべながら俺のことを真っすぐと見ていた。


「ど、努力するから! お兄ちゃんに認められるように努力するから! だ、だから! わ、私を妹として認めて!」


 必死な声音でそう言ってくるマリア・オリンピアに俺は呆れるしかなかった。俺がマリア・オリンピアを認めることなど永遠にないのに。


「諦めろ、お前には無理だ。お前の能力に見合ったことだけをしていれば良い。時間の無駄だ」


 俺は事実をハッキリと突きつけた。するとマリア・オリンピアは浮かべていた涙がとめどなく流し始め、隣にいた母上に抱き着いた。母上はマリア・オリンピアを慰めながら俺を睨みつけてきた。


「ベネディクト、言い過ぎよ。あなたには人を思いやる気持ちはないの?」

「思いやっていますよ? ですから言いにくいことをハッキリと言ってあげたのです。無駄なことをさせない厳しい優しさよりも、無駄なことをさせる優しい厳しさの方がお望みですか?」

「そうでなくても、他に言い方があったでしょう」

「少なくとも、俺は他に言い方は思いつきませんね。俺は他人のために嘘をつくのは嫌いなので。それとも母上は何か言い方があるとでも? あなたもそれに才能がないことは分かっているのでは?」

「いいえ、才能はあるわ。あなたがないものを、この子は持っている」

「面白い冗談ですね、嘘にしては下手すぎますが。それが持っていて、俺が持っていない物なんて何一つとしてありません。まさかとは思いますが、弱い者の気持ちを考えれる、なんて言いませんよね?」


 俺の適当に言った言葉に母上は黙り込んだことで、そのことが当たりだと確信した。まさか俺にその心がないと思われていることがショックでならない。


「ハァ……、母上も、俺のことを本当に何も分かっていらっしゃらない」


 父上も母上も俺のことを一切分かっていない。分かっているのは俺を幼い頃にお世話してくれたパメラだけだ。本当にバカバカしい。


「父上、母上。あなたたちにとって俺という存在は何ですか?」

「何を言っている、お前は愛する俺の息子だ。それ以外に何だと言うのだ」

「そうよ、あなたは愛おしい私の息子よ」

「それにしては、俺のことを何も分かっていらっしゃらない。あなたたちは、ただ俺がこれまで国のためにしてきたことを知っているだけで、俺のことを何も知らずにいる」

「何も知らないわけがないだろ。俺は父親らしいことを今までに――」

「何をしてきたと言うのですか⁉ 誕生日を一ヶ月過ぎてプレゼントを贈ってくれたことですか⁉ 俺の好きな物を知らずにパメラに聞いて好きな物をくれたことですか⁉ 寂しいだろうという理由で好きでもないぬいぐるみをプレゼントしたことですか⁉ あなたたちは普通の家庭でしてくれる家族の温かさすらもくれていない! ただ俺を有能で手のかからない息子としてしか見ていない、ただそれだけだ!」


 二人があまりにも分かっていないことを言ってきたから頭に血が上って声を荒げてしまった。もうどうしようもないくらいに、二人のことがどうでも良くなった。


「もう良いです。結構です。お二人が俺のことをどう思っているのか分かりました」

「お、おい、ベネディクト、どこに行く?」

「どこかです」


 父上の問いかけに適当に答えて俺は部屋から出た。もうどうしようもないくらいに泣きたい気持ちをおさえて、俺は自室へと歩を進める。

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