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毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺が寝ている隙に催眠術で惚れさせようとしてくるんですけど……!  作者: 田中
第二章 毎日毎日死ね死ねいってくる義妹が、俺の書いた義妹ラノベの熱狂的なファンなんですけど……!
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「ふぁ〜美味しかったぁ〜」


 満足そうに、頬をさする雫。

 俺たち兄妹は少し高めのレストランから出て、サイン会が開かれる書店に向かっていた。


「あのお店、結構高そうだったけど、大丈夫なの……?」

「大丈夫だ。お兄ちゃんアルバイト頑張ってるからな」


 たしかに学生には少しどころか結構高めのレストランだったけど、印税やらなんやらの収入をすべて貯金している俺に払えない額ではなかった。


「そう……いつもわがまま言ってるのに、ごめんね……」


 申し訳なさそうに呟く雫。

 催眠術をかけている手前、俺にお金を使わせたのが少し後ろめたいのだろう。


「雫、ご飯、うまかったか?」

「え……? 美味しかったけど……」

「なら気にすんな。妹が兄貴にわがまま言ったり甘えるのは当たり前なんだよ」

「……そっか。……ありがとう」


 妹は恥ずかしそうに笑みを浮かべた。

 たとえ催眠術がかかっていなかったとしても、俺は雫に誘われればこれくらいのことはしただろう。

 数週間前までは一緒に出かけるなんて想像出来なかった妹との久々の外出。

 兄として、嬉しくないわけがない。


「ねぇ、手、つないでいい?」


 前髪で目元を隠しながら、雫は恥ずかしそうに小さな手を差し出す。


「あぁ、いいぞ」


 そんな小さな手を、壊さないようにそっと握った。


「あの……その……私、カタイモのファンだし、サイン会行きたいと思ってるけど……べ、べつに浮気とかそういうのじゃないから……」


 サイン会が開催される書店が近づいてきたからか、妹は先週から何度聞いたかわからないセリフをぼそぼそっと言う。


「おう、わかってるぞ。雫はお兄ちゃんが大好きだもんな!」

「ちょ! 調子に乗らないで!」

「じゃあ嫌いなのか?」

「……嫌いじゃないけど」


 人目があるからか、デレデレになりきらず少しだけツンが垣間見える。


 雫が人目を意識しているこの状態なら予定通り、二週間前から煮詰めていた作戦を遂行できそうだ……。


「いでっ! いでででっ!」

「ど! どうしたのお兄ちゃん!?」


 嘘が見抜かれないように最新の注意を払いながら、ずっと練習していた『一般男性腹痛シーン』を演じる。


「や、やべぇ! 今世紀最大級の腹痛だ……っ! 今すぐトイレに行かないと大惨事になってしまう……!」


 そう……今日はただの義妹と遊びに来たわけじゃない……!

 義妹デートとサイン会のダブルブッキング!

 今まさに、人生最大級の修羅場!


 その修羅場を乗り越えられるかどうか、その瀬戸際が今なのだ!


「大変! たしかあっちにトイレが!」

「うっ、ごめん雫! 先にサイン会に行っててくれ……! お兄ちゃんおトイレ行ってくるから……っ!」


 我ながら迫真の演技だ……! これなら雫も信じるはず……!


 作戦を遂行する為には、まずは雫と離れなければいけない。

 最低でも二十分は時間が欲しい。


 お腹が痛すぎる一般男性を演じながら、俺は雫が指差したトイレに向かい、勢いよく個室に飛び込んだ。


「ふぅ……っ」


 よし、これで二十分は時間を稼げる筈だ……あとはしれっとサイン会に潜り込めば……。


 ん……?


「雫さん? なんでおトイレについてきてるの?」


 物凄い勢いで個室に入ったはずなのに、個室の中、目の前には、何やら恥ずかしそうにもじもじしている雫がいた。

 いや恥ずかしいのは俺なんですけど。


「……お兄ちゃん、死ぬほどつらそうだったから」

「う、うん、お兄ちゃんお腹痛いけど……でも流石に妹の目の前で用を足せるほどメンタル図太くないかなって……あとここ男子トイレだし……」

「……知ってるけど?」

「いやいやいや、知ってるなら尚更入ってきちゃダメだよね?」

「…………お兄ちゃんが心配なの」


 えっ。まったく引かないんですけど?

 俺の義妹って、まさかそういうプレイが好きなの……?


「お兄ちゃん、今からおトイレするんだよ? ばっちぃんですよ? だから先にサイン会行ってて欲しいなって」

「…………大丈夫、優しく見守るだけだから」

「優しく見守るだけならサイン会行ってどうぞ……っ!」

「わがまま言わないでっ! お兄ちゃんのバカっ!」

「えっ……っ! 俺なんで今怒られたの!?」


 どうしても俺のおトイレシーンを見ようと、何故かスマホまで取り出す雫。


 ま、まずい……! おトイレシーンを撮影されるのももちろんやばいけど、これ以上サイン会までの猶予が無くなるのはもっとやばい……っ!


「雫! れ、冷静になるんだっ! ……お兄ちゃんのおトイレと、市野先生のサイン会……どっちが大事なんだ!?」


 俺の問いかけに対して、雫は歯を食いしばりながら。

「くっ……究極の選択ね……っ!」

 と、悔しそうにそう言った。


 自分の妹ながら頭おかしすぎる回答である。


 だがしかし、ここであきらめれば修羅場不可避によるバッドエンドが待ち受けている。

 説得をやめるわけにはいかない!


