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毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺が寝ている隙に催眠術で惚れさせようとしてくるんですけど……!  作者: 田中
第二章 毎日毎日死ね死ねいってくる義妹が、俺の書いた義妹ラノベの熱狂的なファンなんですけど……!
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 淡々と今後の行事予定を、プリントを見ながら説明する担任。


 今日の授業日程を終え、ホームルームを迎えた二年C組の教室には、春の暖かな空気とともに穏やかな時間が流れていた。


「…………」


 いや穏やかにしてる場合じゃねぇ……っ!!


 二週間後に行われる完結記念のサイン会。

 そのサイン会に、リアル義妹である雫がおそらく参加する。


 狂人レベルで俺の書いたラノベ『カタイモ』を愛する雫のことだ。俺が作者だと知った時、どういう反応をするか見当もつかない……!


 雫がサイン会に行くのをどうにかして阻止する!

 その為の作戦を午前中ずっと考えていたんだけど、結局何も思い付かず昼過ぎを迎えてしまったという次第だ。


 ……まぁ落ち着け。

 よく考えれば、そもそも雫がサイン会に参加する確証なんてない……。


「そうだよな……冷静に考えればありえねぇよ……」


 ホームルームの終わり、日直の号令、解放された生徒たちの喧騒にまぎれて、俺は小さく呟く。


 あのパイルバンカー系義妹が目をキラキラさせながら中の下くらいのラノベ作家のサイン会に参加している様子がまったく想像できない。


 いくらファンとはいえ、オタクの対極にあるような孤高のJKキングである雫が、そういうイベントに参加するだろうか……?


 答えは否。


 雫みたいなタイプのファンは、作品に興味があるだけであって、別に作者には興味ないのだ。たぶんそうだ。絶対にそう。むしろそうじゃないと困る。


「……クソ兄貴、ちょっとこっちにきなさい」


 机につっぷしながら脳内で希望的観測を抱いていると、ちょうど良いところに雫のお呼び出しがかかった。


 ……クラスメイトの視線が痛い……。

 ラブコメラノベにありがちな学校一の美少女とかいう称号をリアルで冠する雫は、言うまでもなくモテる。モテまくる。

 この教室にも雫に告白し、そして神速でフラれた男共がうようよいる。

 窓際で俺をにらむいかにもリア充っぽいイケメンもその一人だ。


 彼らにとって俺みたいな陰キャが雫にかまわれるのは、あまり面白くないのだろう。


 くっそぉ……雫の義妹スケベラノベ音読演技会でもう俺の胃はボロボロだってのに……なんでイケメンリア充に目をつけられなきゃいけねぇんだよ……大体こういうフラグは後々絶対に俺を苦しめる….! もう分かる……! 本能で分かる……!


 教室の空気に萎縮して、バツが悪そうに雫の方を見つめていると、彼女はそんな空気に我関せずといった雰囲気で、俺の耳元に口をあてる。


「……早く来なさいよ。腹に風穴開けられたいの?」


 おい、俺を恨めしそうににらむイケメンリア充よ。

 これがお前が羨ましがるシチュエーションなのか?

 ひっくい声で腹に風穴あけるぞと脅されるのがお前の望むシチュエーションなのか?


「……すぐに行くから先に行って待っててくれ」

「……一分以上待たせたらわかるわよね?」

「……も、もちろんです」


 スタスタと、凍りつく空気をフル無視して雫さんは教室を後にした。


 俺はため息を吐きながら帰り支度を整える。


 すると、前の席にいたりんこがしたり顔でこちらを見つめていた。


「なんだよ……」

「いやいや、あっくん大変そうだなーって思って」

「……まぁな」

「疲れたらちゃんと私に言いなよ? わかった?」

「おう」


 ふわりと笑みを浮かべるりんこ。

 喫茶店での出来事から一週間と少し、あの時俺がなんで雫の言いなりになっていたのか、その理由をりんこに追求されるかと思ったけど、彼女ははじめからそんな出来事が無かったかのように振る舞っている。

 雫とも、たまににらみあうくらいでケンカにまでは発展していない。

 

「あ、それと……二週間後、わたしも行っていい?」


 二週間後……?

 あぁ、そういや再来週の祝日にりんこの新しいベッドを組み立ててやる約束してたな。

 かなり大きめらしいから部品も重たいらしい。


「おう、てかお前が居てくれないと話にならないだろ」


 そもそもベッドを組み立てるのはりんこの部屋でだしな。


「えっ? てっきり恥ずかしさのあまり発狂しちゃうかと思ったんだけど……意外と冷静だね」

「なんで俺が発狂しなきゃいけないんだよ」

「…………まぁいいや! めいっぱいおめかしするからね!」


 ベッドの組み立てになぜ化粧せねばならんのかツッコミたかったけど、雫を待たせるわけにはいかないので急いで席を立つ。


「それじゃあまたな!」

「うん、またね」


 可愛らしく手を振る幼馴染。

 俺はリア充達の視線に見て見ぬ振りをして、教室を後にした。



 * * *




「ちょっと遅いんだけど」


 屋上前階段の踊り場。


 めったに人の来ないこの場所が、雫が俺を呼び出すいつもの場所になっていた。


「す、すまん」

「……まぁいいわ、はやくこの五円玉を見なさい」

「ごぶっ!」


 慣れた手つきで俺の顔面をアイアンクローで固定し、五円玉を揺らして催眠術をかける。

 日に日に催眠術をかけるスピードが上がっているのは気のせいだろうか?


