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毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺が寝ている隙に催眠術で惚れさせようとしてくるんですけど……!  作者: 田中
第一章 毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺が寝ている隙に催眠術で惚れさせようとしてくるんですけど……!
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「じゃあ、キスして」

「へ……?」


 暗いリビング、柔らかいソファーの上。

 俺は雫の言葉の意味が、理解できなかった。


「キスしてって、いってるの……!」


 整った眉を吊り上げて、これでもかというほど耳を真っ赤にして、俺のことが嫌いすぎるはずの義妹は、キスをせがむ。


 いやまじで状況が理解できないんですけど……!


「ま、まさか催眠にかかってないの……?」


 冷や汗をかきながら引きつった笑みを浮かべる俺を、じーっと見つめる雫。

 手には例の如く大きな金槌が握られていた。


「そ、そんなことないよ? さ、サイミンカカッテルヨ?」

「……な、ならちゃんと私の言うこと聞きなさいよ!」


 涙目になりながら俺の胸ぐらを掴み、左右にゆする義妹。

 くそ……! どうにかしてごまかさないと俺のファーストキスを義妹に捧げてしまうことになる……! ラノベならともかく、現実(リアル)でそれはなかなかハードルが高いっ!


 しかし! この状況を打破する術を俺は知っている!

 そう! 俺は曲がりなりにもラブコメラノベ作家だ! 

 鈍感系主人公でなければラブコメはすぐにハッピーエンドになって物語が終わってしまう。だからヒロインと主人公がくっつきそうになったらそれとなくフラグをへし折る鈍感セリフを主人公に言わせなければならないのだ! いやあくまで俺の考えだけどね!


 ともあれ、俺は鈍感フラグへし折り最低主人公を書けるということは、演じるということもできる……たぶん!


 この催眠義妹のキスせがみシチュエーションとかいうエロ同人も真っ青な展開だって回避してみせるぜ!


 俺はラノベを書くことによって培われたフラグへし折り能力を解放し、催眠義妹に立ち向かった!


「あのぉ〜お客様すいません〜っ。今、冷蔵庫の中は空っぽでして〜」

「いや魚の(キス)じゃないから。ふざけてるの? 死ぬの?」


 金槌を振り上げる雫。


「あーっ! お客様困ります! 当店は金槌の持ち込みは禁止になっております……! あーっ! 困ります!」

「このクソ兄貴……とんでもなく厄介な催眠術のかかり方してるわね……バイト先の記憶が引っ張られているのかしら……本当気持ち悪い」


 必死の抵抗の末、なんとか金槌を下させることに成功した。でも、人として失ってはいけないものを失った気がする。


 いやしかし……! これは好機……!

 雫は今俺をゴミを見るような目でにらんでいる! 千年の恋も冷める勢いでにらみ蔑んでいる!


 俺のことが大っ嫌いなはずの義妹が、何故キスをせがむのか理解に苦しむけど、とにかく! キスだけは避けなければならない!


 雫が俺のことをどう思っているかはわからないけど、俺にとって彼女はかけがえのない大切な妹。

 その妹とファーストキスを交換し合うなんて高度なプレイはさしもの義妹属性好き俺でもはばかられる展開なのだ!


「……おにいちゃん、キス、わかりません。ドーテーですから」

「……この愚兄は催眠にかかっても鈍感なのね……」


 雫の目的と俺の目的の中間地点。催眠にかかってるけど若干失敗してしまった。そういうシチュエーションを目指すしかない!


 そうすれば雫は俺の記憶を消して催眠を終わりにするはずだ……!


 俺はめいっぱい催眠失敗顔(意味わからん)をつくって、ぽけーっとした具合で声をあげる。


「きす? なにそれおいしいの?」

「何よその顔むかつくわねぶち殺されたいの?」

「あっ、すんません」


 悪鬼羅刹の如き表情を浮かべた雫の前では、俺のとぼけ演技などまったくの無力だった。

 めっちゃ怖い。おしっこちびるかと思った。


「まったく……しょうがないわね……。キスっていうのは、その……恋人同士が……こう……あ、愛を確かめ合う、アレよ……」


 心底恥ずかしそうに、俺の義妹はもじもじしながらそう言った。


 催眠術をかけたと確信しているにも関わらず、この恥ずかしがり方……さてはこの義妹、まだ覚悟を決めていないな……?


 ……ならば攻めるしかあるまい!

 

「キスって、具体的にどういう行為なんですか?」


「えっ……」

「ですから、キスってどういうキスなんですか? いやー困るんですよねー。催眠術かけられてるこっちも具体的にどうすればいいのか言ってもらえないと、中々行動にうつせないんですよ。だってキスにも種類があるでしょ? ほら、最近そういう理不尽なクレームとか多いじゃないですか? だからそのあたりウチではキッチリ聞かせてもらってるってわけですよ〜。いや〜すみませんねぇ〜」

「あ、アンタ……本当に催眠術かかってるんでしょうね……!」

「えぇもちろん。かかりまくってますよ。これ以上ないくらいにね」


 動揺する雫。

 開き直る俺。

 完全に主導権は握った……っ!


 雫は言うまでもなくプライドが高い。

 この状況で『具体的に自分がどうやってキスされたいのか』なんて恥ずかしいこと彼女が言えるはずがないのだ。


 さぁ! 恥ずかしくなって部屋から立ち去るがいい!


 安心しろ! ちゃんと忘れたフリはしてやるからな!


