愛コトバ
めちゃめちゃ久しぶりの短編です。あ、小説として、という意味です。
やっぱりラブプレ書いた後は短編書きたくなります…^^;
毎朝のように、今は開かずの扉となった部屋をノックする。
「奈津…」
そう呼びかけても、返事はない。葉月は、小さく溜息を漏らした。そして、愛する人と交換したネクタイを締めながら、リビングへと向かった。
「おはよう、葉月。」
母の挨拶は、まるで社交辞令。他人事。生気がない。明るく、周りから美人だと云われていた母がこんな風になってしまったのは、奈津が引きこもってからだった。といっても、奈津の引きこもり期間は三日。正直、日数的には引きこもりと呼ぶにはあまり相応しくない気がする。。けれど、奈津がいない空間があまりにも不自然すぎて、引きこもり期間が、一ヶ月にも、一年にも感じていた。
「…おはよう」
葉月が素っ気無く挨拶を交わした。母は振り返りもせず、葉月の弁当を詰めた。テーブルに出された朝ご飯のトーストに、少々のいちごジャムを塗った。時間的には、まだ一時間もの余裕がある。けれど、葉月はそれを急いで食べた。急いで食べた為、喉がつっかえたような感覚がある。そんな感覚を消そうと、葉月の好きな麦茶で流し込む。そして、静かに手を合わせ、心の中で「ご馳走様でした」と言う。皿を重ねて台所に持っていくと、葉月は少し早足でトントンと奈津と自分の部屋がある二階へ上った。
「奈津ー…。いい加減、出ておいでよ?」
開かずの扉―――…奈津の部屋の前まで来て、優しくそう言った。しかし案の定、返事は返ってこない。葉月自身、自分の弟がこうして出てこない理由は分かっていた。いや、分かっていたというより、むしろ自分こそが原因だと言った方がいいのだろうか?
「あの時はごめんね…?ねぇ、もうしないから!お願いだから…出てきてよ?」
そう、葉月の弟・奈津が出てこない原因は、他の誰でもなく葉月だった。
あの日葉月は、禁忌を犯した。
帰ってきて玄関にあったのは、女の子の靴。ピンクでヒールで、まさに女の子。奈津に、彼女が出来た
のだろうか?不安になる葉月の予想は、悲しくも的中していた。
「初めまして…。奈津君とお付き合いさせていただいてる、優香です。」
「バーカ。そんな堅い挨拶しなくてもいいよ。ただの姉貴なんだし。」
奈津の部屋で二人っきりで話してた。平静を装って入ってみたけど、やはりきつかった。奈津の彼女である優香は、ふんわりした女の子で、可愛かった。そんな彼女に、奈津は葉月のことを「姉貴」と紹介した。こういうのは、世間では普通。けれど、葉月はそうは思わなかった。だって―――――
「どーも。奈津の姉です。」
「なんか冷たい?つか、葉月も早く彼氏作ればいいだろ?」
彼氏?叶わぬ恋をしている葉月にとっては、最悪な言葉だった。葉月には好きな人がいる。その好きな人が、奈津だったから。
「あは…だねぇ」
笑って返した。けど、辛い。辛い。どうしようもなく辛い。この時の葉月は、泣き出しそうだった。けれど、それを必死で我慢した。ねぇ、親もいないこの家で、しかも奈津の部屋で。何やってたの?本当に、話していただけ?何もしてないの?そんな不安ばかりが、葉月の脳内をよぎった。そしてその不安は、いつしか憎しみへと変化していた。
その夜。奈津が寝た後、葉月は奈津の部屋にそっと入った。そして………
「ん………っ!?え、葉月?お前、何してるの?」
奈津に合わせていた唇を離すと、葉月は言った。
「奈津を襲ってるの。」
葉月は、狂ってしまったのだろうか?愛する弟を、歪んだ愛で縛り付けてしまった。別々の高校に入学した葉月たちが交換したネクタイで、愛する人からもらったネクタイで、大好きな弟を拘束しながら…。葉月は、弟に自分の愛を語り続けた。
そう、あの日から。葉月が奈津を襲ったあの日から、奈津は姉ではなく一人の「女」と化してしまった葉月の存在が怖くなってしまったのだ。
「………奈津ー…。出てこないの?」
奈津の部屋の扉を優しく撫でながら、葉月は呟いた。
「ねぇ………愛してるから………早く、出てきてよ………」
毎日、何度も発するこの言葉が奈津を苦しめているとも知らずに、葉月は何度もそれを連呼した。連呼しつづけた。気づいているだろうか?奈津が、今の葉月の存在に苦しめられているということに。既に、あの大好きだった姉がいないと奈津が感じていることに。葉月は、気づいているのだろうか?
「奈津………愛してるよ…」
葉月はそう言って、奈津の部屋の扉にキスをした。
――――今日も、開かずの扉の封印は解かれないまま。
結構書いたつもりなのに、全然でした。内容がダークだからかな?;