悲劇が纏う謎
この世界は、思想や種という些細な違いで争い手を取り合うことを拒絶し限りある命を奪い合い殺し合う…そんな地上世界を見守るスターゲイザー(星の観測者)は最終警告として地上に生きる生命に更なる知恵と力を授けた。たとえそれが、世界の終焉を加速させる結果になろうともそれが地上で生きる者達の答えであり”あの樹”に”彼”を封印しその力と”彼女”自身が持つ力を代償に、世界に繁栄をもたらした”彼女”に刃向かうとしてもスターゲイザーの行いは―
二百年の時が経ち更なる発展を遂げた生命だが、争いは加速し世界には悲鳴と嘆き、怒りと憎悪が満ち”星の民”が封印した神の悪魔が目覚めようと暗躍していた。
「目が醒めたか…話して貰おうか君の正体を」
乾いた鳴り響く暗闇の部屋の外、三人くらいだろうか…扉を開け部屋に降りる影が重なり判別がつかない。部屋の中で横たわる少年は、両手と両足に手錠を掛けられ身動きが取れない…少年がいったな何をしたのか…身に覚えのない痛みと冷たい床が、頬を伝い目覚めさせる。
「中に入るのは、危険です準特等!」
部下なのだろうか、重い荷物を片手に説得をしている。図体が他よりデカく、身体に奔る痛みを耐え少年の方へと歩く相手を見上げた。その姿は、できの悪い不格好なツギハギだらけの人形か現代のフランケンシュタインの外見で人の顔の面影がないくらいに髪と耳や鼻、瞼が無くニヤニヤと不気味に少年を見つめ、見る者に嫌悪感を与え兼ねない表装をしている。
「安心しなさ…彼と私の中だそれに何か起きた方が都合がよかったんだがな」
その者は、部下を待機させかなり残念そうに少年を見下ろした。
「……なにを驚いている"あの時"私を殺したつもりでいたのか?」
「それとも驚いたのはこの姿にかね」
薄暗い室内、少年は目の前の異様な男に驚いたが何故ここにいるのか考え思考を巡らした。また、ここの何処の施設なのかも考察した。
「確かに…この外見を一目すれば、怪物であろうと貴様ら『メタファイズ』ですら身震いする程だ」
少年は、嘗て仲間と未知の生物を研究する記憶が駆け巡るが何故捕まる経緯を探ろうと思い出そうとしても断片的で確証には至らなかった。
「…そういう点では、『形而上捜査官』としてずいぶんと仕事し易くなっている…私は気に入っている」
「君はどう思う…『プリズン』?」
「(…プリズン…?)」と少年に呼びかけているが、記憶が欠けているため疑問符がつくがとりあえず眉に皺を寄せ考えたとき、頭が軋み締め付けられる痛みが少年を襲った。
少年は、痛みで悶え苦しみ自身の名を探した「(違う…俺は…)」が余計な問いや、本の表紙のタイトルに登場人物の名前などが溢れ思考を邪魔する。だが、思考で考えるのではなく感性で自分の名前を思い出そうとした。
「……ティエラ…」
「俺の名は…ティエラだ」
そうティエラは、断片的だが思い出した。
歳は18で兄が居た、だが事故でその場にいた者は何かに汚染され今も立ち入りが制限されていた。ティエラがいた研究所では、未知の生物を研究していたが突如研究所が原因不明の爆発で異常事態になり周囲は「バイオ・ハザード」に指定されていた。そして何故かティエラ兄弟は、廃屋で生活していたがある日この男が数人を連れ入り込んできた。そして抵抗したが虚しく敗れ、囚われた。
「…自己紹介どうもプリズン、『メタファイズ』であろうと一定の礼を尽くすのが私の主義だ…私の名は『ラウ・トロン』だそしてここは君がよく知る監獄スタンフォートレスだ」
「(ラウ・トロン…)」
その声と名前を知って、この男が何者かわかった。人とは、異なる能力を持ちそれが人に危害を与える存在を取り締まり撃退する組織であるMRR(形而上捜査局)である。そしてティエラは、メタファイズを捕え管理する監獄スタンフォートレスに幽閉されている。
そもそもメタファイズとは、いったい何なのか嘗て研究していた時そんな話題はなかった。記憶を探ろうにも、直接見たり聞いたり資料を読んだりしていないので意味が無い。
ティエラには、事件を起こすだけの器量もなければ違反を犯す理由もない。何よりティエラは事件の被害者であり、裁判も検察からの事情聴取もなかった。これは、明らかにおかし…ともあれ弁解するだけの情報を持っていない為、無駄に敵意を向けたり抗議をしても怪しまれる。なにより、ここは……
