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「昼飯は屋台でいいか?」
「あの串焼きみたいなやつ食べたい」
『黒い粒のメロンパンを忘れるなよ』
広場のような場所にいろんな食べ物の屋台が並んでいて、美味しそうな匂いがあっちこっちから漂ってくる。
串焼きを売っている屋台に向かう。いい匂いだ。
「串焼きを10本くれ」
「はいよ!10本な。熱いから気をつけてくれ」
アッシュが串焼きを買ってくれて、4本受け取る。
広場の端にあるベンチに座り、クロすけにチョコチップメロンパンを2個と串焼きを1本を渡した。
この串焼きってなんの肉なんだろう。
・ラッドの肉の串焼き(タレ味)
ラッドの肉を串に刺して焼いたもの。
見ても分からなかった。
串焼き美味しいけど、そろそろ米が食べたい。日本食が恋しい。……お母さんの焦げたご飯が食べたい。
「口に合わなかったか?」
「美味しいよ。だだ、ちょっと故郷のご飯が恋しくなっただけ」
「……今日の夕飯は、お前の世界の料理が食べたい。作れるか?」
「いいの?口に合わないかもしれないけど」
「食べてみないと分からないだろ」
アッシュが昨夜と同じ様に頭をポンと撫でる。無表情だけど、なんとなく励ましてくれてる感じがして元気が出た。
串焼きを食べ終わり、ちょこちょこと他の屋台の食べ物を食べたらお腹いっぱいになった。アッシュが全部払ってくれたので、お礼に夕飯は豪華にしてみよう。
広場の先に行くと露店が並んでいて、わたしの世界にもある食材や、見たことも無い食材があって興奮してしまった。その中でも一際気になるものがあった。
黄色いもふもふ、まん丸フォルム、つぶらな赤い目。
…………ヒヨコ?
「アッシュ、この生き物は……」
「それはルフだな。食用として育てられた魔物だ」
「……食用」
「珍味として一部の人間に人気らしい」
可哀想だなんて思わない。わたしは毎日何かしらの生き物を食べてるんだし。ただ、このルフの集団の中でも異様に目立つ奴がいる。
黄色いもふもふ、まん丸フォルム、瞳孔が開き気味の目つきが悪いルフが、静かにガンを飛ばしているのだ。
狭い箱の中、そのルフの周りだけ空間ができている。
「なんだいお嬢ちゃん、ルフが欲しいのか?」
商人のおじさんが客だと思ったのか声をかけてきた。欲しいわけじゃない、でもあの1匹だけ異常に気になる。
すると、気になっているルフがこっちを向いてガンを飛ばしてきた。
「アッシュ、このルフ買ってもいい?」
「構わないが、ルフの調理の仕方なんて知らないぞ」
「おじさん、このルフ頂戴」
おじさんは嬉しそうにあの1匹を箱に詰め、ルフの調理方法を教えてくれた。ほぼ聞いてないけど。
ルフの入ってる箱を抱え、色々な食材を買って足早に家に帰る。
テーブルの上で箱を開けると、ルフは箱の真ん中に堂々と座りガンを飛ばしていた。
『喰われる為だけに産まれ、生かされ、売られ、死ぬ。なんとも情け無い魔物だな』
クロすけは、つまらなさそうな感じでルフを見ている。アッシュは、ルフをどうするつもりなのか静かにわたしを見ていた。
「……テイム」
《テイムに成功しました》
『なっ!?馬鹿か小娘!!』
「何でもテイムできるって力、あと1回残ってたからさ。アッシュの時みたいな事がまた起きると大変だから使っちゃおうと……」
『だとしても、他の力のある魔物を従魔にすれば良いものを!!』
「クロすけ凄い強いから、別にいいかなと」
『……ふんっ!力のある魔物といっても我の足元にも及ばんからな。まぁ、いいだろう』
チョロいなクロすけ。
《名前をつけてください》
「ピヨ丸、これからよろしく」
箱の中に手を入れると、ピヨ丸はゆっくりと立ち上がって手のひらに乗った。相変わらずガンを飛ばされてるけど。
そのままクロすけとは反対の肩に乗せたのだが、パタパタと飛んで頭の上に陣取ってしまった。
『……ピッ』
ピヨ丸の声は、その姿に似合わないバリトンボイスだった。今更だけどピヨ丸って雄だよね?
