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沢山の人で賑わう街をアッシュと並んで歩く。
屋台からは食べ物の良い匂いがしてついついみてしまう。
余所見をしながらも街中を進んでいくと、周りの外装とは一線を画したド派手な店に着いた。看板には“妖精の洋服屋”と書いてある。
「アッシュ、まさかここなの……?」
「そうだ、中から何が出てきても心を強くもて。クロすけも何があっても絶対に攻撃はするな」
『……目が痛くなる建物だな』
意を決して扉を開けて入ると、そこにはド派手な店に相応しい人がいた。
ギルドマスター並の身長、ムキムキの筋肉、濃いメイク、紫色の短髪に花飾りをつけ、髪と同じ色のヒラヒラのドレスを着た “男” がいた。
「いや〜〜ん!!お久しぶりね、アッシュちゃん!!」
――――ガバッ!!!!
「……ぐっ!!」
『……少しばかり可哀想だな』
「あら、可愛らしいお嬢ちゃんとチビちゃんね」
アッシュはぎゅうぎゅうに抱き締められていて、動けないみたいだ。少し顔色が悪い。
「はじめまして、シキです。この子はクロすけっていいます」
「わたしはリリアンヌ、リリィって呼んでちょうだい。敬語は必要ないわよ」
「よろしくね、リリィ」
バチンっとウインクをするリリィは迫力がある。クロすけの尻尾が腕に巻き付き、しっかりとしがみ付いてきた。ビビってるのかクロすけ。別に見た目は派手だけど、怖い人じゃ無さそうなのに。
「リリィ、そろそろ離してくれ。今日はシキの服と靴を買いに来たんだ」
「いやん!!ついにアッシュに春が来たのね!!」
「…………違う」
「冗談よ、でも今の間は気になるわね〜」
ニヤニヤとリリィが茶化してたが、すぐにお仕事モードになったのか、体と足のサイズを測られた。
「どんな服が欲しいのかしら」
「一応冒険者だから、動きやすい服がいい。あと汚れが目立ちにくい色がいいかな」
「マントも2着ほど持ってきてくれ」
「わかったわ。シキちゃん、デザインはどうしましょう」
「リリィのお任せでいいよ」
「選んでくるから座って待っててちょうだい」
リリィは鼻歌を歌いながら店の奥に消えた。
店の中にあるソファに座って待っていると、大量の服と箱を持ってリリィが戻ってきた。
「とりあえず20着持ってきたわ、靴も服に合わせたものよ」
「おお、ありがとう!!」
「ふふふ、ゆっくり選んで」
持ってきてくれた服を手にとって見てみると、どれも可愛いし色も落ち着いた物が多い。何着か派手なものもあるけど。
うん、決めた。
「気に入ったから全部買う!!」
「気前いいわね!好きよそういうの!」
・服20着
・靴5足
・マント2着
総額25万Gを支払ってアイテムボックスにしまう。するとリリィが紅茶とクッキーを出してくれたので、有り難く頂く事にした。
「それにしても、アッシュちゃんが誰かと一緒にいるなんて珍しいわね」
「色々と事情があるんだ。これからなにかと世話になるかもしれない」
「ま、詳しくは聞かないでおくわ」
「……助かる」
「ヤダもう!幼馴染なんだから気にしないの」
いいな、幼馴染。わたしも幼馴染欲しかった。
2人の話を聞きながらクロすけとクッキーを頬張る。クロすけ、わたしの上で食べカスこぼさないで。
「シキちゃんは何歳なのかしら?あ、ごめんなさい。乙女に年齢聞くなんて野暮だったわ……わたしって罪な女ね……」
「お前は男だろう」
「失礼ね!!どこからどう見ても可憐な乙女よ!!」
リリィは般若のような形相でアッシュの胸ぐらを掴んだ。リリィは絶対に怒らせちゃいけないな、気をつけよう。
それより早急にアッシュを救出せねば!!
