第八話 邂逅
第八話。ゆっくりと繋げていきます。
優希は琴音の家へと戻り、持ってきたものを自室で設営していた。
琴音の家に優希の部屋が割かれていたのは確かであったが、置いてあるものは、一晩越せればそれでいい程度のものだった。それに、フェンリルが居住するための物品が、荷物を膨らませていた。
この家は優希達4人それぞれに1人1部屋割いても余るほどであった。なので、フェンリルと優希は別室となった。勿論、オリヴィエと琴音も別室である。
また、この4部屋はそれぞれ縁側で繋がれていた。今は各従者が、優希と琴音を挟む形であり、それぞれの従者が隣室となっている。優希は自室の設営が終わった後、フェンリルの部屋の設営を手伝いに行った。そのついでで布団の取扱だとか、服の取扱だとかを一通りフェンリルに教えた。
その夜は簡単な料理を作って優希は疲れが溜まっていたせいか、昨日よりも早めに寝た。
*
12時を少し過ぎる頃、私は布団から出た。今日の朝の狙撃手の犯人を突き止めたかったからだ。
電気が消された部屋を、月光が薄暗く照らしていた。私は、青い小さな髪飾りを付け、玄関へ向かった。外へ出ようと私はドアノブに手を掛ける。その時、後ろから足音が聞こえた。男性。ユーキ?いや、そんなはずない。
「何だ、オリヴィエ。」
「身もしないで当てられるとは。驚きました。」
私はオリヴィエを一切向こうとせずに話しを続けた。
「で、何の用だ?」
「では逆に、どうして主を置いて外界へ出ようとするのですか?」
「…………」「…………」
「あんたも見ただろう。あの狙撃。」
「ええ。お見事な射撃でした。」
本当に何も覚えていないんだな。オリヴィエは。
「まさか、今から何処を暴こうとでも仰るのですか?」
「それの何が悪い。」
「悪いも何も、分が悪いでしょう。第一、主と離れる時点で、能力が低下するのですから。」
「別に戦う気なんかない。ただ、そいつが誰なのかが分かればいい。」
「……それで此処を一時的に出ると。私が貴女の主を攻撃しない保証も無しにですか。」
「それは、あんたの主が許さないだろ。」
「おや、見抜かれていましたとは。」
「あんたの主の心音の異常性を見れば明らかだ。── 話は終わりだ。私は行ってくる。」
私はそう言い、扉を開き外へ出た。オリヴィエは反対側へと戻っていったようだ。
夜の空気を切るようにして、住宅街の隙間を縫っていく。透過魔術を使えば、物理的探知、或いは宝石魔術による探知以外ならくぐり抜けられる。また、私はあの狙撃手がアールネだと記憶が確信のように覚えている。あいつは行動範囲があまり大きくなかった。だから、狙撃地点周辺を哨戒していれば、簡単に出会えると思っていた。
「(...!)」
ババババッと銃声が数百メートル先から聞こえる。近づくにつれ、同地点から、銃声に加えて、金属と金属が打ち合う音が鳴り響いた。フェンリルはその地点の数十メートル圏内へ入り、塀の影から一瞥した。
道路手前には白いツンツンした髪の男子。年は推定16,17ぐらいのだった。その少年は双剣を使い、奥のフードを被った背の高い男性へと斬りかかっていた。背の高い男性は、片手に短機関銃、もう一方の手に剣を持ち、少年との距離を剣で突き放して、銃でリーチ外から攻撃するという手法で応戦していた。
また、一番手前に見えるのは、黒い長い髪の少女。肌から年齢は従者の少年と年が近そうだった。また、背の高い男性の背後には10ぐらいの少女が、戦いを見守っていた。
少女と少年の2人組は、この状況下で背の高い男性を倒し切ることは無理と判断したらしく、フェンリルの方向へと撤退していく。フェンリルは戦闘を見ていた十字路が見える塀裏まで隠れ、少年少女の姿を見た。2人とも吊目で、少年の方はくまが黒ずんでおり、目つきが良いようには感じられなかった。
銃声が鳴り止んだのを確認し。フェンリルは背の高い男性と、小さな少女の足音を追う。
「あのタイミングで相手の宝石魔術の効果が切れていなければ、不味かったわね。」
幼い声がフェンリルの耳に届く。
「左様ですな。近距離戦で、狂化された相手と戦うのは、老体に堪えるものがございます。」
それは老人の声であり、私の予想が近いことを示唆していた。
「今の所、タネが暴けているのは、さっきの狂化魔術と朝の防御魔術。他に宝石持ちのペアが、あの学校に隠れている。ということで良いわね?」
「ええ。概ね間違いありません。」
二人は館のような建物へと入っていく。表には、市立西図書館と書かれている。二人は正面口からではなく、側面の、普通の家屋の大きさのドアへと向かって行った。
フェンリルは図書館の外壁から、二人が館の入り口へと向かっていくのを見ていた。
その刹那、老人の銃口が私へと向き、発砲音が鳴り響く。
私は透過魔術を解除し、シールドを集約して、身を守る。
「流石に鼠をタダで帰すほど、私は寛容ではございません。」
と、老人は呟き、私の方向へと振り向く。その老人の正体はアールネだった。私は小さく舌打ちし、再び塀の裏へ潜り、透過魔術とともに、琴音の家へと、一直線に逃げた。あいつがアールネなら、私一人で戦っても、勝ち目は無いだろう。
「おや、防御されてしまった上に、一直線に逃げられてしまうとは。」
アールネがフェンリルが居た方向を見て、呟いた。
「不思議ね。どんな従者や主でも、探りを入れるべく、掛かってくる筈ですのに。」
「いやはや、宝石魔術も相まって、厄介な相手ですなぁ」
「その割には、楽しそうね。」
「……老人をからかってはいけませんよ。主殿。」
主の小さな少女が、館の入り口へと、ゆっくり歩いていく。アールネは、笑みを浮かべたまま、彼女の数歩後ろを付いていった。