「ふぅ、催眠成功ね」


 いつも通りドヤ顔で催眠成功宣言をする雫。

 そして例の如く、俺の意識は富士山の雪解け水のように澄み切っていた。ごめんな。


 俺は雫に命令される前に、すぐさま話題を切り出す。


「な、なぁ雫……お前が好きなラノベのサイン会があるの知ってる?」

「は? 知ってるに決まってるでしょ?」


 雷よりも速い返答……!

 いや……まだ望みはある……!


「参加したりはしないよな……?」

「は? するに決まってるでしょ?」


 雫の返答は光の速度を超えていた。


 一切淀みのない返答。このままじゃ、間違いなく彼女はサイン会に参加するだろう。


 こうなったら作者(俺)をけなしてでも阻止するしかねぇ……!


「えっ、で、でもさぁ、必ずしも作者のイメージと作品のイメージが合うとは限らないだろ? お兄ちゃんさ、こんなスケベな義妹ラブコメ書いてるやつは大抵ヤバイやつだと思うんだよぉごぉっ!!!」


 そう言い切る瞬間、ネクタイが締め上げられる。


「私の前で神を愚弄する気?」


 こ、こいつ……目がやばい……っ!!

 狂信者だッッッ! 狂ってやがるッッッ!


「てか催眠かかってるはずなのに今日はやけに喋るわね……かかりが甘かったのかしら」


 わずかに雫の力が抜ける。俺はその隙をついて拘束から抜けた。


「けほっ! けほっ……! と、とにかく! お兄ちゃんは反対だぞ! 可愛い妹をスケベ義妹ラブコメを書いているような変態に会わせるわけにはいかない……っ!」


 語気を荒げる。

 ここで雫に反抗すれば、催眠術にかかっているかどうか疑われるかもしれない……!

 けれど攻めなきゃ敗北が待ち受けているだけ!

 俺は攻めるぞ!!!


「お兄ちゃんがこんなにも雫のことを心配してるのに! だ……大好きなのに! わかってくれないのか!?」


 大好きというセリフを聞いた刹那。雫の顔からぽんっ! と湯気がでた。


「ふ、ふんっ! アンタどんだけ私のこと好きなのよ! ……でもそれとこれとは話が別なの! 私はなんとしてでも神のサイン本と後日談ショートストーリー冊子を手に入れたいの!」


 よ、よし! 否定的な雰囲気だけど、若干雫がデレかけている! このまま押せばチャンスはあるぞ!!


「お前そんなにもあの作品の作者が好きなのか……!? お兄ちゃんより大切だってのか!?」

「はぁ!? ……そ、そんなわけ……」

「うぇええぇええん! お兄ちゃんつらいよぉおおお!! 妹が浮気するよぉおおおおお!!」


 俺はプライドを捨てて泣き叫ぶ。

 踊り場に五体投地して駄々っ子する。


「ちょっ! 大きな声出さないで!」

「雫に嫌われたよぉおおおおおおおお!!!」


 じたばたと暴れ回る兄に、さしもの雫もうろたえる。

 情けない兄でごめんな。でも俺もお前に殺されたくないんだよ。


 なんだかんだで雫は優しい。俺がここまで嫌がれば、サイン会に行くなんてことはしないだろう! 


 勝った!!


 そう確信したのも束の間。

 床で暴れまわる俺の頭を、雫は半ば強引に自分のふとももに頭をのせる。


 こ、これは……伝説の……っ!


「……よ、よしよし……いい子だから、泣かないの……」



 HIZAMAKURA(膝枕)!?



「雫……!?」

「……わ、私がお兄ちゃんを嫌いになるはずないでしょ」


 顔を真っ赤にしながら、俺の頭をなでる雫。


 この世のものとは思えないほど柔らかく、そして同時にハリのある妹のふともも。


 緊張のせいか、すこし汗ばんでしっとりしている。

 スカートの芳香剤と雫自身の匂いが相まって、非常にえっちな匂いがした。


 そんなメスの香りと極上のハリツヤ、そして柔らかさの雫のふとももは、高級マッサージ店をも軽く上回るクオリティの極上癒し空間を実現していた。


「まったく……本当、お兄ちゃんは私のことが大好きなんだから……っ! ……えへへ」


 ツンデレむっつり義妹のむれむれ膝枕。


 控えめに言って最高。


 このままうつ伏せになって深呼吸してやろうかと血迷っていると、頬を赤くした雫は、とんでもないことを提案する。


「そ、そこまで言うなら、一緒にサイン会行けばいいじゃない」

「へ……?」

「再来週の日曜、一緒に……そ、その……デートすればいいのよっ! このシスコン!!」


 俺のサイン会に? 雫とデート?


 そんな自殺行為できるわけないだろ……っ!


「いや、でも、再来週はちょっと予定が……」

「逆らうの?」

「えっ……」


 瞳の奥が真っ黒になる義妹。

 あっ、これ生き物を躊躇なく殺める人の目ですね。覚悟完了してますね。


「いやー! 楽しみだなー! 雫とのデート!」

「ふ、ふん! 私は別にそうでもないけどねっ!」


 ツンデレる雫を尻目に、俺は血涙を流していた。


 こうして、俺と雫のダブルブッキングサイン会デートが計画されてしまったのであった。










 


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― 新着の感想 ―
[一言] 状況が悪化してる…
[良い点] この五体投地して駄々っ子演じるのガチで何度見ても笑えます笑
[一言] センスありますねぇ!! ヤンデレタグほどにはまだ感じないから是非病状(笑)を悪化させてほしい。
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