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毎日死ね死ね言ってくる義妹が、俺が寝ている隙に催眠術で惚れさせようとしてくるんですけど……!  作者: 田中
第二章 毎日毎日死ね死ねいってくる義妹が、俺の書いた義妹ラノベの熱狂的なファンなんですけど……!
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「…………」


 義妹の喫茶店ファーストキス事件から一週間。

 都内某所のオフィスビル。その一室で俺は、椅子に座りながら小さく縮こまっていた。

 対面には、険しい顔をしながら俺の書いた原稿を読む編集。


 そう、ここは俺の拙作『十二年間片想いしてた彼女が昨日、妹になりました。』に書籍化打診してくださったドライブ文庫の編集部、打ち合わせ室。

 編集部の傍らにパーテーションで区切られたこの一室には、さまざまな書類が置かれ、そして発売されている書籍のポスターなどが乱雑に貼られていた。


 義妹モノが完結後、俺は次の仕事をもらうため、また新作をこの編集部に直接持ってきたという次第だ。


「……読みました」

「ど、どうですか……?」


 おそるおそる感想を聞く。

 俺の担当吉沢さんは、パンツスーツを華麗に着こなし、できる編集オーラをバンバンだしながら足を組み換え、さらにゆっくりためて、そしてようやく口を開いた。


「つまらないですね」

「がふっ……!」


 俺のメンタルに中規模程度のダメージ……!

 しかし、この程度の編集の口撃には慣れている……!


「キャラクターには自信があったんですけど……ぐ、具体的にはどのあたりがつまらないですかね……?」

「冒頭……ツカミ、企画ですかね、市野先生の書くキャラクターは確かに魅力的です。ですが、読者が『何この設定……頭おかしいんじゃないの? ……どう話が進むんだろう?』と、思ってしまうようなパンチのある企画がないと、魅力的なキャラクターを書いてもそもそも読んでもらえないんですよね」

「……な、なるほど……っ!」


 俺のペンネームに、わざわざ先生付けしながら、吉沢さんは淡々と話す。

 たしかに一理ある。

 俺のラノベにはそういった突飛な設定、企画はない。

 基本的に、急に妹ができてイチャコラするような、そんなありきたりな内容だ。


「こういうベタな設定でも、ある程度面白くできるのは市野先生の良いところであり、才能だと思います。けれど、それだけじゃ爆発的に売れないのは市野先生も理解していますよね?」

「……そ、それはもちろん、前作で経験しております……っ!」


 吉沢さんの眼光が鋭くなる。

 く、来るぞ……! 心を強くもて……っ!


「じゃあなんでこんなベタすぎる企画で書いてきたんですか? 登校中に食パン咥えて美少女にぶつかるとかいつの時代ですか? しかもその美少女が翌日妹になるなんて前作とやってること一緒ですよね? 市野先生はいつの時代に生きているラブコメ作家なんですか? ……あぁ、もしかしてこれギャグでした? まぁギャグだとしても一ミリたりとも笑えませんけどね」

「ひぎぃっ!!」


 怒涛のつまらない理由ラッシュ! やめて! 俺のライフはもうゼロよ!


「よってボツです。全ボツです」

「はぐわぁっ!!」


 静かな打ち合わせ室にガシャン! と大きな音が響く。

 トドメの一撃に、俺は椅子ごと仰向けに倒れてしまった。


「くっ……言わせておけば……俺は一応作家だぞ……っ!」


 この編集には正直毎回イラついていた。確かに指摘は的確だし担当作を何本もヒットさせているけど、もっと伝え方に気を使ってもいいはずだ。

 ちょっと綺麗なお姉さんだからって調子に乗りやがって……! 男女平等主義者である俺は、綺麗なお姉さんであろうと全力で論破しにいくタイプの男だ……っ!

 俺の類稀なる語彙力と理論的なアレで論破してやる! そして今後の打ち合わせをもっとソフトにしてもらうぜっ!


「何か反論があるんですか? 市野先生」

「ひぃっ! な、なんでもありません!」


 俺はまるで、肉食獣ににらまれたウサギのように縮こまる。

 美人な人が怒るととっても怖いよね。


「……はぁ。言っておきますけど、私は市野先生に期待しているんですよ? その若さでそれだけ書けるのは市野先生か、あの稲妻文庫で市野先生以上に大活躍している笹本先生くらいです」


 ドライブ文庫よりも大手のレーベル、稲妻文庫。その最前線で売れに売れている作家が、俺の義妹小説を否定しまくる件の笹本だ。

 噂では俺と同年代くらいの作家らしい。


「その……俺以上って言う必要ありましたか?」

「思い上がらないよう一応付け加えようかと」

「くっ! 笹本めぇ……こんな所でも俺のメンタルを攻撃しやがるのか……!」

「とにかく、笹本先生のように、自分が体験しているかのようなリアルな恋心と、突飛な状況、そして地味めな女の子が実はとても賢くて、主人公の外堀をだんだん埋めていきラブラブするようなキャラクターのギャップ、そういう企画がないとそもそも勝負になりません」