「わたしは17歳だけど、アッシュとリリィは何歳なの?」
「わたしもアッシュも22歳よ。10代の頃が懐かしいわ」
「まだ全然若いでしょ」
「いやん!!そんなに褒めても何もでないわよ!!」
「ほげっっっ!!!!」
リリィはわたしを軽く小突いたつもりだろうが、とんでもなく痛い。小突かれただけの肩が外れるかと思った。アッシュとクロすけから哀れみの視線を感じる。
「まだ買うものがあるから、そろそろ行く」
「あらそうなの。またいつでも来て頂戴、シキちゃんもね」
「うん、紅茶とお菓子ありがとう!リリィまたね」
「ああん!!可愛いわ〜〜!!」
リリィの豊満な筋肉に抱き締められて窒息しそうになったが、アッシュが救出してくれた。でも、抱き締められた時にリリィが小さな声で『アッシュの側にいてあげてね』って言われたのが少し気になった。
リリィに手を振って次のお店へと向かうが、なんとなくリリィの言葉が引っかかり、何気なくアッシュを観察する。
身長は180を超えているだろう。一目で鍛えられているのが分かるバランスのとれた体。灰色の髪は光の加減で銀色にも見え、瞳は金色。顔は美麗、切れ長の目のせいか冷たい印象がする。
なんだこのイケメン。
「なんだ、欲しい物でもあるのか」
「いんや、アッシュを観察してただけ」
「観察して何か分かったか?」
「アッシュを動物に例えるなら狼だなと」
可哀想な子を見るような目でみられた。なんでだ。
次の店に向かう時に、アッシュに出来るだけ他の人には敬語は使うなと言われた。敬語を使うと下にみられることが多いそうだ。
少し歩いて建物の前に立つ。
剣と防具の絵が描いてある看板があるので、武器と防具屋だろう。
アッシュの後ろに続いて入ると、身長の小さいおじさんがいた。これはもしかすると異世界定番のドワーフでは……
「よう、アッシュ。剣でも研ぎに来たのか?それとも防具がぶっ壊れたか」
「いや、今日はこいつの武器と防具を見繕いに来た」
「あんたが噂の小さいドラゴン使いの嬢ちゃんか」
「噂?」
「冒険者の間で噂になってるぞ。小さいドラゴンを連れた嬢ちゃんが、ギルドの受付嬢とやり合ったってな」
は?何その噂。クロすけはまだしも、なんで受付嬢とやり合ったって事実無根なんだけど。誰だそんな噂を流した奴。
「ま、気にしないことだな!」
「はあ……」
「武器と防具だったな。見たところ嬢ちゃん初心者だろう」
「なんで分かるの?」
「歩き方や姿勢、手を見れば誰でも分かるぞ」
だからさっきアッシュを観察した時、可哀想な目で見られたのか。
「一応、この剣を持って構えてみろ」
渡された剣を持って構えてみたが、想像以上に重くて腕がぷるぷるする。今にも落としそうだったのか、おじさんにすぐに取り上げられた。
「これは下手に武器を持たせると逆に怪我するな。短剣が妥当だろう」
そう言って黒いシンプルな短剣を渡されたので、鑑定を使ってみる。
・オールドダガー
丈夫で初心者でも扱いやすいダガー。
どのダガーがいいのか分からないので、これでいいだろう。持ちやすいし、鑑定の説明でも初心者向けと書いてあったし。これを使って戦えるかは別だけど。
「あとは防具だな。」
・ファントグローブ
軽くて丈夫。火を通しにくい。
・ファントプレート
ある程度の攻撃は防げるが、軽量化されているため強度は低い。
「この2つだけ?」
「嬢ちゃんは防具を着けても、動けなくなるのが目に見える」
確かに。防具の重さで動けなくなったら、それこそ本末転倒だ。指定された金額を支払い店を出る。
そろそろ昼飯の時間だ。