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更新遅れてごめんなさいっ!
あと、しつすてせせせせせさんレビューありがとうございます!!
コメント全部読んでます!返信できてなくてごめんなさいっ!だいぶ余裕できたので更新頻度上がると思います!よろしくお願いします!
俺は、自分の身に降りかかっているすべての災害級イベント、その詳細を担当編集に話した。
「……っ……ふふっ……!」
静かなロッカールームに、吉沢さんのキャラに合わない、可愛らしい笑い声が響く。
「ちょ! なに笑ってるんですか……!」
「だ、だって、毎日死ね死ね言ってくる義妹が、あなたみたいな冴えない男子高校生を催眠術で惚れさせようとするなんて、これを笑わずして一体何を笑えっていうんですか……っ! ぶふっ……!」
「お、お前人間じゃねぇっ!(タケシ風)」
吉沢さんがここまで笑っている姿を俺は初めて見た気がする。俺の作品を読んだときはクスリとも笑わないくせに。マジで一発、助走をつけてぶん殴ってやりたい。
「僕にとっては本当に人生最大の危機なんですよ! 催眠術にかかったフリをしないといけないし、義妹は俺の義妹小説の狂信者だし、サイン会ダブルブッキングだし、もう女装するしか俺が生きるルートは残ってなかったんです!」
涙まじりにそう語る。
俺だってわかってる。自分がやっていることの異常性くらい。
けれど、どうしようもなかったのだ。普通じゃない苦難を乗り越えるためには、普通じゃいられなかったのだ。
「市野先生が女装している理由は理解しました。つまりは、市野先生に催眠術をかけている……かかっていると思い込んでいるカタイモ狂信者義妹が、サイン会に来るので、何とか女装して乗り越えようと、そういうことでよろしいですか?」
「平たく言えば、そうなりますね」
吉沢さんは、笑いをこらえながらそう言う。
「わかりました。協力しましょう」
「えっ……?」
「市野先生が、その義妹に正体がバレないよう、協力してあげるって言ったんです」
「あ、ありがとうございますっ!」
「お礼は要りません。こんなに面白そうなイベン……いえ、市野先生が窮地に陥っているのです、担当として助けないわけにはいきません」
ん? 今こいつイベントって言いかけなかった?
「まずは……そうですね。市野先生、そこのイスに座ってください」
「あ、はい」
吉沢さんに、少し古めのパイプ椅子に座らされる。
「動かないでくださいね」
キツい印象を受けるほど整った顔が、ゆっくり近づいてくる。
「えっ! ちょっ! 吉沢さんっ、こんなところでっ!」
「……何勘違いしてるんですか、メイクするだけですよ」
「めいく?」
「あなたまさか、スッピンのままサイン会に出るつもりだったんですか?」
「もちろん」
「その逆に強いメンタルなんなんですか……」
吉沢さんは、何やら若干ねとっとした水みたいなのを俺の顔面に素手で塗り込む。
「私がメイクすれば、市野さんみたいなゾンビ顔でもある程度マシにできますから、安心してください」
「吉沢さんって、いちいち人を傷つけなきゃ死ぬ呪いでもかかってるんですか?」
俺の担当編集は、どこからともなく持ってきた化粧ポーチからテキパキ不思議アイテムを取り出す。
「さぁ、十分で終わらせますよ」
* * *
「す……すげぇっ……!」
いつも腐り切っているはずの瞳はパッチリ二重に。
乾ききった唇はぷっくりしとしとに。
血色の悪い肌は淡いピンク色に。
鏡の前には、雫やりんこにも負けず劣らずの美少女がいた。
「ふぅ、予想以上に良い出来栄えですね」
「ありがとうございます吉沢さん! これなら絶対雫にバレません!」
「ちょっと市野先生、声が流石に低すぎます。これじゃあその見た目が台無しです。もう少しどうにかならないんですか」
「あ〜、ちょっと待ってくださいね。けほんこほん」
喉仏をあげて、声を作る。
「あっ、あ〜っ。こ、こんな感じでどうですかぁ?」
「……少しウザいですけど、まぁ及第点です」
「良かったですぅ〜」
「そろそろサイン会の時間です。さぁ行きますよ」
「はいっ!」
ロッカールームを出て、サイン会会場に向かう。
セパレートで区切られた一室。その一室には簡易的な机、そして壁には『カタイモ完結記念 市野蒼人先生サイン会』と、大きな垂れ幕がかかっていた。
「け、結構本格的ですね……」
「当たり前でしょう。私が一から企画したんですから」
「なんだか緊張してきました」
「そりゃそうでしょうね。なんせいつもと性別が違うんですから」
「今更ですけど、なんで俺は自分の晴れ舞台に女装決め込んでるんですかね」
「いや私が聞きたいですよ。ブチ殺しますよ?」
「えっ、あっ、すんません」
とりとめのないやりとりをしながら、俺は用意された席に座る。
ふぅ……落ち着け。
声さえ荒げなければ、俺の性別はバレないはずだ。
大事なのは平常心。雫と遭遇するまで心を落ち着け、可愛らしい女の子として振る舞わなければいけない。
「安心してください。サイン会は私がとなりでサポートしますので」
「よ……吉沢さんっ」
いつもは俺を傷つけることしかしない悪魔編集も、今回ばかりは俺に同情したのか、背中を優しくさすりながらそんな優しい言葉をかけてくれた。
「というか、こんな面白いシチュエーション、間近で見なければ損ですよね」
前言撤回。やっぱこいつ極悪人だわ。大魔王系編集者だわ。
「さぁ、サイン会の始まりです。ちゃんと声をつくってくださいね。あ、それと、義妹がやってきたら私の足を軽く蹴ってください。それとなくフォローするので」
「わ、わかりました」
セパレートの先にいるスタッフの方が、合図を受け取り誘導を開始する。
や、やべぇ……まじで緊張してきた……っ!
心臓に手を当てなくても、耳まで聴こえてくる鼓動。
俺は今まで、一切顔出ししてこなかった。
それが今、初めて、ファンの前に顔(女装)を晒すのだ。
とにかく、平常心を失っちゃダメだ。
笑顔を崩さず、小声でありがとうとファンの方に伝え、そして自作の本にサインをして、それで終わりだ!
女装というイレギュラーはあるものの、この場に来てくださった方々は何年も俺の作品を応援してくださった、本当に大切にしなきゃいけない人たちなんだ。
精一杯! 笑顔でおもてなししなければいけない!
「それでは! カタイモ完結記念! 市野先生サイン会を開始します!」
パチパチと鳴り響く拍手の中、一人目のファンがセパレートの先からやってくる。
俺は、満面の笑みでお辞儀をしながら、
「こんにちは! 今日は私のサイン会にお越しくださりありがとうございますっ!」
と、声を作って元気に言った。
よし! 出だしは順調だ!
可愛らしい声と仕草、今の俺は紛れもなく女の子!
そう確信して、お辞儀を解いてファンの方に向き直る。
「えっ……」
瞬間。戦慄。
「……あ、あれ? 市野先生って女の子……だったんですね……」
聞き覚えのある声。
見覚えのある顔。
「そ、そうなんですよぉ〜っ、よく男の子と間違われるんですよねぇ〜っ」
俺はなんとか表情を崩さないように努めて、そう返す。
俺の目の前に、カタイモを持って不思議そうな顔をして立っているのは、ただのファンじゃない。
四六時中一緒にいる幼馴染、りんこだった。
なんでお前が俺のサイン会に来てるんだよぉ……っ!
脳内で駆け回る疑問を噛み殺して、俺は笑顔を崩さないように必死に口角をあげていた。