「な……なるほど」


 確かに笹本の作品『モブ幼馴染はお嫌いですか?』のヒロイン理衣子(りいこ)ちゃんは、地味で主張も弱く、普段はほわほわしているだけだけど、主人公のことになると途端に賢くなって外堀を埋め出す様はかなりえっちだ。


 地味な女の子が主人公のことだけが大好きじわじわ攻略されていくとか敵ながらあっぱれなスケベ展開。

 リアルにそんな地味系幼馴染がいたら正直惚れるレベルで可愛いヒロインだ。


「市野先生にもそういうリアルで起きた不思議な出来事、ないんですか?」

「リアルで起きた不思議な出来事……ですか」


 いやあるにはあるよ?


 先週から毎日欠かさず催眠術かけている気になっている義妹に、死ぬほど恥ずかしい恋人プレイをさせられるっていう不思議な出来事ならあるよ?


 でもこんなの本にできるわけないよね?


 書いて編集に出した瞬間に警察に通報されるレベルでスケベだよね?


「い……いや、ないですね……」

「あるんですね」

「えっ! な、なんでわかったんですか!?」

「……その反応、やっぱりあるんですね」

「……か、カマかけたのか……っ!」


 吉沢さんは俺のことをじとりと見つめる。


「市野先生みたいな真面目で一直線で愚鈍なタイプって、武器になる自分の変態性を隠しちゃうんですよね」

「えっ? 今すっごい悪口混ざってなかった?」

「かの有名な漫画家さんが言うように、作家で成功するためには、自分のパンツを脱ぎ、そして変態性をさらけ出す必要があるんです。才能ないくせになに出し渋ってるんですか?」

「やっぱり悪口言ってるよね!? 俺を傷つけにかかってるよね!?」

「すみません、つい」

「ついですんだら警察はいらねぇんだよ!」

「市野先生声が大きいです。調子に乗らないでください」

「えっ、あっ、すみません」


 俺のことを散々傷つけた編集は、若干嬉しそうにしながらコーヒーに口をつける。

 この女……俺には水道水しかだしやがらねぇのに自分だけコーヒーかよ……っ! ゆるせん! いつか大ヒットしてヒィヒィ言わせてやるからな……!


「クソ雑魚作家には水道水がお似合いです」

「エスパー!?」

「私と一緒にコーヒーが飲みたいならアニメ化くらいしてもらえないと困りますね」

「こいつ……編集のくせにとんでないくらい大口叩きやがる……!」

「編集のくせ? 死ぬほどポイントが低いウェブ小説に書籍化打診してあげたのは誰でしたっけ?」

「あっ……すみません」

「……まぁいいです。とにかく、市野先生が売れるためには、あっと驚くような企画が必要です。それも実体験に基づいたのが望ましいですね」

「な……なるほど……」


 この編集、何も知らないはずなのに遠回しに催眠義妹モノをかけと言っているような気がする……! おそろしや……!


「わかったなら、早く新しい企画、もしくは原稿を書いてきてください」

「……わかりました」


 はぁ……今日も全ボツか……。

 血の滲むような努力で生み出した作品達、その全てがことごとく失敗。


 泣きそうになりながらエスカレーターの方へ向かおうとすると、肩をトントンと叩かれる。


「期待していますよ。あなたはウチの看板作家候補なんですから」


 振り向きざま、耳元でそう呟く美人編集。


 こ、この女! わざとやってやがる……!


 けれど、わざとだと分かっていても……。


「ひゃ、ひゃい」


 童貞の俺には効果はばつぐんだった。



 * * *





「ただいまー」


 打ち合わせも終わり、帰宅した頃にはもう夜の九時。

 疲れ切った俺はシャワーを浴びようと、浴室に向かう。

 その道中、リビングにいた機嫌の良さそうな義妹が視界に映った。


「と、尊い……!」


 俺の書いたスケベ義妹ラブコメを読みながら、よだれを垂らして尊いを連呼するリアル義妹。


 なにこのカオスな状況。


 こんなの書けるわけねぇだろ……!


 俺は次に書く新作のプロットに頭を悩ませながら、自室に引きこもった。











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― 新着の感想 ―
[一言] 最近の小説ってあり得ないのが当たり前ですよね。 なんというか、王道以外のものが王道みたいな? 上手く言えませんが。
[一言] 2章のタイトルだとか真の男女平等主義者だとか、どこかで聞き覚えのあるような……
[良い点] 更新お疲れ様です。 賢い幼馴染に、ドMの義妹に、ドSの編集者…豊富な人材が揃ってますな。笑 応援してます。
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