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毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺が寝ている隙に催眠術で惚れさせようとしてくるんですけど……!  作者: 田中
第三章 毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺の悪口を言うイケメンクラスメイトにブチギレたんですけど……!
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 右手を大きく振り上げる金髪。

 俺はまぶたを閉じた。

 次の瞬間、俺の頬に焼けるような痛みが襲うだろう。

 けれど絶対に主張は曲げない。


 人としての矜持を曲げるくらいなら、殴られたほうがマシだ。

 男として情けないかもしれないけど、物理的にも社会的にも弱者である俺がとれる唯一の抵抗だった。


「……ッ!」


 歯を食いしばる。


「……」


 けれど。

 幾度待てども、拳が降ってくることはなかった。

 

「何やってんの?」


 かたい拳の代わりに、鼓膜が凍てつくような声が聞こえた。

 恐る恐るキツく閉じたまぶたを、ゆっくり開ける。


「し、雫……!」


俺を取り囲む男たち。そしてその異様な光景の外から、俺の義妹はこれでもかと言うほど眉間にしわを寄せて、こちらをにらみつけていた。


「雫さん……! こ、これは……その……!」


 先程の勢いはどこにいったのか。

 雫が現れた途端、俺を殴ろうとしていた金髪は、親に悪事がバレた子供のように慌てふためいて拳をおさめる。


 雫はモテる。

 そのモテるは、好意の性質は、誰にでも優しいクラスの人気者というありふれたモノではない。

 兄としては甚だ遺憾だけれど、雫を見た人間は決まって同じ感想を抱く。


『自分とは住む世界が違う』


 特異な容姿は、異性を惹きつけ同姓を嫉妬で狂わせる。

 そんな妹が、クラスメイトに見せるいつもの無表情を崩して、悪鬼も裸足で逃げ出すほどの形相を浮かべているのだ。


 怖くないはずが無い。


「何やってんのって、聞いてるんだけど」

「ひぃっ……!」


 普段の声からは想像もできないほどの暗い声。

 何もやましいことをしていない俺でさえ、何故だか申し訳ない気持ちになってしまうほどだ。


「……っ」


 金髪男子は雫の表情や声音におびえながらも、拳を握りしめながら口を開く。


「雫さんはさ、なんでこんなに冴えないやつといつも一緒にいんの? 兄妹関係って言っても義理だよね?」

「……」

「何か弱みを握られてるとか、そういうのだよね……?」


 怯えながらも、金髪は雫に問う。

 確かに俺みたいな冴えない男子が、雫のような桁違いな美少女と一緒にいたら弱みを握られていると疑っても仕方ないのかもしれない。

 雫は黙っていた。今の俺は催眠術にかかっていない状態だし、周りにいる人間は初対面、紡ぐ言葉を探しているのかもしれない。


「俺の方が勉強もできるし、運動もできる、顔だっていい。なのになんでこんなクソみたいな男に……」


 散々な言われようだけれど、的を得ているので何も言い返せなかった。

 俺が申し訳なさそうにもじもじしていると、黙っていた雫が表情をさらに険しくして口を開く。


「それが何?」


 ジワリと、額に汗がにじんだ。


 身内である俺でさえ、足がすくむような声音で、雫は続ける。


「運動? 勉強? どうやらアンタの精神的な成長は小学生で止まっているようね。その程度のものさしでしか人を測れないのなら死んだほうがいいわよ」

「しッ!?」

「人間の価値は社会的地位や能力だけで決まらない。大人なら誰でも知っている常識よ。それに、そこにいる愚兄の能力をアンタは大して話したこともないくせにすべて理解できたというの? できるわけないわよね? その驕り、自分がなんでも理解しているという浅はかな考え方が小学生なのよ。他者を容姿や能力のみで見下すような情けなくて気持ち悪いお山の大将でいたいなら、狭い教室から一生外に出ないことをお勧めするわ」


 さすがはパイルバンカー系義妹。言葉の切れ味が常軌を逸している。

 雫に信じられない勢いで罵倒された金髪は、目に涙を浮かべて壁によりかかる。

 先ほどまでは金髪のことを非常識なやつだ、迷惑なやつだと思っていたけれど、雫さんに心に風穴をあけられた彼を見て、今はただただ同情していた。


「ま、能力においても、愚兄はアンタに負けたりしないけどね」

「へ……?」


 嫌な予感がする……。

 俺は雫の言葉を遮ろうと口を開く。けれどその努力もむなしく彼女は信じられないようなことを口走った。


「私の愚兄はね、体育祭だって選抜リレーに陸上部相手にぶっちぎりで勝っちゃうし、期末テストだってあのクソ地味幼馴染を倒して学年一位になるんだから」

「雫さん? 何言ってるんですか?」

「黙りなさい」

「そんなぁ……」

 

 俺みたいなモヤシラノベ作家がそもそも選抜リレーに選ばれるわけないし、入学以来学年一位をとり続けている幼馴染のりんこにテストの点数で勝てるはずが無いのだ。

 そんな周知の事実を無視して、なおも雫の虚言は止まらない。


「私の兄はね、普段は目立ちたくなくて実力を隠しているだけで、本気を出せばそれくらいわけないんだから」

「その話は本当か……?」


 金髪は、話している雫を無視して俺に問いかける。

 いや嘘に決まってんだろ……!

 そう答えたかったけれど、雫が俺をにらみつけて『できると言わなかったら殺す』と視線で語っていたので。


「ま、まぁできないことはないけどな……!」


 と、嘘を吐いてしまう。


「その言葉、もし本当じゃなければただじゃおかないからな!」

「ええいいわよ。もしそれが現実にならなかったら私がなんでも言うことを聞いてあげるわ」

「ちょっ! 雫……!」

「あんたは黙ってなさい」


 雫の『なんでも言うことを聞く』というセリフを聞いて、金髪はにやりと口角を上げる。


「結果を楽しみにしています……」


 金髪はそう捨て台詞を残して、取り巻きとともに消えていった。



 * * *



「おい雫! あんな約束今すぐに取り消すべきだ!」


 おそらく、俺を馬鹿にされて苛立った雫が勢い任せにした約束。条件を達成できなければ雫はあの金髪にいいようにされてしまう。

 約束を破った結果、俺だけが嘘つきと罵られる分にはいいけれど、そこに雫が加われば話は別だ。

 大切な妹の身が危ぶまれる状況は兄として見過ごすわけにはいかない。


「大丈夫。ちょっとこっちに来なさい」


 とんでもなく無謀な勝負を挑んでいるにも関わらず、義妹は自信たっぷりな様子でネクタイを引っ張り俺と顔を近づける。


「この五円玉を見なさい」


 ゆらゆらと揺れる五円玉。

 俺はそのテンプレな催眠術の道具を見て、これから訪れるであろう受難の数々を察した。


 雫はおそらく俺に、久々の催眠術をかけようとしている。


『体育祭選抜リレーで一位を獲り、期末テストで不動の一位であるりんこを抜いて学年トップの成績を収めなさい』と……。


 終わった……。


 俺はどんよりとくらい曇り空を眺めていることしかできなかった。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 終わった……。
[一言] 物理的な意味で自分以外脱落させればok
[良い点] パイルバンカー系女子がまた迷走してる シ幼馴染に負けてるモヤシラノベ作家どう動くか!!
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