A-3戦ってみよう
手のひらに乗ったサファイヤを肩の上に座らせるとタクミは父親に話をの続きをするように促した。
「それでサファイヤは何とどうして戦わないといけない訳?」
「あの一件の後、一度だけガーディから連絡が有った」
「な!」
詳しく聞こうとするタクミを手で制して父親は話を続けた。
「10年後、今からなら5年後か。第2派が来るそうだ。それに対抗するために政府は準備を始めた」
「コアを内蔵した子でないと向こうのコアに取り込まれる。だからと言ってサファイヤたちを戦わせる気!」
「いや、戦うのは特別に編成されたチームとそのパートナーがやる。TRCは下請けとして戦闘データを集める事を依頼された。サファイヤちゃんは他のPFガールやこちらで用意したエネミーと模擬戦をしてくれればいい。本当の戦争は戦闘用に作られた子がやる」
「分かった、とりあえずは納得しておく」
「それとこの話は他のPFガールの所有者にはしない様に。TRCの関係者以外のスカウト組には玩具のモニターとして説明してある」
相手が人間では無いとはいえ戦争の道具を作る手伝いをしたがるモデラーはいないだろう。タクミも5年前の事が無ければ反対して協力しなかったはずだから。
「この辺りに住む所有者は日曜に店の地下に集まってバトルを行う。タクミも準備をしておくように」
最後にそう言うと父親は作業部屋から出て行った。
「サファイヤ、今の話を聞いても戦いたいか?」
「良く分からない事が多かったですけど、私が戦えば所有者の為になるんですよね?」
「タクミでいい。本音を言えば戦わせたくない。でも戦わないともっとひどい事になる。その事を俺は5年前に知った」
高校生とは思えない戦士の顔をしてタクミはそう言った。
「何が有ったのか聞いてもいいですか?」
「そのうちな、今は6日後のバトルに向けての準備をしよう」
サファイヤの頭を撫でてから作業台の上に降ろしサファイヤを武装形態に組み替え始めた。
そして次の日曜日、タクミは店の地下に来た。サファイヤは連れて歩けないから持って来たスーツケースの中で待機している。
「店の地下にこんな空間が有っただなんて知らなかったんだけど?」
「ここはPFガールの所有者が集まるために作られた特別な場所だからね。会員証が無いと入れない。タクミの分は作っておいたから渡しておくよ」
部屋に入ると中は大きめのホールになっていた。
「これ隣の店の地下まで掘り進んでいるよね」
「大丈夫、許可は取った」
そんな会話をしてホールを見渡すともう所有者達が集まっていた。
「今日来れるのは全員来ているね。紹介しよう新しいPFガールの所有者で私の息子のタクミだ。何人かは店で会っているはずだ」
「始めましての人もいますね。センジュ タクミです。よろしくお願いします」
タクミが挨拶をすると大学生くらいの男性が出てきたタクミに声をかけた。
「これからよろしくね。所でタクミ君のパートナーはどこかな?」
「ここにいますよ。でもこれからバトルするので手の内はギリギリまで隠しておこうと思います」
手にしたスーツケースを持ち上げてタクミは答えた。その返事を聞いて大学生はアハハと笑った。
「いいね、なら僕と戦ってみるかい?僕の名前は剣崎 優斗。パートナーはPFG-1『ソード・プリンセス』名前はジャンヌだ」
ユウトはテーブルの上にいたお姫様の格好をしたPFガールをタクミに紹介した。
「初めましてジャンヌと言います」
ユウトのパートナーの名前を聞いてタクミは名前に対してツッコみを入れようとしたが寸前で飲み込んだ。
「(ジャンヌがジャンヌ・ダルクからきているのなら姫騎士に平民の女騎士の名前を付けるのはどうだろうと思ったけど、ネーミングセンスに関しては人の子とは言えないか)」
ジャンヌを見て何も言わないタクミの事をジャンヌに見惚れていると勘違いしたユウトはジャンヌ自慢を始めた。
「素晴らしいだろ!TRCが開催するコンテストで大賞を取った事もあるんだ。もっとも初心者のタクミ君の為に今回は無改造のノーマル仕様で戦ってあげよう」
「ノーマルのソードプリンセスは陸上型の近接戦仕様ですよね。こっちの相性が良すぎてワンサイドゲームになるので他の装備にしてください」
タクミにそう言われてユウトはプライドを傷つけられたのかムッとした。
「君のパートナーは飛行型の遠距離戦仕様かな。それくらいノーマル装備でも簡単に覆せるのだよ」
「そう言うのならお願いします。でも後で文句は言わないでくださいね」
「約束しよう。ではジャンヌ、バトルステージ・インだ」
ユウトはテーブルの上にいたジャンヌを手の上に乗せてホール中央に設置されたバトルステージの前まで移動した。このバトルステージはPFガールが戦っても周りに被害が出ない様に作られたものでジオラマを置いたりステージの床がせり上がったり凹んだりして地形を作る事が出来る。
「バトルステージ・イン!」
掛け声と共にジャンヌはユウトの手の上から飛び降りた。そしてロングスカートを分解してミニスカート状態になるとアーマーと盾になったスカートを全身に装着して姫騎士モードに変形した。
「『ソード・プリンセス』ジャンヌ!出陣です!」
ジャンヌの演出を見るとタクミは父親に質問した。
「こっちも演出を入れたいのだけどいい?」
「何をしたいんだ?」
タクミは父親に何かを言うとスーツケースを見ちあげてステージの上に置き中身がユウトに見えない様に開けた。
「外の声は聞こえていたね準備はいい?」
「はい、いつでも行けます」
サファイヤの返事を聞いてタクミは父親に合図を送った。するとホールの照明が消えて突然暗くなった。そしてどこからかBGMが流れてきた。
「何?このアクションゲームで巨大ラスボスとの最終決戦に流れるようなBGMは」
「サファイヤGO!」
ユウトの呟きに返事をせずタクミはサファイヤをケースの外に出した。暗闇に中ガッシ!ガッシ!とPFガールに似つかわしくない足音が響き、やがて照明が付き少しずつ明るくなるとそこにはPFガールの3倍の大きさを誇るロボットが立っていた。
「ちょっと待て!それはPFガールじゃないだろ!」
「ちゃんとPFガールが搭乗していますよ。背中のジョイント穴で接続しているので立派な装備です。」
胴体の上半分がコクピットになっていてそこに素体状態のサファイヤが座っていた。
「PFガールのコアの出力だと素体と身に着けた装備が限界のはずだろ!それにPFガール以外は動かせないじゃないのか!」
「所有者としての実力の差?」
ユウトのツッコミにタクミが答えるとタクミの父親である店長が補足をいれた。
「タクミはPFガールを作ったのは1週間前でサファイヤちゃんの起動もその後だけどPFガール開発前からプラモを動かしていたから所有者としての経験値は誰よりも上なんだよ」
「ふざけるなー!」
ユウトの叫びがホールの中に響くのだった。
レギュレーションの無いフリーバトルなのでOKです