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泡沫戦争メモワール  作者: ハル
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第五話 宝石魔術

第五話。フェンリルvsリリス


「── ま、そいつを仮に落とした所で、証拠は無い。それは君を落としても一緒のことだ。俺が突き落とした証拠は無い。殺れ、リリス。」

彼のその言葉に呼応しリリスが右に映り出る。

優希は腕を強く握りしめ、竹垣とリリスを睨んだ。


リリスが杖を振り上げると、赤く、球体を成す球が4つほど浮かび上がる。

そこへと集まる風は、昨日よりも強く感じた。

ジェット機が起動するように高い金属音がリリスの球体へと集約していく。優希は虎視眈々とそれを睨んでいた。それは人を殺すには充分な威力だと、優希の直感が悟っていた。

リリスの口元が静かに笑う。優希へとその砲弾を放とうとしたその時、屋上のフェンスの向こう側からフェンリルが現れる。竹垣とリリスは氷を生成する音で気づき、はっと後ろを振り向く。フェンリルは2対の剣を手に持ち、生成した氷板を蹴って、軽やかな身のこなしでリリスを斬り、優希の前へと着地した。

『何勝手に敵の目の前まで駆け込んでるんだ。』

『ごめんごめん。下にアレが有ったものでつい......。』

優希とフェンリルは水面下で言葉を交わす。リリスを見ると、黒いローブの首元が、朱に染まっているのが見えた。リリスは左手で傷口を抑えている。

「流石に1撃じゃ殺せないか......。」

フェンリルの小さな呟きののち、フェンリルは狼が獲物へと飛びつくようにリリスへと襲いかかる。リリスは近接攻撃を杖で受け太刀しながら、球体の物理攻撃魔法を使い、フェンリルを振り払おうとする。優希は竹垣へと、一歩ずつ近付いていく。もう一度対話をするべく、剣と杖がぶつかる音に遮られない距離へと。

しかし、その目論見は叶いそうになかった。フェンリルが優希の隣まで、氷のシールドを張り引き下がっていた。

『この陣地の効果が分かった。この結界内だと、周りの人間のエナジーがあいつに行くんだ。』

フェンリルが優希へ言う。

『やっぱり、この中じゃ、ダメなのか。』

『いや、まだ何とかなる大きさだ。今リリスの魔力の大半は、首の応急処置に当たっているし、何よりもリリスにエナジーを供給する人間が少ない。』

時刻はまだ朝の8時前。学校に居るのは朝練の生徒と教員だけだ。つまり、皆が集まり出す15分以内を目処にリリスを倒せなかった場合、しっぽを巻いて逃げなくちゃならないってことだ。

『屋内で戦いたいとこだが......。』

フェンリルが再びリリスへと飛びかかる。二対の剣先が、リリスの肌スレスレを抜けていく。リリスの口元の表情を見ると、どうやらフェンリルの剣にはついていけないようだ。それは竹垣も承知のようだった。

「終わりだ」

フェンリルはリリスを剣でフェンスに押し付ける。フェンリルの背の方向には、鋭角状の氷柱のようなものが、リリスに向かっていた。けれど、リリスの口元は不気味にも笑っていた。そして、リリスは自分の体ごと、黒い針のような槍を、彼女とフェンリルの腹に刺し、

「そうね。終わりね。私も、貴女も......。」

と言った。力の集まり具合から、リリスが自爆すると、優希の直感は判断した。優希はフェンリルへと駆け寄り、

「危ない!」

優希はリリスの黒槍を手につけ、横へ向けるように力を入れた。そして、フェンリルを横へ強く押し倒し、地面を転がった。背後から爆音が響いた。優希が後ろを振り向くと、竹垣がリリスへ駆けつけているのが見えた。

「おい! しっかりしろ!」

リリスの体を揺さぶりながら、竹垣は声を掛けた。

「......すみません......。油断......してました......。」

その言葉を最期にリリスは動作を止めた。操作する人を失ったような操り人形に。

優希は後ろの光景を見て、はっと我に返り、

「フェンリル! 大丈夫か!?」

身を離すと、彼女の腹から、血が滴り落ちているのが分かった。

「ああ......。死にはしないが、今日はもう戦えないな。」

なら良かったと優希の表情は和らいだ。しかし刹那、


「──!」


背後に響いたのは銃声だった。そして、倒れていたのは、頭を撃ち抜かれた竹垣だった。

そして、竹垣の頭の傷口の元を辿ると、その傷口の延長線上の位置から、パッとこちらに光を放っているのが見えた。それが何かは、すぐに分かった。優希の顔は冷や汗でいっぱいになった。彼は死を悟った。


ここで、死ぬのか? 結局、何もわからず、何も残せずに......。

それを否定する心の声を発した時、目の前で轟音が響く。橙色に光る六角形のシールドが銃弾を受けとめていた。その銃弾に込められたエナジーの量は、シールドから漏れる光量で一目瞭然だった。



「ほっほっほ。あの召喚士の方が一歩早かったようだ。」

乾いた笑い声と作り笑顔を浮かべた白髪の老人は、優希のシールドを、スコープ越しに見て言った。

「......防御って言うことは、ポセイドンの宝石ね。それに、防がれたなら、もう一発撃てばいいじゃない。」

小学生中高学年の少女が、垢抜けない顔とは裏腹に冷淡に、重い口取りで言った。

「主殿。狙撃というものは撃つ環境で当たるかどうかが決まっております。流石にこの距離ではもう当たらないでしょう。それに、」

「わたしの宝石魔術も時間切れって言いたいのよね。」

「左様。今日は一旦下って策を練りましょう。別の宝石持ち召喚士だって、もう所在は割れているのですから。」

「そう。アールネ翁がそう仰るなら、仕方がないわね。」

少女はアールネの手を取り、風と共にどこかへと消えていった。


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