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アッシュの案内で街に向かってるんだけど、クロすけが肩に乗っているので地味に重い。ところで、向かってる最中にアッシュと話し合って決めたことがある。
・わたしが違う世界から来たことは秘密
・アッシュがテイムされた事は秘密
・冒険者ギルドに登録してランクをあげる。あげた後はアッシュとパーティーを組む
・住む場所はアッシュが借りている家
・クロすけを隠す必要はないが、あまり言わない方がいい
アッシュとクロすけはわたしにテイムされたので、一定の距離からは離れられないらしい。なので必然的にアッシュと住むことになるし、冒険者ギルドで登録してアッシュとパーティーを組まないとアッシュは仕事が出来ないわけで。非常に申し訳ない。
アッシュはBランクらしいので、わたしはCランクまで上げた方がいいみたい。わたしは戦えないのでクロすけに頑張ってもらおう、他力本願だ。
話しているうちに街の門まで来たみたいで、出入りしている人達からの視線をビシバシ感じる。門番みたいな人も驚いて固まって動かない。アッシュがカードを見せるとやっと動き出してそれを確認し、わたしに声をかけてきた。
「そ、その肩にいるドラゴンは君の従魔か?」
「はい、そうです」
「カードを確認させてもらってもいいだろうか」
「とんでもない田舎から出てきたもので、カード持ってないんです……」
「カードがない場合は1000Gを支払ってもらう必要がある。 そして、犯罪経歴がないか調べるがいいか?」
「大丈夫です」
前もってアッシュから渡されていた1000Gを門番のおじさんに渡して、目の前に出された水晶に触れた。この水晶に触ると犯罪経歴が分かるらしく、犯罪経歴がある人は水晶が赤く染まると教えてもらった。もちろん犯罪とは無縁なので水晶の色は変わらず、おじさんも少しホッとした様子だ。
「従魔が問題を起こした場合は主人の責任になるから気をつけるように。冒険者の街、アムサへようこそお嬢ちゃん」
これで街に入れるみたい。クロすけにビックリしてる人は多いけど、思ってたほど騒ぎにはならないのが幸いだ。街の中は色んな店や屋台があり、建物や歩いてる人達から中世時代のヨーロッパのような印象をうける。冒険者の街と門番のおじさんが言っていたように武器を持っている人が多く、凄く活気がある街のようだ。
人が多いのではぐれない様にアッシュの後をついていくと、一際大きい建物に着いた。ここが冒険者ギルドか。
ギルドの中に入っていくとやはり男が多いが、女も結構いた。やっぱりクロすけを連れているせいか驚きの視線が多い気がするけど、中には何か値踏みをされているような視線も感じた。
受付のようなところまでアッシュに連れられてくると、受付嬢の女の人がアッシュを見て顔を赤らめていたが、横にいるわたしに気づくと一気に怪訝な顔になった。
「こいつの登録を頼みたい」
「アッシュさん、依頼に行っていたんじゃないんですか?この子誰なんです?」
「依頼の報告はマスターにする。こいつは俺の連れだ」
うわー……なんか受付嬢の人に凄い形相で睨みつけられてるんだけど。睨むとしてもアッシュの前でその顔しちゃ駄目だよお姉さん。睨みながらも紙とペンを出したのでこれが登録用紙なんだろうな。
名前・年齢・職業・従魔の名前を書く欄あった。職業はどう書いたらいいか分からなかったのでアッシュに聞くと、わたしの場合テイマーと書けばいいらしい。日本語で書いたつもりだが、アッシュやお姉さんにはこの世界の文字に見えているのか何も言われなかったので、そのままクロすけの名前も書いてお姉さんに渡す。
「この水晶に手を乗せて頂戴。魔力の登録をするから」
門の時と同じように水晶に手を乗せると、水晶が3秒ほど光った。
「はい、これでギルド登録は終わり」
そう言ってアッシュも持っていた免許証のようなカードを渡された。
名前 シキ・サトウ
年齢 17
職業 テイマー
従魔 クロすけ
ランク F
え、これで終わり?ギルドの説明とかないの?
「なに?まだ用があるの?」
この人には敬語使うのやめよう。
「ギルドの説明とか決まりごととかないの」
そんな事も知らないのかという顔でお姉さんは面倒くさそうに説明し始めた。だからお姉さん、アッシュの前では猫被りなよ。アッシュも眉ひそめてるよ。それとも別に猫被る必要ないのかな。
「依頼はあそこの掲示板に貼り出されてるわ。もし受けたい依頼があったら依頼書を受付まで持って来て」
「ランクはどうやったら上がるの?」
「ランクは依頼の成功数と失敗数で決まるわ。失敗が多いと上がらないし、自分のランクより1つ上の依頼を一定数達成しないと上がらないわよ」
「わかった、ありがとう」
まだ詳しく聞きたかったけど、肩にいるクロすけから不穏な気配がしてきたのでここで切り上げた。あとはアッシュか違う受付嬢に後日聞こう。
「シキ、ギルドマスターに依頼の報告をするから付いて来い」
「わかった。クロすけ、もうちょっと我慢してね」
クロすけは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
階段を上がって二階に行くとアッシュは奥の扉をノックした。すると ぶるぁぁぁぁ!!とでも言いそうなあの人とそっくりな声で、入って来いと中から聞こえた。アッシュと部屋の中に入ると、大量の書類に囲まれながら葉巻を吸っている眼光の鋭いゴリラのようなおっさんがいたんだけど、絶対カタギの人じゃないわ。
「なんだあ?そこの嬢ちゃんとドラゴンは。アッシュ、依頼の件はどうした」
「迷いの森でこいつ、シキ拾ったんだが、その後魔物が逃げていた原因のドラゴンと遭遇してシキがドラゴンをテイムした」
「おいおい、見たところそのドラゴン普通じゃねえな。小さいなりをしてるが、昔ぶっ倒したドラゴンより遥かに危ねえ感じがする。逆に嬢ちゃんは近所のガキどもくらい弱そうなんだが?」
このおっさん鋭すぎるでしょ!下手なこと言わないようにここはアッシュに任せよう。というか、おっさんドラゴン倒したとか言わなかった?
「……このドラゴンはディザストロドラゴンだ。」
「やっぱりな。嬢ちゃん、どうやってディザストロドラゴンをテイムした?」
おっさんは椅子から立ち上がってわたしの目の前まで来た。身長が2メートル近くあるのか、155センチのわたしは完全に見下ろされている状態だ。
こ、怖いいいいいい!!!!威圧感半端無いって!!
落ち着け……打ち合わせした通りに話せば大丈夫なはず。
「…食べ物で釣りました。」
「ああ?食べ物だと?そんなんでこのドラゴンがテイム出来るなら誰も苦労なんてしねぇぞ」
『喧しい虫だな。貴様にメロンパンの尊さが分かってたまるか』
「凄えな、喋れるのか。メロンパン?ってやつに釣られて従魔になったのかよ」
頼む、クロすけ!!打ち合わせ通りに話合わせて!!
『…………そうだ』
不服そうに答えたクロすけは、そっぽを向いた。よくやったクロすけ。上手く誤魔化せたみたいで、若干怪しそうな顔をしながらもおっさんは納得したみたいだ。
「挨拶がまだだったな。俺はここのギルドマスターをやっているダグラスだ」
「さっき冒険者になったばかりのシキです。よろしくお願いします」
ダグラスさんがニヤッと笑って手を差し出したので、握手を交わす。ダグラスさん、笑うと悪人顔が極悪人にアップしますね……。