アッシュを見ると、口元を手で覆い肩を震わせていた。
「っすまない、あまりにも常識外れで、つい」
「……そう?」
この世界の常識はまだよく分からないけど、確かに変な事をしている自覚は若干ある。
理由はどうであれ、アッシュの笑っているところが見れて少し嬉しい。
ピヨ丸が新しく仲間になった事だし、そろそろ夕飯の準備をしよう。台所は動力が魔石なだけで、使い方は元の世界とあまり変わらないから大丈夫だろう。
スキルで料理に必要なものを買って、調理を開始する。
まずは絶対に米だ。
米を研いで30分くらい水に浸しておく。その間に、露店で買った鶏肉もどきを一口ぐらいの大きさに切って、フォークをプスプス刺しておく。ビニールに、つけダレと鶏肉もどきを入れてもみもみ。そして放置。
その後、片栗粉をまぶして揚げていけば、唐揚げの出来上がり。
クロすけとピヨ丸。私の上で涎をぼとぼと垂らさないで。
米が入った土鍋を中火で沸騰させ、その後弱火で加熱、それから火を消し蒸らす。すると、どうでしょう。ほかほかのご飯の出来上がりだ。3合炊いたけど、足りるかな?
野菜も大事なのでサラダを作り、味噌汁も食べたかったので、インスタント味噌汁を買う。流石にやり方は知っていたとはいえ、米を土鍋で炊くのはちょっと疲れた。
「よし、出来た!!」
出来上がった料理を皿に盛って、テーブルに並べて椅子に座る。
「これが異世界の料理か」
「うん、結構定番の料理なんだけど……」
「これはスープか何かか?」
「それは味噌汁ってスープ。わたしの育った国の代表的なスープかな。人によって具は全然違うけどね」
アッシュは最初に味噌汁から口をつけると、少し驚いた表情をして一気に食べきった。
「初めて食べる味だが、美味い……まだあるか?」
「あるよ、気に入ってもらえて良かった!」
インスタントだからわたしが作ったわけじゃないけど。
アッシュに新しく味噌汁を渡して、自分も味噌汁を食べる。やっぱり味噌汁はホッとするな。
『おおぉおお……!!メロンパンに及ばないが、これはこれで美味い!!』
『ピッ!!』
クロすけとピヨ丸が唐揚げを食べたがったので、違う皿に分けてたいたのだが、既に皿は空だった。食べるの早すぎない?そして、ピヨ丸。ある意味共食いな気が……。瞳孔もさらに開いてる。
アッシュは2匹の様子を見て、唐揚げを一口食べた。
少し固まった後、凄い勢いで唐揚げとご飯を口に入れていく。このままだと、わたしの分の唐揚げが無くなる。急いでわたしの分の唐揚げを確保し、サラダも食べながら久しぶりの米を堪能した。
「美味かった」
炊いた3合の米はあっという間になくなり、作った料理に満足してくれたみたいだ。
「上手く作れてよかった。たまにだけど、ちゃんと作ってるのに暗黒物質が出来ることがあるからさ」
材料も作り方もちゃんとしているのに、極たまに暗黒物質を作り出してしまう。理由は未だに分からないが、母もそうなので遺伝だろう。
「シキ、明日はギルドで依頼を受けよう」
「アッシュはどうするの?」
「お前の受ける依頼の近くで、適当に魔物を狩るつもりだ。金には困ってないが、腕が鈍るのは困る」
「……アッシュの人生縛ってごめん」
「別に縛られたとは思わないし、恨んだりもしていない。あまり気に病むな」
わたしの頭をポンと撫でるアッシュの目は優しかった。
顔は無表情だけど。