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毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺が寝ている隙に催眠術で惚れさせようとしてくるんですけど……!  作者: 田中
第三章 毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺の悪口を言うイケメンクラスメイトにブチギレたんですけど……!
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 整列し、少しの静寂、そして審判がピストルの撃鉄を起こし、引き金を引く。


 かん高い音が、空に響いた。それと同時に、土を蹴り上げ、スタートを切る第一走者。


 割れんばかりの歓声がトラックを包む。点数が入る競技としてはこの選抜リレーは最後の競技。そして現段階で一位の速水率いる赤組に、俺と雫とりんこが所属する青組は僅差で二位につけていた。


 このリレーで勝てば、青組が優勝し、なおかつ、雫の運命が決まる。


 そんな様々な要素が絡み合い、選抜リレーはかつて類を見ないほど盛り上がっていた。


 第一走者が百メートルを走りぬき、バトンがりんこにわたる。


 一位は赤組、そして僅差で青組、その後ろ少し離れて黄組、緑組と続いていた。 


「行け! りんこッ!」


 声を荒げて応援する。偶然か、その声と同時に加速。大きな重りを揺らして青組の女子走者を追い抜き、さらにぐんぐんと距離をあけていく。


「は……?」


 りんこの走りを見て、速水は焦りを見せる。そりゃそうだよな……おっとりとした見た目のりんこがあんなに走れると普通は思わない。


「ま……まだ、大丈夫だ……」


 うわごとのようにそうつぶやいても、もう遅い。 

 りんこは最後までスピードを落とさず、むしろ加速して、第三走者の雫の元へ風のように飛び込む。


 雫もりんこのスピードに呼応するように、リードをとった。


「差を広げなきゃ承知しないから!」

「さっさと渡しなさい、地味女!」


 パシンと乾いた音をたてて、バトンは速度を全く落とさず雫にわたる。


 りんこの最速でスタートし、そこからさらに加速。


 一年前、陸上部さえも置き去りにした健脚が火をふいた。


 雫は割れんばかりの歓声を、小さな背中でつかみ、ぐんぐんと距離をあける。


「こ……こんなの、ありえない…………」


 ぼやく速水を無視して、トラックの一番内側に陣取り、深呼吸する。


 赤組との差は、想定していた距離よりも大幅に開いていた。これならコンディションの悪い俺でも速水に勝てる……!


 頭は少し痛むけど、足も動くし呼吸もできる。


 りんこと雫が必死で作ってくれた差を、無駄にするわけにはいかない。


 あっという間にトラックを半周し、アンカーである俺の元にやってくる雫。


 雫の最高速度に合わせてリードを獲る為、俺は体勢を整え、勢いよく一歩踏み出した。


「ッ!?」


 けれど、二の足がついてこない。


 後ろ足が、何かに引っかかった。


「ぐッ!!」


 俺は勢いそのままに、顔面からグラウンドに倒れ込む。


「あ、ごめん市ヶ谷くん! 靴ひも結んでて気づかなかった!」


 速水のわざとらしい声が背後から聞こえた。


 おそらく、俺の後ろ足を靴紐を結ぶふりをして速水は自信の肩に引っかけたのだ。


 腹を立てている暇はない、すぐに立ってリードをとらなければ……!


「あ……れ……?」


 けれど、うまく足が動かない。地面にぼたぼたと血が垂れた。


 転んだ拍子に、階段で転んだ時の傷が開いたのだ。鼻血が垂れ、額に血がにじむ。


 俺のコントのようなズッコケっぷりに、マンガのような情けない鼻血。


「さぁ皆さん! 盛大にこけても頑張る市ヶ谷くんを応援してあげてください!」


 速水の演技くさい応援をきっかけに、トラックを囲む観客の白熱した応援は一気に嘲笑へと変わる。


 意識が朦朧(もうろう)としてきた……。


 やっぱり……俺なんかじゃ……。


 冷たい笑い声に、完全に戦意を喪失しかけた。


 その時。


「お兄ちゃん! 頑張ってッ!」


 背後で、妹の声が聞こえた。


 瞬間。意識は覚醒し、足に力が戻る。


 俺は今まで、何のために頑張ってきたんだ。


 すべては……。



「雫の為だろうが……ッ!」



 立ち上がり、地面を蹴り上げる。


 背後を振り向くと、雫がトラックに飛び出していた速水を弾き飛ばして、俺の元へ駆けてくる。


「お兄ちゃん、勝って!」

「……ああ、任せろッ」


 バトンを受け取り、走り出す。


 顔面血だらけになりながら、鼻血をまき散らし、涙目で走る。


 そんな俺を見て、観客や生徒たちは大声で笑った。


 どんなに馬鹿にされても、どんなに笑われてもいい……!


 雫の期待にだけは、絶対に応えるッ!!


「俺は!! 妹の為に勝つッ!!」


 体はボロボロなのに、自分でもびっくりするくらい速く走れた。


 風を切り、体を倒しコーナーを曲がる。


 血が流れ、ふらつく意識を奥歯をかみしめてこらえる。口の中に血の味が広がった。


 あと、もう少しッ!


 そう思ったのもつかの間、背後から土を蹴り上げる音が聞こえる。


「市ヶ谷ぁぁぁぁあああああ!!」


 あれだけ広がっていた速水との差はすで、五メートルほどの距離に縮まっていた。


 なんて速さだ……!


 このままじゃ、追い抜かれる……ッ!


 速水に威圧され、後ろを振り向きそうになる。


「あっくん! 前だけ見て走りなさいッ!」


 ゴール付近で待っている幼馴染に視線が移った。隣には雫もいる。


 後ろから迫る速水の気配を振り切り、全力で腕を回し、足を前に出す。


 息は切れ、血だらけになり、泥まみれ。


 そんな情けない俺の姿を見ても、雫とりんこは大声をあげて必至に応援してくれている。


 絶対に負けられないッ! 絶対に勝つッ!


「ッ!」



 声にならない声を上げ、加速する。



 背後から、もう気配は感じない。



 俺は、まだ土のついていないゴールテープめがけて飛び込む。



 腹に当たる微かな感触。



 その感触を確かめたと同時に、俺はまた、グラウンドに転がり込んだ。



 消えゆく意識に中、最後に聞いたのは。



 割れんばかりの歓声と、りんこと雫の、涙まじりの声だった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 屑野郎に天罰を!
[一言] 速水の屑っぷりここに極まれりって感じ。引き立て役とわかってても胸糞なので、しっかり責任を取ってもらいたいな。
感想一覧
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