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毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺が寝ている隙に催眠術で惚れさせようとしてくるんですけど……!  作者: 田中
第三章 毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺の悪口を言うイケメンクラスメイトにブチギレたんですけど……!
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 人ごみをかき分けて走る。


 選抜リレー開始まで残り時間わずか、体育祭で最も人気がある種目を一目見ようと、トラックを囲む観客テントには生徒や保護者でごった返していた。


 あの子なら……あっくんが走るコースの前、グラウンド南のテント、そこの最前列にいるはず……!


「ぷはっ!」


 人ごみを抜けて、トラックが見える観客席最前列に出る。


 選抜リレーで選手たちがスタートし、ゴールする場所。そこがよく見える一番人気の場所。

 予想通り、彼女はそこにいた。


「雫ちゃん! ちょっと来てッ!」

「っ!?」


 テントの中で、高そうなビデオカメラを持って行儀よく体育座りしていた雫ちゃんの腕をつかんで、無理矢理立たせる。


「ちょっ! 何なのよ地味女! 私はいまからお兄ちゃんの勇姿を」


 雫ちゃんの言葉をさえぎり、説明を始める。


「走りながらでいいから聞いて! 選抜リレーのメンバーが足りないの! だから雫ちゃんに出てもらう!」

「はぁ!?」

「悪いけど考える時間もあげられない! お願いだから出て!」

「な、なんで私がアンタの頼みなんか……!」


 渋る恋敵。私は、足を止めて、彼女の肩を両手でつかむ。


「よく聞いて、このままじゃあっくんは速水くんに負ける。不戦敗で負ける。あなたの為に、あなたのわがままの為に、この数か月間、本当に死に物狂いで努力したあっくんが負けるの! 理解できる!?」

「ッ……! お、お兄ちゃんが負けるはずがないでしょ!」


 わがままという単語はあっくんと雫ちゃんの間にしか通じない単語だけど、この際仕方がない。

 私は思っていることをすべてぶちまける。


「学年テスト一位!? 選抜リレー一位!? ふざけるのも大概(たいがい)にして! 勉強も運動も苦手なあっくんがそんなあなたの『お願い』の為に、どれだけ苦しい思いをしたと思ってるの!?」

「お、お兄ちゃんは……お兄ちゃんなら、本気出せばそのくらい……!」

「あなたの理想を彼に押し付けないで……! 今まであっくんがその迷惑な理想に応えてきたのは、ひとえに雫ちゃんのためよ! 到底届かない結果を、捨て身の努力で引き寄せたの!」


 催眠術という思い込みの力なんて、彼にはない。彼はただの平凡な……いや、平凡以下の男子高校生だ。でも、それでも、彼はあきらめなかった。寝る間も惜しんで勉強し、吐くほど走った。


 その努力がなければ、点数が離れすぎて私とテストのすり替えだってできなかったし、リレーだってもっとハンデが必要になり、山中さんが出場できたとしても到底敵わなかった。


 あっくんは勝とうとしてる。雫ちゃんの為に。



 ……本当、死ぬほどイラつく。



「これで最後よ! 雫ちゃんの為に勝とうとするあっくんを、雫ちゃんが勝たせなさい! もともとはあなたが始めたケンカでしょ!」


 人目もはばからず、私は叫んだ。雫ちゃんは。数秒黙って。


「………………勘違いしないで、アンタの頼みを聞いたわけじゃないから」


 そう言って、上着を脱いだ。


「足、引っ張らないでね」

「こっちのセリフよ」


 校舎に設置された大きな時計を見る。


 選抜リレー開始まで、残り五分。



 * * *



「はぁ……はぁ……っ!」


 髪の毛から水が滴り、長袖の体操服を濡らす。


 水道水によって冷えた脳みそは、階段から落ちた直後とは思えないほど冴えていた。


 選抜リレーが始まるまでもう五分もない。


 息を切らしながら人ごみを縫って、俺は競技者が控えるテントに転がり込んだ。


「あっくん! よかった……間に合った……!」


 汗だくの俺を見て、優しく声をかけるりんこ。驚いたような顔で俺を見つめる教員。そして、速水。


「ど……どうして……お前が……!」

「悪いな速水……アップしてたら遅れちまった」


 俺の軽口に対して、速水は親の仇でも見るかのように顔を歪めた。


「四人揃いました。競技に出られます」


 りんこがそう教員に告げる。控室の隅を見ると、雫が恥ずかしそうにテーブルに寄りかかっていた。


 これでようやく勝負ができる。


 時間が押しているのか、教員達は急かすように俺たちを整列させ、入場曲をかけた。


 トラックを囲む大勢の観客。その歓声に交じって、速水の声が聞こえた。


「お前は……何度俺をコケにすれば気が済むんだ……ッ」


 雫の暴言に続き、学年テスト、そして今回の妨害。おそらく俺は速水の予想を大きく上回る結果を残してきた。速水はそれが許せないのだろう。


 いままでずっと、社会的強者。


 諦めることも、負けることも知らない。


 そんな彼が、俺みたいなスクールカースト最底辺に苦汁をなめさせられているのだ。


 腹が立たないわけがない。


「……お前が雫に手を出そうとする限り、何度だってコケにしてやる」


 速水は、より顔を歪める。速水のやり方に文句は言わない。

 俺だって、彼と同じように汚い手を使ったからだ。だからこそ一歩も引かない。

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