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異世界迷子物語  作者: てと
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3


アッシュさんの名前はわたしステータスに書いてあったから知っていたけど、そういえばバタバタしてて自己紹介もなにもしてなかった。挨拶大事だよね、せっかく異世界言語のスキルがあるんだからコミュニケーションをとらねば。


「わたしの名前はシキ・サトウです、シキと呼んでください。ちなみに学生です」


「シキ、単刀直入に言うがこれからお前は俺と行動してもらう。」


そりゃそうだ。わたしにテイムされて尚且つわたしが死んだら死ぬとかとんでもない状態なのに、はいさよならと野放しになんて出来るわけない。申し訳ない気持ちはちゃんとある、でもほんの少しアッシュさんと行動出来ることにほっとする気持ちもあるのはわたしが卑怯な人間だからだろう。なんかこれちょっと落ち込むな……。


「夜が明けたら俺が今受けている依頼を済ませないといけない。危険な依頼だが来てもらうぞ」


「アッシュさんの行くところが地獄だろうとついて行きます!オッス!」


「お、おう……それとアッシュでいい、敬語も必要ない」


依頼がなんなのかは分からないけど、せめてアッシュの邪魔にはならない程度に行動しよう。

気づくと辺りはすっかり暗くなっていて肌寒く感じる。焚き火の温かさが有難い。体育座りをしながらボーっと焚き火を見ているとアッシュがマントを取り出してこちらに差し出してきた。


「おい、寒いならこれでも着ておけ。」


「いいの?ありがとう」


「……顔色が悪い。疲れてるなら寝ろ」


「わたしが寝たらアッシュ大変じゃない?」


「俺は2、3日寝なくても平気だ。お前はさっさと寝ろ」


「ごめん、ありがとう」


大きいマントを着てゴロンと横になる。なんか今日は色々あって疲れたな……考えなきゃいけない事は沢山あるはずなのに、なんかもう瞼が重くて焚き火のパチパチという音もどこか遠くに聞こえる。ごめんアッシュ、わたしは夢の世界に旅立たせてもらう。


「おや、す……み……」


「……ああ」



夢の世界に旅立つ寸前に聞こえたアッシュの声に、わたしはまた涙が出そうになった。






―――――――――――――





「………い」


お母さんまって……あと5分くらいで起きるからコブラツイストで起こすのはやめて。


「おい、起きろ」


「んあ?」


お母さんの声じゃない……それに揺すって起こしてくれる優しさなんてものは我が母にはない。それじゃ誰だ?そういえば昨日、なにかあったような。重い目蓋を無理やりひらくと眉間の皺が深いアッシュがわたしの肩を揺すっていた。やっぱり夢じゃないよなあ。


「……おはよう」


「朝飯を食べたらすぐ出発するぞ」


まだ日が昇りきってないけど、食べたら出発するらしいのでアッシュに渡されたパンと干し肉を急いで食べた。

借りていたマントを返そうとしたら着ていろと言われたので有り難く借りていよう。辺りは霧が覆っていて肌寒いのだ。マントは大きいので引きずらないように裾を結びアッシュの依頼のために出発した。


「アッシュ、依頼の内容って聞いても大丈夫?」


「そういえば言ってなかったな。この森を抜けた先にある湖に危険な魔物が出た可能性があるらしい。それの調査だ。」


「どうして危険な魔物が出たって分かるの?」


「この森からまるで何かから逃げるように魔物達が他の場所に移動しているのが確認されているからな。」


魔物の事はよく分からないけど魔物が逃げるってことはよっぽど危険なんだろうに、よくアッシュは一人で調査に来たな。しばらくアッシュの後ろをトコトコとついて行く。ローファーで森の中は歩きづらかったけど、魔物とも遭遇しなかったので結構早くに目的の湖の近くまできたみたいだ。


草むらから慎重に湖の様子を窺うと、黒くて禍々しい大きなドラゴンが寝ていた。見た目完全にゲームに出てくるラスボスじゃん。ポカーンとわたしがドラゴンに魅入っていると、横にいたアッシュは息を飲んでいた。


「……ディザストロドラゴン。」


「ストロー?」


「今すぐここを離れるぞ」


アッシュは少し焦っている様子なので、めちゃくちゃ危ないんだろう。音を立てないようにこの場所から離れようとした瞬間、黒いドラゴンが鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの咆哮をあげて血のように赤い眼でこっちを見ていた。


『どこに行く、虫共よ。我が直々に遊んでやろう』


シャ……シャベッタアアアアアアアアア!!!!


アッシュがドラゴンの咆哮をあげた瞬間腰に挿していた剣を抜いたが勝てないだろう。アッシュに逃げろと言われてドラゴンとは反対の方に突き飛ばされたが、逃げたところでこの黒いドラゴンは見逃したりなんてしない気がした。逃げても死ぬ、逃げなくても死ぬ。それにアッシュに死んでほしくない。だったらわたしが今、生きるために唯一できること。


ドラゴンが口から何かを吐き出しそうな瞬間、わたしは大きく息を吸い込んで今まで出したことのないほどの大きい声で黒いドラゴンに向かって叫んだ。




「―――――テイム!!!!」


『なっ……!?』




《テイムに成功しました》




「ドラゴン!小さくなれるんだったら小さくなって!それと、わたし達に絶対に攻撃しないで!これ命令!」


『虫ごときがっ!!我に命令などとっ!?』


テイムと叫んだ瞬間、ドラゴンが光ってテイムが成功したという声が聞こえた。それでも安心出来ないから咄嗟に命令したらドラゴンは叫びながら影みたいなものに包まれた。すぐ影は消えたけど、そこから現れたのは小さい黒いドラゴンだった。思いつきで言ってみたんだけど本当に小さくなれるのか……そしてちょっと可愛い。


アッシュは驚いた顔をしてわたしとドラゴンを見ていたが、すぐに真顔に戻って剣を構えたままドラゴンに向き直った。


『貴様!!我を従属させるとはどんな手を使った!!』


ドラゴンはパタパタとこっちに飛んできたが、全く怖くないし可愛い。目の前まで来たけど攻撃するなと命令したせいかドラゴンはぷんぷんとわたしに怒る事しかできないみたい。


「おすわり!」


ちょこん


「お手!」


ぺとっ


『貴様ああああああ!!!!!!』


「そんなに怒んないでよ、血圧上がるよ?」


『貴様がそうさせてるのだろうが!!』


わたしとミニドラゴンのやりとりを警戒しながら見ていたアッシュが構えていた剣を降ろした。


「本当にあのディザストロドラゴンをテイムしたのか……」


「あの?ストロードラゴンって有名なの?」


「ディザストロだ。かつて世界の半分を焦土に変え、災厄と呼ばれたドラゴンと言われている」


「なんでそんな危ないドラゴンがここで昼寝してるの」


『別に我がどこで寝ようがよかろう!長き眠りから覚めたばかりなのだ』


ふんっ!と首をそらす様子がまた可愛い。とんでもないドラゴンをテイムしちゃって血の気が引いたけど、この姿に和んでしまう。ま、なんとかなるか……なんとかなるよね?



《名前をつけてください》


「ん?」


「どうした」


「なんか名前をつけてくださいって声が聞こえたんだけど、ドラゴンに名前をつけろってこと?」


「……ああ、魔物をテイムしたら名前をつけるのが決まりだと聞いたことがある」


『貴様に名などつけら 「これからよろしく、クロすけ」

貴様あああああああ!!!!』



うん、我ながら可愛い名前をつけたな。






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