「混乱して自分のことがよくわからないようだ…まあ、あの状況でよく立ち回り抵抗したものだ仲間ならきっと私と同じ階級になっていただろう」
ティエラを賞賛しているが、戦闘面で期待してはいけない。何故なら今のティエラは、そこらにいる人間とたいさないのだから。それに、ティエラはメタファイズかどうかわからないのだから……
「ではゆっくり思い出して貰おう…痛みは記憶を連れてきてくれる」
そう言いラウは、部下から荷物を受け取り中から拷問器具を取り出した。ティエラは、恐怖で強張り青ざめこれから起きるであろう拷問を想像せずにはいられなかった。
「な、何故だ…止めろ…止めてくれ…」
ラウは、笑みを浮かべ拷問器具から一つ手に取りティエラへ歩いた。
意識がフィードアウトし落ちる
数日後……
襤褸切れのように痛めつけられ、それでもティエラはラウが望む答えを吐き出せずにいた。
幾度も繰り返し聞かせられる「プリズン」という名前だが、いくら問いかけられてもその名に聞き覚えはなかった。そもそも、ティエラは「プリズン」とは何も関係ないどころかそいつを探すために拷問を受けている。聴取とかではなく拷問だ、記憶はないが普通に生き生活してきたティエラにとっては地獄に等しい。
「ふむ…ここまでしても思い出せないか」
「…くッ!」
ラウは、一切の悪びれる様子は無く寧ろ「これが私の仕事です」と言っているように見えた。ティエラは身体の痛みに耐え、ラウを深く睨んだ。
「……それが演技でなければ面倒な事になったものだ」
ラウは、困惑したがこれまでの捜査からティエラがプリズンであると確信している。ラウが唯一頼りにしているのは、プリズンの姿だティエラのその姿はプリズンに似ておりコレと言って証明出来る証拠はないが捜査官そしての勘がそう言っている。
「いくら所有権が私にあるからと監獄長の許可なしに監獄内のメタファイズを処分してはならない決まりだが……逃げ口ならくび殺してやっても構わないのだよ…なあに」
そう言いラウは、懐から封筒を取り出し中に封入されている複数枚の写真を取り出して見せた。
「そういう『事故』はよくある、この写真の姿を見ればわかるだろう? 私の仕事熱心だ」
この男の悪魔的感性かしらないが、どの写真も酷いってものじゃない惨い記録でありたとえ合成であろうと常人なら目を避け見たくない物であった。そしてより、その時が来れば自分もそうなるであろうと想像するだけで、恐怖から目を避けれなかった。
「誤解を招かないように一様言っておこう、これは合成や加工ではない」
こいつは異常だ、常軌を逸しているとても人間のする行為ではない…もしこの写真を公開したのならラウだけでは済まされない、こいつを雇っている組織MRRも活動が危うくなり関係者も世間から批判されるだろう。そんな行為をし続けても、放置または容認しているMRRもイカれている。もしかしたら、人間の感性や心が無い犯罪者の連中の集まりなのかも知れない。そう考えらずには、いられなかった。
「……」
ティエラは、唖然としこの男を心底疑い始めて「殺したい」と思った。
「私は、知りたいだけなんだ『プリズン』というメタファイズを」
「…知らない…」
ティエラは、どれ程否定し拒もうともラウは同じ問いをし続ける。これは、嘘でも隠しているのでもないこれはティエラの本心だがラウはそれすら聞かず拒み無かったことにした。
「多数の捜査官が奴に葬られた、凶悪なメタファイズだ」
「能力を発現させる時、目元の痣が”牢獄”に似ている事からプリズンつまり”牢獄”ってことさ、そして身体の各部から放出させる粒子が赤い、見る者にとっては天使に悪魔も等しい」
身体から…粒子この男は、なにを言っているんだ。そんな物を出す人間は、この世の何処を探そうと見つかりはしない。空想の戯言を言っているのか…本当に存在しているのだとしたら……
「なにより…残念ながら捜査官からの情報が薄いんだある者は、背中の辺りから翼を見たとか疲れているんだろう…あとこれは私も対峙した肘関節の辺りから下の腕を包む様に太い刀があった他は曖昧だ大蛇の様な尻尾だったり蜘蛛みたいと、こいつらには休暇をとら…違うな彼らは対峙し敗れまだ病院で横たわっている」
プリズンを目撃した捜査官の半数は、病院で寝ており未だ完治していない。だが決して捜査官が弱かった訳では無い、同行した捜査官の中にはラウと同じ階級の者も居たが無残にも殺された。
