邪神の覚醒
「ふぁぁー、羽伸ばし放題じゃん。サイコー。」
女神ミヘザは、文字通りその美しい羽を伸ばしていた。
何でも、大領主はこの別荘を全く利用しないらしい。勿体無い話だが、ラッキーだ。
『くつろいでるところ悪いですけど───。』
「んにゃぁ!」
いきなりメーシェの声がしてミヘザは変な反応をしてしまった。
女神とてプライベートは無防備だ。
『…あら、どうしました?反応が可愛すぎてちょっと出ちゃいましたよ。』
「何が出たんですか…。」
『そんなことより…ミヘザ、そちらに勇者が向かっているようです。』
「…またですか…。」
『かなり強そうですよ。まあ最悪死んじゃっても私が蘇生してあげますから安心して戦ってください。』
「言ってることが滅茶苦茶です。」
『はいはい、さあ来ますよ。くつろぐのは戦いの後です。』
「くっ、私の貴重な休憩タイムを邪魔する生意気な人間風情が──!」
何だろう、性格が本当に邪神っぽくなっている気がする。
変な上司から解放されたことで本来の性格が解放されたとでも言うのだろうか?
どちらにせよ、人間ごときが女神に刃向かおうなどと…そんな思い上がった考えには天罰をもって応えてやらねばならない。
「…へへへ、隙だらけの『背中』がかわいいぜ、女神サマよォォ…」
「…瞬間移動してきたか───。」
呑気に構えていたところ、いつの間にか勇者が背後を取っていた。
しかしそこは女神。瞬間移動で更に勇者の背後に回り込む。
勇者はそれすら予見していたらしいが、関係ない。勇者の次の攻撃が来る前に───
「不幸の弾丸───ッ!」
如何なる条件下でも必ず命中する光弾を勇者に向けて放つ。
これを喰らえば女神と人間の格の違いが分かるだろう。
「うぅおッ───!
この弾…何なんだよォォォ!?」
「アンタがどうやって私の居場所を知ったのか…そもそも私に何の用があるのか…。教えてもらえる?」
「フフヘヘヘヘ…教えるワケねーだろバァーカ!」
…どうやら分かっていないらしい。
真の愚か者とは己の立場を理解出来ぬ者のことである。
「それじゃ『死ね』ッ!」
ミヘザは勇者に向かって特大の雷を落とした。
勇者は間一髪それを回避するが、その先には女神の鋼鉄の拳が待ち受けていた。
とっさに瞬間移動し、それすらも回避する。
しかし、女神は全てお見通しだった。
隙だらけの攻撃を放てば瞬間移動で後ろに回り込んで確実なる一撃を加えてくるだろう。
そういう女神の計算だ。
勇者と呼ばれていても、所詮は付け焼き刃の能力で威勢を張っているだけの雑兵。
追い詰められたらどんな行動に出るか…それを想像するのは決して難しいことではなかった。
安直、焦り、傲慢、恐怖。
全てが入り雑じっているが故に単純。
勇者の瞬間移動───その位置までも予測していたミヘザは背後に向けて特大レーザーを放った。
禍々しい漆黒が空に美しい直線を描き、勇者はその中で朽ち果てた。
「実践経験が足りないのよ、出直してこい!」
ミヘザはちょっと嬉しそうに決めポーズをとった。