「そ……その……」

「ふえっ? なんですかお客様? 声が小さくて聞こえませんよ?」

「あ……あの……っ!」


 雫は、着ていたTシャツが破けるんじゃないかってくらい、裾を握って、そして悔しそうに、呟く。


「す、少し……強引に……ソファーに押し付ける感じで……そ、それで……『お前は俺の妹なんかじゃない、俺専用のメスだ』って言いながら……わ、私の両手を片手で拘束して……き、キスしなさい……っ!」


 いやめっちゃ事細かにシチュエーション設定してきて草。


 ……いや草はやしてる場合じゃねぇわっ!!!


 なんだよ! 『お前は俺の妹なんかじゃない、俺専用のメスだ』って!!

 エロ同人誌迷言botに取り上げられるレベルで迷言なんだけど! そんなセリフ恥ずかしくて言えるわけないだろ!


 いや落ち着け……落ち着くんだ俺……!

 思いの外雫がMだったこととかセリフのセンスがダサすぎるだとかいろいろ追求したい部分はあるけど、雫がシチュエーションを設定してきた以上、催眠術にかかっていると思われている俺はそれをやらなければいけない! 問題はそこだ!


 ま、ままままままずい……っ!

 ドMな義妹にSっぽく、しかもクソダセェセリフを吐きながらキスするなんて恥ずかしすぎて死んでしまう! 

 とても正気じゃいられないっ……っ!


「……これでいいんでしょ! 早くしなさいよ! この変態!」


 いやお前にだけは言われたくねぇわ!


「しょ、少々お待ちください〜」

「も、もう待てないっ!」


 ガバッと、ソファーに仰向けに寝転がる雫。


 Tシャツにホットパンツ、かなり際どい格好をした彼女は、柔らかそうなお腹と太ももを見せつつ、服従のポーズをとる。


「や、やはり兄妹でそういうアレは健全ではないのでは……」

「は? やらないの? まさか催眠術かかってないの? もし素面ならアンタを殺して私も死ぬからね?」

「そ、そんなぁ〜冗談ですよぉ〜」

「ならはやくしなさい!」


 終わった。


 詰んだ。


 催眠術にかけられた状態で、命令されたことをやらなければ死。

 命令を聞いても恥ずか死。


 どちらをとっても死しかない。なんだこのクソゲー。


「…………」


 物欲しそうに俺を見つめる雫。

 ちゃっかり右手には金槌を持っていた。利き手に持っているあたり抜かりない。


「……っ!」


 大きく深呼吸をして、覚悟を決めた。


 精神的な死と、物理的な死なら!

 俺は精神的な死を選ぶっ!


「きゃっ!」


 片手で雫の両手を掴み、雫の頭の上で固定する。


「こ、このケダモノ! 兄妹でなんて不健全よ! や、やめなさいっ!」


 いやお前がやれっていったんだろうが!!


「お……っ、お前は俺の妹なんかじゃない……俺専用の……め、メスだ……っ!」


 うわぁああ死にてぇえええええええええ!!!


「か、かっこいい……」


 お前のセンスまじでどうかしてるよッ!

 このセリフのどこがかっこいいんだよ!


 俺を見つめる雫。

 完全にスイッチが入っていた。


 俺は覚悟を決めて、ゆっくりと顔を近づける。


「……お兄ちゃん……きて……」


 瞳と唇を濡らし、整った顔を赤くして、雫は目を閉じる。

 少し汗ばんでいる彼女。例えようもない妖艶な香りがした。

 そんなクラクラするような匂いに当てられてか、俺も半ば正気を失う。


 今は亡き親父へ、俺の初めてのキスは妹でした。しかも催眠属性付きです。いろいろとごめんなさい。


 濡れた唇が、触れそうになる。


 その瞬間。



 ガチャリと、玄関を開く音が聞こえた。



「っ!」



 光よりも早く俺の拘束を振り解き、ソファーに正座する妹。

 そしてほうける俺の顔面にアイアンクローをかまして。


「いい……!? 私が手を叩いた瞬間に、催眠中に起きた出来事はすべて忘れなさい……! それと、また私が催眠をかけた時は最初の暗示通り、私のことをこれ以上ないくらい大好きなお兄ちゃんになること……! わかったわね……!」

「わ、わかりました……っ!」


 そう言って、パチンと可愛らしく手を叩く雫。

 それと同時に、リビングに入ってきた母。


「ただいま〜……って、アンタ達が一緒にソファーに座ってるなんて珍しいわね。何かあったの?」

「……」


 無言で立ち上がる妹、どうしていいかわからない俺は、微妙なにやけ顔を浮かべていた。


「クソ兄貴、匂いうつったらどうすんのよ。本当きもい、マンホールに落ちて死ねば?」

「えっ……?」


 先ほどとの落差に驚く。

 けれど、今の俺は非催眠状態。いつも通りの俺を演じなければならない……!


「……あ、あれ? なんで俺ここにいるんだ……?」


 俺のセリフを聞いた妹は、少し安心したような顔をして、リビングを後にする。


「あらあら今日も仲良しね」


 母親のあながち間違っていないセリフに若干耳を痛めつつも、俺はとりあえず大きく息を吐く。


 今日以降、どのタイミングで雫に催眠術をかけられるか予想もつかない……。


 これから訪れるであろう受難の数々に胃を痛めながら、俺は甘い香りのするソファーに寝っ転がった。


 




催眠術を駆使してキスをせがむ義妹はいかがだったでしょうか?

可愛いと思ったらぜひ評価ブクマ感想よろしくです!

更新頑張ります!

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がキスの注文に関して細かく問い詰めた所って、妹的にはSっぽくて高評価だったのかな 恥ずかしがりながらも質問に答えた所まで性癖っぽい
[良い点] 文章が頭に入りやすくイメージがしやすかった
[良い点] 面白いと思います。才能を感じました! [気になる点] 面白すぎる所ですね [一言] この勢いで頑張ってください!
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