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お風呂を済ませベッドに横になる。
この世界の時間は元の世界と変わらないみたいだから目覚まし時計をセットしておく。寝坊したくないしね。
一応ピヨ丸のステータスを確認しておくか。
名前
ピヨ丸 (ルフ)
レベル 1
スキル
限界突破
限界突破
一定の条件で、種族の限界を越えて進化出来る。
一定の条件で進化するとかポケ○ンみたい。ピヨ丸が進化したらやっぱりニワトリになるのかな。普通のニワトリでもいいけど、烏骨鶏とか尾長鶏も捨てがたい。
するとピヨ丸が、素敵なバリトンボイスで鳴き声をあげた。
『ピッピッピイ』
「……ごめん、何言ってるかさっぱり分からない」
『強くなるために魔物と戦わせて欲しいそうだ。弱いが随分と好戦的な奴だな』
「戦うのは別にいいんだけど、ピヨ丸大丈夫?」
『小娘も共に戦えばよかろう。此奴も小娘も強くなる良い機会だ』
確かに。クロすけの言ったことは間違ってはいないが、かなり不安だ。
『死にそうになったら助けてやる』
お願いだから、死にそうになる前に助けて。
戦うっていってもどうすればいいんだろう。今日買ったダガーだけでは心配になってきた。
そういえば、この世界に来た時に買ったバット(2500円)があったような。
明日使えるかなと思い、アイテムボックスから出して鑑定してみた。
・聖剣エクスカリバット(所有者・シキ)
セールで売られていた2500円のバット。
所有者のレベルが上がれば秘めた力が解放されていく……かもしれない。
スキル
自動修復
「……エクスカリバット。剣の定義ってなんだ」
ツッコミ所が多過ぎて、考えることをやめた。
とりあえず使えるってことだ。ダガーがもし扱えなかった時はこれでなんとかしよう。
そろそろ寝ないと明日起きれなくなる。
お母さん、お父さん、あなた達の娘は異世界で頑張ってます。帰れるか分からないけど、なるようになると信じてゴキブリの様な生命力で生き残るね。
――――――――――
『小娘!!さっさと起きろ!!』
「……お母さん、スリーパーホールドは駄目だって……」
『ピッ』
「……むがっ」
息苦しさを感じて目を開けると、もふもふした黄色い物体が顔面に乗っかっていた。これはピヨ丸か。
時計のアラームを止めて、昨日買ったワンピースを着る。
魔物と戦うのに、ワンピースでいいのかとも思ったのだが、ギルドにいた女の人達もミニスカートをはいてたり、ビキニアーマーらしき人もいたから大丈夫だろう。
居間に行くと、昨日と同じようにアッシュが既に起きていて、朝食を作り終えていた。
また朝食を作ってもらって申し訳ない。
「おはよう、朝食ありがとう。明日は早く起きて朝食作るね」
「おはよう、朝飯は先に起きた方が作ればいい。それより髪が鳥の巣だぞ」
「アッシュ、気にしちゃダメだ」
「……そうか」
ピヨ丸を退けて適当に髪を梳かし、クロすけとピヨ丸にメロンパンをあげて、わたしもアッシュと朝食を食べる。
『ピイイッ!ピッピ!!』
『メロンパンの尊さが分かるとは、中々見所があるな。よし、お前はちゃんと名前で呼んでやる』
『ピッ』
『そうか、いい心がけだ』
賑やかで平和だな。わたしはこの後のことを考えると胃が痛い。朝食全部たべるけど。
「あまり不安にならなくても大丈夫だ。いざとなればクロすけが助けてくれる……はずだ」
今の間は何?そしてなぜ目をそらす。
でも、クロすけを信じるしかない。なるようになる。
朝食を食べ終わりギルドに向かう。
ギルドは既に多くの冒険者達で賑わっていた。クロすけに驚く視線が多い中、ランクの高そうな冒険者達はクロすけに警戒するような視線を向けていた。……チビりそう。
なるべく無心に、FランクとEランクの依頼書が貼ってある掲示板の前まで来た。なるべく早くランクをあげるには、わたしのランクの一つ上を受けなくちゃいけない。
「アッシュ、どの依頼受けたらいいか分かんない」
「依頼は3つまで受けられる。お前の場合はFランクの依頼を2つ、Eランクを1つだ」
アドバイスのとおりに3つ依頼を選ぶ。
Fランク
・ラッドの討伐【10匹】
・ラージラビットの討伐【10匹】
Eランク
・ウルフの討伐【5匹】
この3つは討伐証明として一部の部位を提出しないといけないらしい。 討伐した魔物を持ち帰れば、追加報酬もあるみたい。
3枚の依頼書を受付に持って行くと、運の悪い事にあの受付嬢がいた。
わたしの顔を見た瞬間、口がへの字になる。ちょっと面白い。
「この子の従魔登録と、この依頼受けたいからよろしく」
「はあ?あなたルフを従魔にしたの?」
「そうだけど、なんか文句ある?」
鼻で笑われ、心底馬鹿にするような顔をされた。
性格悪すぎてモテないぞ。
「まあ、あなたみたいな変な子にはお似合いかもね」
「どうでもいいから仕事しなよ」
職務怠慢でダグラスさんあたりにチクるぞ。
受付嬢は不機嫌そうにピヨ丸の従魔登録と、依頼書の受理をした。
冒険者達から好奇の視線と、ピヨ丸を馬鹿にするような会話が聞こえてくる。こうなったら、ピヨ丸と一緒にレベル上げて見返してやる。
ピヨ丸が進化したら、凄いニワトリになる予定なんだからな!!……多分!!
憤慨しながら足早にギルドがら出て、ずんずん進んでいるとアッシュに後頭部をポンとされた。頭の上にはピヨ丸がいるから後頭部なのだろう。
「落ち着け、いちいち怒ってたら疲れるぞ」
「……うん」
「それに、依頼の魔物がいる場所は反対側の門だ」
「それもっと早く言って」
気を取り直して依頼の魔物が出る場所に向かうため、門のおじさんにギルドカードを見せて街から出る。
ここから少し歩いた先に森があるらしく、そこに依頼の魔物はいるらしい。
「クロすけ、気配を消してもらってもいいか。このままだと、お前の気配に怯えて魔物が逃げて行く」
『確かにそうだな。仕方ないから気配を消してやる』
クロすけが気配を消したらしいが、わたしには何が変わったのか全然分からない。
だけど、森に向かう途中でチラホラと魔物らしきものが視界に入るようになってきた。
森に入るとすぐに依頼にあった魔物と遭遇した。
名前
ラッド
レベル 3
猫ほどの大きさがあるネズミだった。
昨日わたし達が食べた肉はこれか。
ラッドの周りを確認したが、どうやら1匹だけのようだ。
きのみをガリガリと音を立てながら食べている。
「近づくと噛み付いてこようしてくる。動きを見て、避けながら倒せ」
ダガーをしっかり持ち、じりじりとラッドに近づいて行く。すると、わたしに気づいたラッドが威嚇し始めた。
『ギイイッ!!!』
『ピッ!!』
声を上げながら突進してきたラッドにピヨ丸が特攻し、ピヨ丸はラッドの目に小さな足を突き刺さした。
ラッドは痛さの為か地面に転がる。その隙に、わたしはダガーをラッドの首に突き刺すと、すぐに動かなくなった。
「……倒した?」
『ピッ』
1匹だけなら大丈夫だけど、沢山出てきたら無理じゃない?というか、ピヨ丸勇まし過ぎない?
ピヨ丸はラッドの血で赤いヒヨコになっていた。