今年は海に行かない
「君達にはこれから魔王の討伐に行ってもらう」
ものすごいオーラをその背中から発している王様が俺達に急に言った事は死の宣告に等しかった。
「何故ですか? 何故俺達が魔王の討伐に向かわなければならないんですか?」
俺と一緒に何故か呼ばれた水澤君が王様に説明を求めている。俺も実は水澤君と同じ気持ちだ。今すぐに王様のそのいかにも高そうな赤いなんかドンキとかに売ってそうな王様服の襟を掴みあげてやりたい。
「王様、俺達の町には『勇者』エレン·ヒボワールというとてつもない勇者がいます。しかもそのエレン·ヒボワールには『大戦士』ヘラクレン·パワー、『大魔法使い』ヘリー·ポッツアー、『大工さん』武彦山中というとんでもない仲間たちがいるんです。おそらく我々よりも魔王討伐に向いています。何卒もう一度人選をお願いします」
王様は無言で俺達の顔を交互に見回す。
俺、水澤君、俺、水澤君、スマホ、俺、水澤君、マトリョーシカ。
やがて王様がゆっくりと口を開いた。
「口がいい意味で臭いぞ」
なに? また王様が黙り込んだ。どういうことだ? 俺にいっているのか? 俺の提案に対して口を開いたんじゃなくて提案をした俺の口臭が気になったから先に俺の口臭に物申したのか? 俺の魔王討伐交代案はどうなったんだ?
「王様、松木の口臭は一旦置いておいてください。それよりも私も松木の意見に賛成です。何故あなたが私達を選んだのかわかりませんが、私の特性は『全く車に乗らないから必然的にゴールド免許』だし、そこの松木なんて『扇風機の前であ〜ってやってもそんなに声変わらない』という特性ですよ。どう考えても魔王討伐に向かう前に死にます。おまけに職業は私が『寿司職人(見習い)』松木は『ピンポンダッシャー(マスター)』です。どう考えても戦闘向きではありま……」
「つべこべ言うなこのバカ共が、さっさと出発せんと機関銃で撃ち殺すぞ!!」
王様が、機関銃を取り出して銃口を俺達に向けた。
「フハハハハハ、取り込み中すまないな、私はこの世界の支配を目論む魔王『渡辺』だ!! 中々勇者が私を討伐に来ないから暇つぶしにこの国の王の命を頂こうと思い参上したぞ!!」
俺と水澤君はこのとんでもない事態に思考が麻痺し、体が固まって動けなかった。王様に急に呼ばれたかと思ったら魔王の討伐を命じられるし、その王様には銃口をむけられるし、かと思ったら魔王が来るし、一体どうなってるんだ……
ーードガガガガガガガガガガ!!
ーーグフッ……
王様の容赦の無い機関銃による一斉射撃により魔王『渡辺』は蜂の巣になり絶命した。
しばらく王の間に沈黙が流れた。やがて沈黙を破るように王様が口を開いた。
「快·感」
ーーウオオオオオオーーーー!!!
こうして世界に平和が訪れた。