6
「ダグラスさん、これって売れますか?」
クロすけの涙の結晶を1つ取り出してダグラスさんに見せると、大喜びで買ってくれるらしい。とりあえず3つだけ売ってお金が足りなくなりそうになったらまた売ればいいか。
ダグラスさんは出した結晶を確認すると、部屋の隅にあった頑丈そうな金庫から袋を4つ取り出してテーブルの上に置いた。
「ドラゴンの涙は1つ550万Gで買い取ろう。それが3つだから1650万Gだ。丁度あるはずだが一応確認するか?」
お金に関しては分からないので、アッシュを見ると頷いたのでこれでいいんだろう。これを確認するのは大変そうだなと思った瞬間、閃いてしまった。この袋を鑑定したらお金の枚数わかるんじゃないか?物は試し。
・500万Gが入った袋
・500万Gが入った袋
・500万Gが入った袋
・150万Gが入った袋
「丁度あるみたいなので大丈夫です」
「アイテムボックスと鑑定のスキル持ちか。どっちのスキルも何かと便利だから羨ましいぜ」
テーブルに置かれた袋をアイテムボックスに回収すると、ダグラスさんは思い出したように金庫からまた袋を取り出してテーブルに置いた。
「アッシュ、今回の依頼の報酬だ。50万G入ってるぞ」
アッシュは頷いて袋をアイテムボックスにしまい、そろそろ帰ると言ったので、ダグラスさんにお辞儀をしてギルドから出る。外は既に夕方になっていて美味しそうな匂いが色んなところからする。これは今日のうちに買い物は無理そうだな。
「悪いな、買い物は明日でもいいか?」
「スキルで済ませることもできるだろうし、大丈夫」
「日が暮れる前に家まで行くぞ。夜になると無駄に絡んでくる奴らが増える」
さすがに絡まれたくはないし、クロすけがご機嫌斜めなのでアッシュの家に足早に向かう。少し歩くと静かな住宅街のような場所まで来た。庭がある素朴な感じがする二階建ての一軒家までくると、アッシュが扉に鍵をかざした。鍵ってそんな使い方だっけ。
「ここが俺の借家だ。あまり広くはないが、2人と1匹が住むのには十分だろう」
「あらためてお世話になります」
一階は居間、台所、トイレ、お風呂。
二階はアッシュの部屋、荷物置きの部屋、空き部屋があるらしい。
『金は手に入ったのだろう!早くメロンパンを出せ!』
ここでクロすけの我慢が限界を迎えて、わたしの肩の上で暴れ始めた。尻尾と爪が地味に痛い。アイテムボックスからさっきギルドでもらったお金を1つ取り出す。
「もう少しだけ待ってね。アッシュ、この金貨みたいなのは1枚でなんG?」
「金貨1枚10000G、銀貨1枚1000G、銅貨1枚100G、鉄貨一枚10Gだ」
「ありがとう!それじゃあ、チャージ」
手のひらから金貨が消えて、異世界ショップの画面にチャージ金額が1万2810円と無事に表示されていた。
つまり1G=1円か。ん、ちょっと待って。そうなるとクロすけの涙が1650万Gで売れたから1650万円ってことだよね……。クロすけのおかげで一気にお金持ちになった。
クロすけに感謝の気持ちと待たせたお詫びに、普通のメロンパンを9個と試しにチョコチップメロンパンも1個買って渡す。残金1万1800円。後でお金をチャージして絶対に下着を買うと決意した。
『おお、メロンパン!……ん?小娘、この黒い粒が入ったメロンパンは何だ?』
「黒いのはチョコだよ。試しに食べてみて?」
『ふむ……こっ、これは!!』
また涙を流して食べているので、どうやらお気に召したらしい。結晶はクロすけが食べ終わった頃に回収させてもらおう。
「今の内に風呂の使い方を教えておく」
風呂場に行くとシャワーと浴槽があって、赤い石に触るとお湯、青い石に触ると水がでると教えてもらった。
アッシュが夕飯の準備をしてる間に風呂に入り、昨日と今日の疲れを癒す。シャンプー、リンス、ボディソープ、洗顔と色々買ったので全身くまなく洗う。
あまり長風呂するのは申し訳ないので早めに上がって、下着10枚セットと紺色の七分袖ワンピースを買って着替えた。
髪は渡された赤と緑の石が付いている手のひらサイズの箱を教えられた通りに振ると、一瞬のうちに乾く。
「異世界って凄すぎる……」
居間に戻ると夕飯が既にできていて、出されたスープとパン、シンプルな味付けのお肉は美味しかった。
クロすけはメロンパンを5個食べたらお腹いっぱいになったようで残りは明日の朝に食べるらしい。
クロすけの涙を回収して家賃の分としてアッシュに全部渡そうとしたら、昼に渡した分で十分だと断られた。
「今日は俺の部屋で寝ろ。空き部屋はあるがベッドがない」
「あ、大丈夫。スキルでベッドも買えるから」
「便利だな……」
「明日の買い物が楽になるから本当に助かる!」
思い切って100万円をチャージして、ローベッドや他に必要なものを次々と買っていく。
「明日は買い物だけの予定だから、ゆっくり休め」
「うん、アッシュおやすみ。」
「……おやすみ」
何故か頭をポンと撫でられアッシュが部屋から出て行った。なんだあのイケメンは。アッシュって口数少なくて何考えてるか分からないけど、さりげなく優しいんだよな。
『ベッドとやらの寝心地は中々だな。』
「クロすけ、体拭いてないのにベッドでゴロゴロしないで」
『安心しろ。魔法で体は常に綺麗にしている』
「その魔法って服やわたしにかけることって出来る?」
『出来るぞ』
「わたしの着ていた服と靴を綺麗にしてくれると助かる」
『貴様の頼みを聞くのは癪だが、いいだろう。明日の昼にはまた黒い粒が入ったメロンパンを出せ』
「わかったわかった」
クロすけに綺麗にしてもらってベッドに横になると、一気に疲れが出てすぐに寝てしまう。こうしてわたしの非常に濃い1日は終わった。
――――――――――――――
「……お母さん、サソリ固めは許して…」
『起きろ小娘!そして離せ!』
「………ん?」
目を開けるとわたしはクロすけを抱き枕にしていたようで、腕の中でジタバタと暴れている。
「おはようクロすけ……ふああぁあぁ」
『まったく、なんて寝相をしているのだ!』
深緑色のワンピースに着替えて居間に行くと朝食が出来ていた。出来る男アッシュが既に起きていたみたい。
「寝癖が凄いことになってるぞ」
「いつものことだから気にしちゃダメ。おはよ」
「……おはよう」
髪を手ぐしで適当に整えながらアッシュとクロすけと朝食を食べる。パンにつけようとジャムを出したら、アッシュがパンを10個も食べたのには驚いた。薄々分かってたけど、アッシュは結構な甘党だろう。
「今日は服と靴、それと武器や防具を揃えた後は食料を買う予定だ。他に欲しい物があったら言ってくれ」
「了解。クロすけ、ちゃんと大人しくしててね」
肩に乗ったクロすけは、ふんっ!と顔を逸らしたけど昨日ちゃんと大人しくしててくれたし大丈夫なはず。
「先に言っておく。服と靴は行くつもりの店で全部揃うが……なんというか……店主が強烈だ」
「強烈って顔が怖いとか、性格が悪いとか?」
「……ある意味怖い。だが品揃えいいのは確かだ」
ある意味怖いってなに。心配になってきた。