ラウは、右足のズボンをめくりティエラに見せた。
「先ほども話しに出たが、私も過去に奴とやり合ったがそれがこのザマだ耳と広範囲の皮膚、右足と部下を失った」
ラウの右足は、酷く損傷しており膝から下が義足になっていた。
「その時の痛みと記憶を頼りに今日まで捜査をしてきた」
そうラウは、プリズンに敗れた時に損傷した深い傷がこの男をここまで追い詰め、行き過ぎた捜査をし拷問をしている。そこにラウの深い執念がある。
「そして今は、”かけ”ている…貴様こそがあの時私を襤褸切れにしたメタファイズ、プリズンだと」
ティエラは、慌て何故自分が疑われているのか理解出来なかった。それに、メタファイズとは何なのか説明もなしに話が進んでいるのに苛立ちを表に出した。
「待ってくれよ! 俺はそんなことしない! それにメタファイズって何だよ!」
「それに俺はただの人間だ! なんで俺をプリズンって奴と疑う?」
「知らんのか…メタファイズについて話したいが…部下が見ている」
ラウは、首を傾けメタファイズとは何なのか言おうとしたが後ろに目をやり言うのを止めた。
「何故か? ふっ…それでは一つ質問をしよう…君のお兄さんはプリズンかい?」
「なッ!」
驚きラウが何故、兄の話を持ちかけたのかわからなかったがそんなの些細な事だがラウがそんな話をするという事は、この監獄の何処かに幽閉せれていることを指摘しているのと同じである。
「何故兄もここに…どうしたんだ?」
ティエラは、ラウを睨んだ。何故ラウは、ティエラに兄が居るという情報がいき渡ったのかはおおよそ予想は付くが何処まで知り得ているのか。例え知っていても、ろくな情報は出ないだろう。
「怖いね…このぐらいでは”痣”は出ないか?」
ティエラを挑発するように語りかけ、その挑発に乗ってしまった。だが肉親が同じ状況でかつ状態であるのなら、助けようとしていしまうが人であるがこの男ラウが関与しているとならば手を出せばどうなるか…あの写真のように恐ろしいく惨い制裁が下ると容易に想像がつく。
「どうしたって聞いているんだ!」
「そういきり立つな、君のお兄さんはVIPルームで待ってもらっているよ」
ラウは、不気味に笑みを浮かべティエラの悔しそうな表情に勝ち誇っている。
「もう一度説明しよう、貴様の兄はプリズンと呼ばれていたか? 大量の捜査官を虐殺者だったか?」
「違う! 兄さんはそんなことする人じゃない! 俺たちには関係ない!」
ティエラは、できる限りの否定をしたがラウは既に聞くまでもないようにその問いの答えを持っていた。
「だがな兄が自ら名乗ったのだ…『自分こそがプリズン』だと」
「…ッ!」
「だから君を解放しろともね」
その時、兄の強く優しい眼差しが浮かんだ。いつだって、ティエラを見守ってくれた。
兄はティエラを助ける為に、善意で言ったかもしれないがティエラの考えを遅らせるだけで邪魔する一方だ。混乱した思考の中、ラウに何か反論する言葉を選定していた。
ラウは、懐から紙袋を取り出した瞬間ティエラの鼻先に変な匂いがつき見上げた。
「ティエラくん、君のことをかばっているんじゃないのかな?」
その時、ラウ・トロンという男の正体…いいやどす黒い本性がハッキリとわかった。
「しかし、いくら話を重ねても真相を話してくれない弟を解放しろと”聞く耳持たず”だ」
この男は、その場の表現や感情から行動に移す……
「…だからね」
紙袋を投げ渡した。不安な面持ちで触れた瞬間、紙袋ごしに伝わるぶよぶよとした感触…その二つの”塊”を即座に理解出来た。これは、わかりたくなかったこの感触……
「……ッ!」
「そんな耳は要らないと思ってね」
この男は、サイコパスだそれ程プリズンという奴が残忍で狡猾な奴だと知らなくてもわかる。それ程に恐ろしく危険でラウにここまでさせる程の力とプレッシャーを持ち、狂気じみていると直感できる。いいやそこまでプリズンについて詮索するラウは、怪物に立ち向かう勇者になれるかもしれない。
「そんな……うあ…ああッ!」
ティエラは顔を手で覆い隠し、自分の不虞なさを後悔した。
「安心してくれ少し私とオソロになったがね」
ティエラは、紙袋をラウに投げ返した。ラウは自分の痛みを他の囚人に、ぶつけている様に見えたが見間違いでなければ…この男はサイコパスで変人で捜査官の三個異名を持っている。笑えれる言葉遊びでならいいのだが、残念ながらそれが真実であり現にティエラの目の前に立っている。