「いいか雫……よく聞くんだ。お兄ちゃんのおトイレは週に七回以上ある。けれど市野先生のサイン会はどうだ? 週に七回以上あるのか……!?」

「た、たしかに……このチャンスを逃せば市野先生のサイン本と後日談冊子は手に入らない……っ!」


 変態なりにイベントの希少性は理解できるらしい。

 流石にサイン会より俺の脱◯シーンの方を優先したら、腕の良い精神科医を雫に紹介するところだった。


「イベントの希少性を鑑みて、お兄ちゃんのおトイレ観察はまた今度にしてもいいんじゃないか……?」

「くっ!! 苦渋の決断だけど……ここはサイン会を優先するわ……っ! 苦渋の決断だけど……っ!」


 二回も言わなくていいんだよ……! 頼むから早くトイレから出て行ってくれ……っ!


「お兄ちゃん嬉しいよ……! 妹がお兄ちゃんのおトイレより、ちゃんと好きな作品のサイン会を優先できる子で、本当に安心したよ……っ!」

「本当にしんどくなったら、ちゃんと電話するのよ! 二秒で来るから! わかった!?」

「お、おう! ありがとな……っ!」


 名残惜しそうに、トイレを後にする雫。


 俺は彼女が確実にトイレから出て行ったことを音で確認して、すぐさま背負っていたバッグから道具を取り出す。


 若干イレギュラーはあったけど、概ね予定通り……吉沢さんと約束している集合時間まで残り十五分……間に合わせるしかない……っ!



 * * *



 呼吸を荒げながら、俺はサイン会予定の書店、その裏口からスタッフルームへと駆け込む。


「お、お待たせしました!」


 スタッフルームには、担当の吉沢さんと、もう一人編集者さん、そして二人の書店員さんが机に座って何やら打ち合わせをしている最中だった。


 数人は、目を丸くして俺の方を見つめている。


「市野先生、少しよろしいですか?」

「あ、はい」


 吉沢さんに腕を掴まれて、ロッカールームに連れ込まれる。


「……市野先生、一つ質問していいですか?」


 愚物を見るような目つきで、俺をにらみつけながら、彼女はそう言った。


 俺は曇りなき眼で返事をする。


「はい? なんでしょう?」

「市野先生の性別は、男、でよろしかったですよね?」

「え? もちろんそうですけど」

「ではなぜ、今日は髪の毛が腰まであるんですか?」

「うーん、成長期?」

「なるほど、では、そのフリフリスカートのワンピースは?」

「…趣味です」

「……市野先生は、髪の毛をウィッグで伸ばし、可愛らしいワンピースをきて、さらにはお化粧までして、人生はじめてのサイン会に出る……ということでよろしいですか?」

「はい」

「………」


 そう、俺の作戦とは……っ!


 お兄ちゃんがお姉ちゃんになれば流石のブラコン義妹でも気付けないよねっ!


 だっ!!!!!!!!!!!!!


「…………笑うなら笑えよ……っ! でもこうでもしなきゃ俺の命が……っ! 命が……っ!」


 俺自身、とんでもなく頭のおかしいことをしているのは理解している。


 それでも引くわけにはいかないのだ。


 引けばバレる! バレれば終わる! 全てがっ!


「女装しなきゃ命が危ぶまれる状況って、どんな状況ですか?」


 眉間にしわを寄せ、にらみレベルを数段引き上げ、吉沢さんは俺に問う。


「そ、それは……言えませんっ」


 答えた瞬間、胸ぐらを掴まれてロッカーに叩きつけられた。


「ひいっ!」

「……言え。言わなきゃ潰すぞ?」


 膝をチラつかせる吉沢さん。

 主語がなくてもわかる……! 何を潰そうとしているかわかる……っ!


「吉沢さんっ! お、落ち着いてくださいっ!」

「……私イチオシの新人作家が、初の晴れ舞台で女装してきたんですよ? 落ち着いていられると思いますか?」

「くっ……なにも反論できねぇっ!」


 しかし! 正論をぶつけられようとも話すわけにはいかないっ!


 この吉沢という女は、俺の今の状況を知れば是が非でも作品に取り入れようとする頭のおかしい編集者。

 毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺が寝ている隙に催眠術で惚れさせようとしてきたなんて、いかにも吉沢さんが好きそうなネタだ……!


 言うわけにはいかないっ! 絶対に!


 俺のメンタルの為にも……っ!


「……私、キックボクシングやってるんです。若い女性の間で人気なんですよね。ほら、エクササイズにもなるし、ストレス発散になるし」

「なるほど……ちなみに得意な技は?」

「跳び膝蹴り」

「話します。話しますからその手をはなしてください」


 ロッカールームで、俺は吉沢さんに事の顛末を、簡潔に話した。











長くなりそうだったのでここで切ります!

更新遅れてすみません!!!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんでそこで切れたねーん……
[一言] 予想通り色々事件な展開に(笑) 主人公は黙って飛び膝を貰えばいいと思います。
[一言] テテーン 田中ー タイキックー んほぉぉ
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