スーリア釣行記
ーー プロローグ ーーー
ーー今日も陽射しが容赦なく肌に刺すように照り続ける ーーー
尋常ではないと思える陽射しの中、紺碧の海に向かって、か細い棒を振り続ける私は、側から見れば狂人の類であるのかもしれない。
この南国の島、ましてや夏に入ったばかりのこの島で、私は紺碧の海に、ただ、ただ挑み続ける。
陽射しは鬼のように、容赦なく私の肌を焼く。
だがしかし、この陽射しの中なら競合する者は何も無く、この場は私唯一人。この海は、漁場は、私の独壇場なのである!
ーー 「…リァっ … スーリァっ!… スーリアっ!!」 ーーーー
遠くから何か聴こえてはいたが、まさか、私の名前を呼ぶ声とは思いもしなかった。
それよりも、その呼び声よりも、私は今、目の前に居る獲物こそが、私の名の様なものを呼ぶ何かよりも非常に重要で最優先な事象だったのだ。
雑音を気にせず、目前の獲物と向き合う。
獲物は紺碧の海の中、はっきりと目視できている。
獲物は、体を透明にしてみたり、茶色くしてみたり、コロコロ、コロコロと変化していた。
私はまるでシューリンを真似ている様な、どこかそうでもないような疑似餌を、獲物より少し離れた場所に打ち込む。
刹那、私は側から見れば、笑みがこぼれていただろう。
獲物は、私の疑似餌めがけて、体を真っ黒に変化させて突進してきたのだ。
私のか細い棒に確かな変化が起きた。
ーっズシッ!!
というような、重みが、確かに感じる。
ノッタ!!
私は棒に付いている巻き取り機を巻く。
興奮しつつ、だが繊細に、この感じている重みが無くならないように、慎重に、だが内心焦りつつも、確かに巻いていく。
ーー「 っ、すごい! スーリア、やったね!スキードじゃない!!」
私の疑似餌の針には、確かにスキードががっちり付いていた。
ふと我に返った私は、先程から聞こえていた雑音が理解できた。
「なんだ、さっきから何か聴こえていたと思ったら、お前だったのか…。」
先程から聞こえていた雑音は、どうやら、私の名を呼んでいたらしい。
声の主はミーキ・ユーイ
「何言ってるの!! こんな炎天下の中、何時間も海に居るなんて!!」
どうしてか、彼女は非常に怒っていた。
私としては、粘りに粘って獲得したこのスキードを、獲得したその余韻に酔いしれたい所なのだが…。
「スーリア!確かにそのスキードは立派だし、今日の晩御飯にはもってこいよ。 でも、貴女がこの陽射しに倒れたら、どれだけ哀しむ人が居るか、考えた事あるの!?」
ミーキはお怒りらしい…。
「悪かったよ、ミーキ。 確かに、今日の暑さは異常だったな。 でもな、私がそれを対策しないで海に行くと思うか?」
「ましてや今日は、月が変わって潮が若返る日の海なんだぜ?」
「多少は大目に見てくれよな! 、ほら、こんな立派なスキードも釣れたんだ。今日はこいつを野菜と和えて食べようぜ!」
そう、誤魔化しつつも私はミーキに言った。
「…全く、スーリアは……。でも、そうね。久々にスキードのサラダが食べれるものね!」
少し、間をおいて、ミーキは考え込む様に私に告げた
「………でも、…スーリア。 やっぱり気をつけるのよ?」
「貴女が良くても、貴女を待っていて、心配している人が居ることを忘れないでね?」
そう、ミーキは締めくくった。
「解ってるさ、ミーキ。 私だって限界まで無理はしないよ!」
「むしろ、私が海に行くのはミーキや皆んなに美味しいものを喰べて貰いたいからさ!」
そう言って私はいつもの様にミーキをなだめる。
…まぁ、嘘ではないが、ないんだが、
…建前6割に本音4割くらいなんだよな。
ミーキの心配は最もだ。海は豊かで美しいが、それと同時に、牙を剥き、荒々しく獰猛で、恐ろしくもある。
………これが自然というものだ。
だがしかし、それでも私は、海に、自然に、太陽に魅せられる。
「ミーキ、何時もありがとうな。」
そう心に呟いた私は、また、か細い棒…釣竿と、巻き取り機、リールを次の釣行に向けてメンテナンスするのであった。
私はスーリア・ユーズナ。
女の癖に釣りが生き甲斐なんて変に思われるだろうが、私は気にもしない。
歳も19になった今、モービルがあるから釣行の幅も広がった。
私はスーリア・ユーズナ。
いつの日か、この島から、大地を踏みしめながら、釣り人なら誰でも憧れる、あのグランウルフを仕留めてみせるんだ!