「なんで…なんでこんなことを」
「言っているだろ? 私は知りたいだけだよプリズンの正体を」
反論する意志は消え、目の前のラウにこれ以上の拷問を止めるように言いかける他なかった。今のティエラは非常に見窄らしいく、情けない。ティエラをプリズンと言うラウの目には、何が映っているのかそれはラウ自身にしかわかり得ない。
「耳の次は何処がいい? 瞼なんかどうかね? きっといい夢を見れるだろう」
もはやラウにとっては、快楽の一つになってしまったのかそれ程に威圧的でティエラにとっては脅威だ。もはやラウを止める術は今にティエラには、持ち合わせていない。
「止めてくれッ! 頼む…お願いだ…」
「君がプリズンだとしたら…早くしたほうがいいぞ紙袋が”お兄さん”で一杯になる前に」
ニヤニヤと笑うラウと、怯え祈りをこう見窄らしい構図が出来た。
「トロン準特等そろそろ」
そうラウ部下が、伝えた。ラウは、不満げな面持ちで部下に目をやった。
「おやおや、もう時間かね楽しい時間は過ぎるのが早い」
とても成人した大人の言う言葉と思えないことを言っても、平然としている。それがラウの壊れた感性か素なのかわからないが、それで通っているのならいいのかもしれない。
「それでは、期待しているよティエラくん」
よく響く室内で、ラウとその部下が去って行く。ティエラは、後何回この絶望の中を生きなければならないのか…ただそれだけを考えていた。
疲労で困憊で再び意識が飛びフィードアウトしていた。
『プリズン』は、虐殺者で捜査官殺し…兄は人を殺すような人間なのかティエラの記憶には、優しく強く真剣な男だ。また、ティエラに戦うことは出来ない本やペンとバックしか持ったことがない。
「(俺には、出来る事なんて…ない)」
ティエラがこの牢獄で目覚めて、何日経ったのか。外の状況は、扉の鉄格子からでしから見ることが出来ない。兄は、この監獄の何処かに幽閉されている……
「(いっそ俺が、『プリズン』だと言えば兄さんくらいは解放してくれるだろう…いや兄さんを混乱させるだけだ)」
そんな考えも、ラウのツギハギの顔が浮かびかき消される。恐怖がティエラを襲い、が兄は嘘かどうかは知らないが名乗り出た。確証も証拠も見たことも話したこともない『プリズン』とうい奴に兄は、ティエラを助ける為に。
『プリズン』とうい奴が、ティエラと兄の運命を狂わせる。
ラウが「プリズンはあの状況で立ち回り、抵抗した」と言っていたが、ティエラにはあの日ラウと数人と争い抵抗したが、そこまで暴れた記憶はないし…抵抗出来たのかも疑心暗鬼だ。
「(ラウは、何故か俺をプリズンだと誤解している…でも)」
ティエラも兄も知人や両親、友から一度も『プリズン』と言われた事もない。聞いたのはラウという捜査官からだ、それにまだ『メタファイズ』という何か知り得てもいない。ラウは、何を基準にプリズンを捜しているのかシルエットなのか、声色、体格、仕草、雰囲気かどれもプリズンを知ってこその調査だろう。ティエラには、情報それがない知るかとも出来ない今の状態では。
「(このままだと、兄さんも俺もどうなるか……)」
いくら考えようと、それは空想だ。ある映画で主人公が任務中にアクシデント合い囚われるが仲間が、助けに現れ助けに来るか主人公が自らの知恵か能力で脱出するかのパターンがあるが、今のティエラの状況では望みがない。そもそも、そんな組織あるのかどうか怪しい。
「―ティエラ来るな!」
「…兄さん」
兄の声が脳裏から、聞こえてきた。いつだろう、廃屋で暮していた時の記憶だろうか確かでは出来ないがそれっぽいそうでなければ、永遠と絶望の淵を歩くことになる。
いつか見た兄の背中、真剣な声。
「(お腹が、減ったな)」
考えていたら、お腹が空いてきた。ここに来てから、ろくな食事を取っていない。ディストピアかよと考えざる他なかった、何かよく分からん謎肉と緑色の野菜? とカ○リーメイトみたいな無着色の食べ物まあ貰えるだけましと思えばいいのかもしれない。
「(兄さんも空かせているのかな?)」
やがてティエラは情けなく泣きそうになって、そこで考えるのを止めた(お腹が空くから)。やがて意識は、夢の中に落ちていった。